SDGsへの取り組みが世界的に各業界で広がるなか、高級ホテル業界でも活発になっている。ホテル居室のアメニティの脱プラだけでなく、滞在することでSDGsに貢献できるホテルやプラン、参加することで意義が生まれるプログラムも生まれている。
今回は、特にSDGs達成のために力を注ぐ、3つのホテルを紹介する。
1.マリオット・インターナショナル
近年、観光ホテル業界でキーワードとなっているのが、「ウェルネス」と「サステナブル」だという。
いま、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが世界で盛んになる中、ホテルの選択基準も変化している。コロナ禍での世界的な健康意識の向上を背景に、旅行先でも心身の健康を意識し、積極的に運動に取り組む人が増加傾向にあることがIpsos MORIの調査(※)でも分かっている。
また世界的に「サステナブルツーリズム」のトレンドもあり、訪問先や宿泊施設を検討する際に、サステナブルな取り組みを行っていることを重視する人が増えているといわれる。
世界各地で「マリオット」や「ザ・リッツ・カールトン」などのホテルブランドを運営する米国発マリオット・インターナショナルでは、そうした旅のトレンドの変化をいち早くとらえ、新たなコンセプトのホテルやプログラムを用意して対応している。
※Ipsos MORI(トリップアドバイザーの委託により調査を実施)「2022年の旅行動向:今後の展望」
今回は同社のSDGsにまつわる取り組みについて、日本・グアム担当 エリアヴァイスプレジデントであるカール・ハドソン氏にインタビューを行った。
●ウェスティンホテル横浜~テーマは「SDGs×ウェルビーイング」
同社の取り組みの一つが、2022年6月13日に開業した「SDGs×ウェルビーイング」をテーマとする「ウェスティンホテル横浜」だ。心身ともに健康な状態であることを表す“ウェルビーイング”をコンセプトに据え、プールやフィットネススタジオ、スパなどを兼ね備えた1,000平米超の広さを誇る「総合ウェルネスフロア」がある。
同ホテルについて、カール氏は次のように話す。
「富士山を一望できるほか、緑の壁“グリーンウォール”を施すなど、ホテルデザイン自体が環境を念頭に置いて作られています」
「SDGs×ウェルビーイング」の“SDGs”は、主に目標12「つくる責任 つかう責任」の目標達成に寄与するものだという。“ウェルビーイングに”ついては、具体的にどのような取り組みなのだろうか?
「例えば、電気機械にセンサーを入れ、人がいる場合にのみ電気が付くシステム採用により、節電につなげています。
また食材の75%は地産地消を目指し、ホテルから100キロ以内で生産された食材を使うようしています。これにより、食材輸送時のエネルギー消費を軽減できます。地元地域の8,000以上あるホテルでそれぞれ地元地域の人々を採用して巻き込み、地域コミュニティとパートナーになっていただくことで、地域をより良くしていくことを目指しています。
オールデイダイニングであるカジュアルフレンチレストランのブラッスリー・デュ・ケでは、海洋汚染防止策として、水と洗剤を使う洗濯が必要なテーブルクロスは使用していません。
また脱プラスチック対策としてペットボトルゼロポリシーを掲げ、客室アメニティには極力プラスチック容器の使用を避け、飲料水にはマリオットグループ初の取り組みとして、世界で最もサステナブルな水と評されるノルダック・プレミアムウォーターを採用しました。
館内に浄水設備を併設し、客室の飲料水はリターナブルボトルに瓶詰して提供しています。マリオットグループとして取引先を決めるときも、環境への取り組みをプレゼンしてもらい、決定しています。環境への取り組みに関して共感できない場合は、大企業であっても取引をしないことにしています」
「ウェスティンホテル横浜」フレンチレストラン「ブラッスリー・デュ・ケ」
●地域コミュニティの活性化と環境保全をテーマとする体験型プログラムの実施
また2021年より、地域コミュニティの活性化と環境保全、海洋保護への取り組みをテーマにした体験型プログラム「Good Travel with Marriott Bonvoy」を世界各国で提供している。ここでは主な取り組みを3つ紹介する。
(1)シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル「ランニング×ゴミ拾い」
千葉・舞浜に位置するシェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルでは、「シェラトン・プロギング体験 with On」を実施している。
