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搾りかすが栄養の宝庫だった!アーモンドの残渣から生まれた「アーモンドミール」のスゴいパワー

2022.09.26

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

アーモンドの種子に比べ食物繊維、たんぱく質が約2倍もある「アーモンドミール」

明治35年に創業した、愛知県岡崎市の「太田油脂」は、「何でも搾ります」をコンセプトに多品種の油を生産しているが、一躍その名を知られるようになったのは、日本初のえごまオイルの食用化。えごまオイルのパイオニア企業として、オメガ3の有用性について同社は広く啓蒙してきた。

創業120周年を迎えた太田油脂は、オイルにとどまらずシード・ミール素材の開発提案型企業へ転換、油づくりを起点としたフードテックを推進し、アーモンドオイルの搾りかすから作ったアップサイクル素材の「アーモンドミール」を発表した。

油は種子や胚芽から搾油するが、アーモンドの種子から搾油したものがアーモンドオイルでその搾りかす(ミール)をパウダー化。搾油後なのでカロリーは減少、アーモンドが持つ栄養素が凝縮され、アーモンドの種子と比べ、たんぱく質、食物繊維が約2倍もある。

同社では栄養価に優れたアーモンドミールの利用価値を高めるため開発を進め、新しい素材として喫食を可能にした。食物繊維、たんぱく質が豊富で手軽に摂れるという特性を活かして今後は商品化を進めていく。

アーモンドミールを使った初の商品が、「marutaのおやつ」の新シリーズ「CLEAN LABEL」 の「CLEAN LABEL キューブクッキー 日向夏」(11月末発売予定)で、歯ごたえのある米粉とアーモンドミール、国産の日向夏を使用したクッキー。同時期に発売予定の「CLEANLABELキューブクッキー ココア」にもアーモンドミールを使用している。

玄米ご飯と野菜中心のメニューを提供する「実身美(サンミ)」が監修した、アーモンドミールを使った「アーモンドミール入り ハニーパンケーキ」「アーモンドミールとココアの生チョコ風」の2レシピが紹介された。「生チョコ風」は10月1日より実身美大手町店にて数量限定で販売される。

「ギルドフリーのパンケーキは粉の2割にアーモンドミールを使用することでカロリーオフにもなり食物繊維も摂れます。アーモンドミールパウダーは食感も風味も他の素材の邪魔をしない印象で、パンケーキ同様、粉ものにアーモンドミールを使ってお好み焼き、パウンドケーキ、クッキーと応用できます。

生チョコ風にはアーモンドミールを20g使用。チョコレート、卵、バター、砂糖、生クリームを使わないお菓子で、はちみつとアーモンドミール、ココアパウダーのみを使用しています。通常はちみつだけだと固まらないのですが、アーモンドミールの繊維によりチョコレートのように固まるので、まるで生チョコのような見た目に仕上がります」(実身美 代表 大塚三紀子氏)

少量で健康や寿命に貢献するナッツ&シード類

日経BP総合研究所客員研究員、サルタ・プレス代表 西沢邦浩氏から、ナッツ&シードに期待できる健康効果や可能性が発表された。

WHOがまとめているビッグデータから、どんな食事が健康寿命に影響を与えるかを調べた研究では、健康寿命を短くする因子として4番目に挙げられたのがナッツやシードの摂取不足。野菜不足や魚油不足よりも影響が大きいことがわかった。

同じビッグデータを使って行われた食事と健康に関する多くの研究から、寿命を延ばす食事を分析した結果では、「豆類を増やす」「全粒穀物を増やす」「ナッツを増やす」を早く始めるほど、寿命が延びることがわかった。実際にナッツ摂取量を増やすと、女性で1.7年、男性で2年寿命が延びるという研究がある。

主食と違い、少量で健康や寿命に貢献するのがナッツ・シード類の大きな特長。肥満大国のアメリカの調査で、1日14gナッツ摂取を増やしただけで体重増加が少なくなり、肥満リスクが低下。中でもアーモンドのように木に生るナッツの方が、効果が高いという傾向があった。

56種類のナッツの分析でも、アーモンドだけが確実に体重を減らす効果があるという結果が出た。2型糖尿病患者が150gの主食を56gアーモンドに置き換える低炭水化物ダイエットを3か月行った結果、腸内細菌叢が変わり、血統調整ホルモン(GLP-1)が増え、糖代謝とうつスコアが改善された。

ナッツを1日1サービング(28g)食べるだけで多くの疾患による死亡率が低下することがわかり、世界の食事ガイドラインでナッツは「毎日食べるもの」に入れている。(※下記画像は2019年に発表された1日の必要な栄養摂取のガイドラインを示したカナダのフードガイド)

「良質な脂質を多く含み、アーモンドやピスタチオ、マカダミアナッツはオメガ9系(オレイン酸)が多く、くるみはオメガ3系(α-リノレン酸)が多く含まれます。食物繊維高含有で高たんぱく質。ビタミンEやポリフェノールなどの抗酸化物質、マグネシウム、カリウムなどのミネラルが豊富と、ナッツは現代人が摂りにくい栄養素の宝庫です。

しかし日本の食事ガイドでは、ナッツ・シード類、全粒穀物は一切触れられていません。こうした状況で、太田油脂のような企業が素材を提供し、国民にナッツの重要性を広く知ってもらうことは大切です。

さらにアーモンドミールの栄養素はほぼ半分がたんぱく質。代謝に関わるミネラルであるマグネシウムも豊富。さらに食物繊維も100g中に20gも含まれます。高食物繊維、高たんぱく質と、今まさに求められている成分が2つとも多く摂れる、こうした素材はあまり見たことがありません。それが搾油の残渣から作られるというのが、アップサイクル素材の可能性を典型的に示していると思います」(西沢氏)

アーモンドミールに多く含まれる食物繊維は腸内環境にどう影響する?

