「偏見」。それが此度の記事のテーマである。
とはいっても、社会時事に切り込むような重い報道記事では決してない。ここでは「新技術に対する偏見と受容」について書くつもりだ。
我々21世紀を生きる人間は、誰しも例外なく「電動」の恩恵を受けている。それまではガソリンエンジンもしくはディーゼルエンジンで動いていたものが、まさに日進月歩の勢いで電動モーターに置き換わりつつある。
無論、その流れは自動車にも及んでいる。
100kgにも満たない電動オフロードバイク
東所沢駅からバスに乗り、Bivouac所沢×stradaというオフロードバイクショップにやって来た。
今年7月にオープンしたばかりのショップ故に、内装が真新しい。そしてここには『CAOFEN』というメーカーの電動オフロードバイクがあるそうだ。
「現在、Makuakeで予約を受け付けているのはF80 STREETとそのロングレンジ版、そしてF80 OFF-ROADの3種類です。STREETは原付二種扱いの公道仕様、OFF-ROADは競技用です」
そう語るのは、株式会社バトンTrading Bivouac所沢×strada店長の渡辺健氏である。
「やっぱり“電動バイクだから”という偏見というか、先入観は持たれますよ。ガソリンエンジンよりも弱々しくて、トルクも出ないだろうという先入観です。でも、それはこのF80に乗った瞬間になくなります」
見た目はどうも華奢で、まるで自転車の延長線上のような見た目のF80。重量はF80 STREET ロングレンジが85kg、F80 OFF-ROADに至っては僅か75kgである。
ホンダのスーパーカブC125の車両重量が110kgだから、F80は異様なまでの軽さを誇るバイクだということが分かる。
が、いささか頼りない体躯のこのバイクが、人間をひとり乗せた状態で80km/h以上の最高速度を発揮するそうだ。
「澤田さん、乗ってみますか? トルクも速度も申し分ないことが理解できるはずですよ」
偏見を覆すトルク
筆者はヘルメットを装着し、恐る恐る公道仕様のF80に跨る。
念のために書いておくが、筆者は二輪免許所持者。決して無免許で乗り回してみた、という内容の記事ではない。
「澤田さん、肩の力を抜いて。扱い方自体はスクーターと何ら変わらないですから!」
F80は「跨るバイク」だが、同時にこれは電動バイク。即ちクラッチやフットペダルがない。両手のレバーは、いずれもブレーキである。
とりあえずショップから東所沢駅までの数kmを、筆者ひとりで走ってみることにした。
まず感じたのは、トルクである。アクセルを回すと「ドン」と発生するパワー。これは先に書いた「電動の先入観」を間違いなく覆すレベルだ。
走り出しの力強さは、筆者が所有しているスズキ・グラストラッカービッグボーイ(250cc単気筒)を凌駕してしまうかもしれない。
原付二種の法定速度である60km/hなど、あっという間だ。
というわけで東所沢駅までの道程でゼロヨン加速をやってみた……というわけにはいかないが、一般道を進むくらいなら十分過ぎる性能である。
車両重量の軽さも相成り、街乗りに関しては「並ぶものはいない」と表現できるのではないか。
この加速に慣れるまでは、走り出しの直前に恐る恐るブレーキを開く操作をしなければならない。それだけのパワフルさを誇る、ということだ。
そして電動バイク特有の静音性も、記述しなければならないだろう。
当たり前だが、エンジン音などというものはない。走行中の筆者の耳に届くのは、殆どが「風を切る音」である。
これは当初は違和感として胸に広がるが、そのうちに電動特有の静けさが快感になってしまう。
将来的に、ガソリン車が電動車に完全駆逐されることはないだろうというのが筆者の見解である。
ガソリン車はガソリン車ならではの特性、そして不動の支持があるからだ。
が、同時に電動車がガソリン車に勝る部分も知っておく必要はあるし、二輪車の世界にも電動の波が押し寄せていることに変わりはない。
日本向け保安装置を搭載
科学技術の知識など皆無の筆者が、なぜテクノロジーメディアやガジェットメディアで筆を執っているのか。それは「乗り物の記事」の内容に大きな不満を持っていたからだ。
2015年頃のアメリカ、特に西海岸の都市では電動バイクや電動キックボード、電動スケートボードがブームになっていた。
それは日本のテクノロジーメディアにも波及し、「ロサンゼルスのスタートアップが開発したこの電動バイクがすごい!」というような記事が、まるで量産品のように配信されていた。
それ自体は別に構わない。しかし、その乗り物は日本の公道で走らせることができるのか?
日本語のメディアで日本人読者向けに書いているのなら、そこをしっかり書かなければ「個人輸入した電動バイクで公道を違法走行する」ということが起きてしまうのではないか?
つまるところ、そのあたりの不満から筆者は「なら、自分で記事を書いてみよう」と思うに至ったわけだ。
そして残念ながら、「個人輸入した電動バイクで公道を違法走行」という点は7年前の懸念通りになってしまった。
電動バイクや電動キックボードなどを海外の業者から購入し、それを保安部品のない状態で公道を走行する例が相次いでいる。
「F80の公道仕様車は、もちろん保安装置が搭載されています。ウインカー、バックミラー、常時点灯するヘッドライト、そしてナンバープレートを設置するスペース。一方でF80 OFF-ROADには、そういう装備はありません。従ってこちらは、モトクロス等の競技場までトランポする形での利用になります」
「本物のバイク屋」の意義
バイクに対してこの表現はあまりよろしくないかもしれないが、F80は自転車感覚で乗ることができる乗り物だ。
軽さと細さ、そしてリアサスペンションの質。が、やはりこれは「モーターで動くバイク」である。
「どうせ電動だろ?」という具合にナメてかかったら、高確率で怪我をするだろう。
とにかく、このF80の走り出しは「驚異的」の一言に尽きる。オフロードでも多少のラフロードでも、十分使えるはずだ。
だからこそ、こうしたものはネットで販売するにしても、必ず「本物のバイク屋」の手を通っていなければならない。
東所沢駅からショップに引き返した筆者は、渡辺氏とのバイク談義を展開した。筆者の取材はいつもこのような「雑談」になってしまうのだが、それはそれで大事な話をいろいろ聞くことができる。
そもそも、「バイク屋のとっつぁん」とこうして話ができること自体、今の時代においては貴重な瞬間ではないか?
バイクブームに湧いていた80年代の日本では、どの町にも必ず個人経営のバイクショップが存在した。
そこには新登場の車種の乗り方や注意点、ツーリングでの走り方を事細かに教えてくれる店長がいて、彼らは警察官に代わる「安全指導教官」でもあった。
2022年の現代、そうした地域密着型のショップは激減する一方で、クレジットカードさえ持っていればワンクリックでバイクを購入できるオンラインプラットフォームが確立した。
しかし「バイク屋不在の車両売買」は、時として大事故にもつながってしまう。
その点、F80は「本物のバイク屋がMakuakeのプラットフォームを使って商品展開している」という形なので、安心が担保されている。
こうしたことは、筆者が他の何よりも読者に訴えたい点でもある。
そんなF80の公道仕様車は66万4,640円(一般販売予定価格83万800円)から、競技専用車は60万8,640円(一般販売予定価格76万800円)からの価格で予約を受け付けている。
【参考】
ワンクラス上の加速と走りを実現!CAOFEN電動オフロードバイク-Makuake
取材・文/澤田真一