カール氏は次のように解説する。
「プロギングは、スウェーデン語の『plocka upp(拾う)』と英語の『jogging(走る)』を合わせた造語で、ジョギングしながらゴミを拾うアクティビティプログラムです。地域コミュニティの活性化と環境保全への取り組みをテーマにした体験型プログラムで、将来的に国内は3ホテル、アジアでは100ホテルで取り組みをすることを目標としています。
またシューズブランドとコラボすることで、ランニングシューズを持っていなくてもスタイリッシュで快適な靴をレンタルできるようにしています」
(2)ザ・リッツ・カールトン京都「寺の清掃」で地域保全
宿泊客に、京都市北区にある瑞峯院における「朝のおつとめ」体験を提供。読経と瞑想、寺院の掃除に参加した後、お茶室で僧侶からお抹茶が振舞われる。参加費の一部は瑞峯院へ寄付され、 寺院の保存のために使われる。
(3)ザ・リッツ・カールトン沖縄「珊瑚の苗づくり」で海洋保護
近年、海洋環境は悪化しており、何年にも渡り、珊瑚は白化現象と死滅が引き起こされている。そこで宿泊客に、珊瑚の苗づくりを通して珊瑚礁の役割や海洋保全ついて学ぶ機会を提供している。
●ホテル事業全般のSDGsへの取り組みについて
マリオット・インターナショナルとしての取り組みについて、カール氏は次のように述べる。
「当社は、世界中に展開するグループとして常にSDGsとサステナブルを念頭に置いて行動してきました。ホスピタリティ産業として、食に関するリサイクルには挑戦し続けています。私の入社当時の25年前から厨房では分別がしっかりされており、食品廃棄物は建物内の小さな庭でハーブや野菜の肥料として再利用してきました。
また、あらゆる文化、地域においても必ずサステナブルでポジティブな影響を社会に残すこと、SDGs達成の二つを念頭に活動してきました」
●今後のホテル事業におけるSDGsへの取り組みの展望
今後のSDGsの目標達成への展望として、カール氏は、次のように述べる。
「グループとして、2025年までに水15%、炭素30%、廃棄物45%、食品廃棄物50%削減の目標を掲げています。また、650ホテルすべてがサステナビリティの認証を取得すること等を掲げています。
また2050年までにネットゼロ(温室効果ガスを差し引きゼロ)を重要視しています。小さなことからでもできることをやらなければならないと考えます。国々が直面している問題には、マリオットグループとしても真剣に取り組んでいます。まずは何がごみで、何が捨てられないか、何がリサイクルできるかを理解することが大事と考えています」
ホテルのSDGsへの取り組みというと、ホテル内での取り組みばかりがイメージされるが、同社は周囲環境や地域貢献という幅広い範囲で、SDGsへの貢献を行う仕組みは特徴的と言えそうだ。
2.THE THOUSAND KYOTO(ザ・サウザンド京都)
2019年1月、JR京都駅徒歩2分の場所に開業した「THE THOUSAND KYOTO(ザ・サウザンド京都)」は、2022年7月1日にリブランドを行った。新たなブランドコンセプトとして「千年ホテル」を掲げ、今後は「“千年の都・京都”から“次の千年”につづく新しい心地よさで、快適さとサステナビリティを追求した感動体験」を届けていくという。
具体的には「千年ホテル」ならではの快適×サステナブルな体験やアクションを実施する。奥深い京都の文化や自然との共生を楽しむアクティビティの提供、そして今年1年間で100のSDGsアクションを実施する。
100のSDGsアクションについては、リブランドした7月時点ですでに50項目を実施しており、2022年12月までにさらに50のアクションを実施する。
例えば、次のアクションがその一部となる。
●100のSDGsアクションの例
・認証:国内の宿泊施設として初の「An ESG Practice認証」の「3御衣黄ザクラ」を取得
サステナブルツーリズムの国際基準GSTCに承認された「An ESG Practice認証」において、2022年5月に「国際的に認められるSDGsの取り組みを実践する宿泊施設」として認証された。国内の宿泊施設としては初という。
・プラスチックフリー:竹製カードキーの導入、アメニティ刷新
館内のプラスチックフリー推進の一環として、ホテル客室のカードキーをプラスチック製から竹製の素材に変更した。また客室内に歯ブラシなどのプラスチック製アメニティを設置せず、お気に入りのアメニティを持参しての「ライフスタイル型」の滞在を提案している。