太田油脂と共同研究を進めている、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 國澤純氏から、アーモンドミールに多く含まれる食物繊維と腸内環境の関係性について発表された。

腸内環境を良くするために摂りたい食物繊維が体にもたらす働きは、以下のようなものが挙げられる。

○胃腸の中で水分を吸収しながらゆっくりと移動するため満腹感が続き食べる量が減る。○余分な脂肪として蓄積される糖や油の吸収をおだやかにし、血糖値の急激な重傷を抑制する。

○最初に食べる食事(朝食)で食物繊維を多く摂ると、次の食事(昼食)の血糖値が上がりにくくなるセカンドミール効果がある。

○腸内細菌に分解されて「短鎖脂肪酸」が作られる。短鎖脂肪酸は腸のエネルギー源になり腸を活発に動かし、腸内細菌の消化だけでなく免疫機能を整える、脂肪がつきにくくなる、病原菌や悪玉菌を減らして善玉菌を増やすなど、腸内環境を良くする働きがある。

しかし、食べているつもりでも意外と足りないのが食物繊維で、20~50代だと目標値の3分の2程度しか摂れておらず、男女とも1日当たり5~6g足りていないという状況だ。

医薬基盤・健康・栄養研究所では、健康な人の生活環境と腸内細菌叢に関する研究を行っており、日本の各地域の食事、運動、睡眠といった生活習慣、健康診断データ、病気や服薬の状況、血液、便、唾液からの腸内細菌、代謝物、生体機能や免疫機能を調べてデータベース化し解析を行っている。

その中で、大阪府は男女とも野菜全般が足りず繊維不足の状態で、1日350gの目標値の半分程度しか摂っていなかった。山口県周南市は海も近く、新鮮な魚が食べられる土地にもかかわらず20~30代はあまり魚を食べていないことが判明。大阪よりもさらに肉食タイプの人が多いことがわかった。しかし大阪と異なり山口は緑黄色野菜を多く食べる傾向があるものの、根菜などの緑黄色以外の野菜が少なく、野菜不足という認識がないまま食物繊維不足になっている実態がわかった。

「調査の結果はレポートとして一般に発表し、報告会も開催、健康診断の際にも活用して、データのフィードバックによって行動変容に繋げています。

しかし、食物繊維不足とわかっても行動変容につながらないケースも多く、よく使う食材や調理方法を変えるのは面倒で、継続しないことがあります。意識せずに手軽に食物繊維が摂取できる方法が必要と考えていますが、新素材のアーモンドミールはこうしたニーズに応えることができるのではないかと期待しています。

食物繊維不足に加え、たんぱく質不足も課題です。特に若い女性は痩せすぎで、太るのが怖いとフレイル(虚弱)のような状況になっています。あまり肉が食べられない高齢者もたんぱく質不足でフレイルにつながっています。高齢化社会では、運動機能を維持して元気で長生きをしたいという高齢者にたんぱく質の利用効率を高めることは重要なのです。

アーモンドミールは現代人が摂りにくい食物繊維、たんぱく質の両方がセットで摂れる、非常に期待できる食材といえるでしょう」(國澤氏)

【AJの読み】「アーモンドミールパウダー」として市販化されることを望む

太田油脂では、油脂生産の副産物である菜種の油かすを活用した機能性飼料を販売しており、牛、豚、鶏のえさとして利用されている。アーモンドミールも搾りかすである残渣を再利用したものだが、喫食できるだけでなく、栄養価がとても高い素材であることがわかった。現代人に多い食物繊維、たんぱく質不足の解消に期待できる新素材として、また資源循環のアップサイクルとしてSDGsの観点からも注目される。

アーモンドミールを20g使ったハニーパンケーキはアーモンドの香ばしい風味と、ほんのりとした甘味でしっとりとした食感。はちみつやベリーソースをかけてもおいしい。

生チョコ風は、アーモンドをココアパウダーとアーモンドミール、はちみつで練ったものでコーティング。食感はしっとりとした生チョコのようで、ほろ苦い味わいとアーモンドの風味が相まって、チョコレートはあまり食べない筆者でもつい手が伸びてしまうほど。アーモンドの香ばしさが活かされるのも、アーモンドミールの特徴だ。

現在は「CLEAN LABEL キューブクッキー」以外の商品化は発表されていないが、「アーモンドパウダー」として販売されれば、一般の家庭でも使いやすい食材となるだろう。早期の商品化を望んでいる。

文/阿部純子

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