・再資源化:京都市内初 使用済みステンレスボトルの回収拠点に
家庭で不要になったステンレス製ボトルをホテルへ持ち込み、スタッフへ渡せば回収し、再資源化される。
・食:規格外の玉ねぎを使った食品ロス削減メニューの開発
規格外となり通常廃棄される「淡路島産玉ねぎ」をふんだんに使用したオリジナルカレーを、ホテル内のカフェ&バー「TEA AND BAR」や公式オンラインショップで販売中。
・自然との共生:ホテル屋上での都市型養蜂
京都のホテルでは初めてとなる屋上での都市養蜂プロジェクトを実施。
●100のSDGsアクション実践の背景
THE THOUSAND KYOTO総支配人の櫻井美和氏は、100のSDGsアクション実施の背景について次のように述べる。
「SDGsが当たり前になる世の中で、個人の快適さだけでなく、自然や文化、社会にとっても心地よい消費へとニーズがシフトしています。京阪グループでは、2020年より『BIOSTYLE PROJECT(ビオスタイルプロジェクト)』として、グループ各社で社会課題解決に向けた取り組みを行ってまいりました。このたび、その姿勢をより強固なものにするため、フラッグシップホテルである当ホテルのコンセプトを『千年ホテル』へアップデートし、千年の都・京都から次の千年につづく新しい心地よさで、快適さとサステナビリティを追求した感動体験をお届けしていく、リブランドを実施いたしました。
京都駅前・千年の都に生きるサステナブル・コンフォート・ホテルと自らを位置づけ、ホテル全館一体となり変化していくなかで、100のSDGsアクションに取り組んでいます」
そのアクションの一部について、櫻井氏は次のように解説する。
「An ESG Practice認証取得については、THE THOUSAND KYOTOのお客さまに付加価値をお届けするとともに、『自分たちのお気に入りのホテルは、環境・社会・働く人に配慮した方法で事業運営をしている』という支持・共感を持っていただけるものだと考えています」
「ステンレス製ボトルを通して持続可能な社会の実現に寄与する取り組みについては、タイガー魔法瓶株式会社とコラボレーションし、不要ステンレス製ボトルの回収のほか、滞在中に人権・健康・環境に配慮して製造されたオリジナルボトルの貸し出しを開始し、旅中でのペットボトルの消費削減を促しています」
「都市型養蜂については、2021年5月にホテル屋上にミツバチの巣箱を設置し、京都のホテルでは初めての取り組みとなる『都市養蜂プロジェクト』を始動させました。そして2022年に、ホテルスタッフが大切に育てたミツバチからの恵みであるはちみつを採取。瓶詰での販売や、ホテルレストランでのメニュー提供を行っています。本取り組みは、ミツバチを飼育することで生物多様性の保全に貢献し、副産物としてのはちみつを採取して、地産地消の取り組みも進めていくものです」
●サステナブルに関する考え方
同ホテルは、サステナブルに関する次のような考え方を持っているという。
「THE THOUSAND KYOTOは開業当初から、華美よりも自然、贅沢よりも品質、権威よりも自分らしさを大切にしてきました。
過去の概念や格式にとらわれず、スマートかつ合理的な判断で、新しい豊かさを選択できる人々。我慢することなく、楽しく、かっこよく社会貢献したい。エシカルな企業・ブランドに賛同し、千年続く心地よさ=コンフォートに共感する。そんな方々に愛される場となることを目指しています。
何かを削ったり、我慢したりする『義務としてのサステナブル』ではなく、お客さまがワクワクする、嬉しい感動体験となるような『魅力としてのサステナブル』を提供することを意識しています」
●今後の展望
今後、サステナブルやSDGsという観点からはどのような取り組みを行っていく展望があるだろうか。
「私たちは『一泊のTHE THOUSAND KYOTOの滞在が、京都、ひいては世界にポジティブな影響を与える』とお客さまに感じていただけるようなホテルを目指しています。この目標をさらに高いレベルで達成するため、今後もさまざまなアクションに取り組んでまいります」
100のアクションを一年間という期限を決めて実施する取り組みは、とても参考になるアイデアと感じた。SDGsは2030年までの目標達成を目指すものだが、自ら短期目標を掲げることは、より有意義な成果をもたらしそうだ。
3.横浜ロイヤルパークホテル
横浜ランドマークタワー内にある横浜ロイヤルパークホテルは、横浜市SDGs 認証制度「Y-SDGs」において、2022年7月29日付で最上位認証事業者“Supreme(スプリーム)”を取得。横浜市内のホテルで初という。
環境に優しい「生分解性ストロー」や、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入する認証ワイン、国際フェアトレード認証コーヒーを導入したり、建物内で使用した雑排水、厨房排水を浄水処理し、トイレの洗浄水として使用するなどの取り組みを実施している。
認証取得の背景について、株式会社ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ 横浜ロイヤルパークホテル マーケティング部の若井理恵子氏は次のように述べる。
「企業がSDGsに真剣に取り組むことは、今や急務であると考えられており、ホテルにおいても同様と考えております。国連世界観光機関(UNWTO)は、『SDGsのすべての目標に対して、観光は直接的、または間接的に貢献する潜在力がある』と宣言しており、当ホテルも持続可能な開発目標の達成に向けて、重要な役割の一端を担っていると考えております。
また、当ホテルは横浜・みなとみらいのシンボルである横浜ランドマークタワー内にあることから、我々が先進的に取り組むことで、地域全体の意識向上に貢献できればとも思っております」
●SDGsの取り組み
具体的な取り組みについて、主なものを見ていこう。
・【食品ロスの削減】
「クラブラウンジでは、消費期限が近いなどの理由で、本来は破棄されるデリカ&ラウンジ『コフレ』のブレッドを有効活用し、朝食時に無償提供しております。また、環境省が推奨する3010運動に賛同し、ご宴会の幹事様にご案内しております。3010運動とは宴会時の食品ロスを減らすためのキャンペーンで、乾杯からの30分間とお開き前の10分間は自分の席で料理を楽しみ、食べ残しを減らそうと呼び掛ける運動です」
・【サステナブルな客室改装とエコアメニティの導入】
「2022年3月に改装した客室『リニューアルレギュラーフロア』では、1993年開業当初から使用していた上質な家具を廃棄することなく、修理をして再活用しています。 不要となった羽毛布団を『グリーンダウンプロジェクト』へ提供するなど、廃棄を減らす取り組みを行っております。
また、リニューアルレギュラーフロアを含む一部の客室では、プラスチックの使用量を40%削減したエコアメニティや100%リサイクルの再生ペットボトルを使用したミネラルウォーターの導入、ロクシタン社が実施するバスアメニティボトルの回収に協力しております」
・【地産地消の取り組みの推進】
「積極的に神奈川県産の食材を取り入れ、レストランや宴会で提供しております。環境への配慮はもちろん、生産者の方とのつながりを大切にし、循環型経済や地域活性化を目指しております。また、そのような背景もあわせてお客様にご案内することで、美味しく楽しくSDGsに貢献していただくことを理想としております」
●サステナブルに関する考え方
同ホテルでは、サステナブルに関して、どのような考え方を持っているのだろうか。
「ご利用されるお客様の多くはSDGsに対する意識が非常に高く、ホテルでの取り組みの内容についてご理解いただき賛同いただいております。そのような背景のなかで、ホテルはラグジュアリーな雰囲気は保ちつつ、多様な商品を積極的に展開することで、お客様が自由に滞在スタイルを選択することができ、楽しく自然にSDGsへの貢献ができる場となれるよう常に努めております」
●今後のサステナブル関連の展望
今後、サステナブルやSDGsという観点からはどのような取り組みを行っていく展望があるだろうか。
「今後、お客様がホテルを選ぶ際に『SDGsの取り組みをしているか否か』が選択肢の一つとなるといわれております。ホテルの滞在が、お客様自身がSDGsと向き合うきっかけとなり、楽しみながら自然に貢献できる場となれば幸いと考えております。
また、当ホテルでは、2021年より総支配人を委員長とする『SDGs委員会』を発足しており、引き続きSDGsへの取り組み強化とホテルスタッフの意識向上を目指してまいります」
食品ロスから脱プラ、リサイクル、地産地消など幅広くSDGs貢献を行っている。SDGs委員会発足により、今後の取り組みの発展に期待したい。
高級ホテルといえば、手厚いサービスにより、一見、SDGsに相反することにもつながりそうなイメージがあるが、今回紹介した3社は、いずれも高級ホテルとSDGsの両立が実現できている好例といえそうだ。
取材・文/石原亜香利
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