ミッキーマウスは世界的な人気キャラクターで、その権利はウォルト・ディズニー社が保有しています。
しかしアメリカでは、オリジナルのミッキーマウスの著作権が2023年末をもって満了し、2024年以降はパブリック・ドメインになることが話題となっています。
そもそも「ミッキーマウスの著作権が切れる」とは、どういうことなのでしょうか? また、日本でもミッキーマウスを自由に利用できるようになるのでしょうか? 法的な観点からまとめました。
1. 著作権とは
著作権とは、創作物を利用できる権利を意味します。
文芸・論文・美術品・音楽などの創作物を生み出した人には、各国の著作権法に基づいて著作権が発生します。
著作権者は、創作物の複製・販売・二次創作などを行う権利を専有します。
その結果、自ら独占的に創作物を利用して他業者との差別化を図り、または他業者に利用を許諾してライセンス料を得ることができるのです。
ミッキーマウスなどのキャラクターについては、登場する映画などの作品について著作権が認められるほか、キャラクターそのものにも著作権が認められます。
2. 「アメリカでミッキーマウスの著作権が切れる」とはどういうことか?
アメリカでは、ミッキーマウスに関する95年間の著作権保護期間が2023年末で終了し、2024年以降はパブリック・ドメイン(誰でも利用できる創作物)になることが話題になっています。
「アメリカでミッキーマウスの著作権が切れる」とは、法的にはどういうことなのでしょうか?
2-1. 当初の映像作品・オリジナルのミッキーマウスの著作権が切れる
ミッキーマウスが初めて登場したのは、1928年に発表された映画『蒸気船ウィリー』だとされています。2023年末をもって切れるのは、アメリカにおける映画『蒸気船ウィリー』の著作権と、それに登場するオリジナルのミッキーマウスの著作権です。
これに対して、同じ「ミッキーマウス」という名称であっても、他の映画などに登場するミッキーマウスは、法的にはオリジナルのミッキーマウスの二次的著作物(二次創作)に当たります。
『蒸気船ウィリー』に登場するミッキーマウスと、たとえば2013年に公開された『ミッキーのミニー救出大作戦』に登場するミッキーマウスは、別の著作物だということです。
二次的著作物であるミッキーマウスの保護期間は、オリジナルとは別途に開始・進行しますので、2023年末をもって切れるわけではありません。
2-2. オリジナルのミッキーマウスを用いた二次創作が自由化される
アメリカにおける著作権が切れるのはオリジナルのミッキーマウスのみだとしても、オリジナルを用いた二次創作が解禁されるのは非常に大きなポイントです。
たとえば、アメリカでは2024年以降、ミッキーマウスと同じ見た目をしたキャラクターが登場する映画を自主製作して、それを公開・販売することなども可能となります。
2-3. ウォルト・ディズニー社の商標権を侵害することはできない
ただし、オリジナルのミッキーマウスの著作権が切れたとしても、ウォルト・ディズニー社が有する商標権は存続します。
商標権とは、商品等に付す名称やロゴなどを独占的に使用し、および他人による類似の名称やロゴなどの使用を禁止する権利です。
ウォルト・ディズニー社は「ミッキーマウス」という名称をはじめとして、ミッキーマウスに関するさまざまな商標権を保有しています。したがって、著作権が切れた後でも、ウォルト・ディズニー社の商標権を侵害する行為は違法となります。
たとえば、ミッキーマウスと同じ見た目をしたキャラクターが登場する映画を自主製作して公開すること自体は可能ですが、そのキャラクターに「ミッキーマウス」という名称を付すことは、ウォルト・ディズニー社の許諾がなければ認められません。
3. 日本でもミッキーマウスを自由に利用できるようになるのか?
アメリカにおいて、オリジナルのミッキーマウスが自由に利用できるようになるとしても、日本で同じようにミッキーマウスを自由に利用できるとは限りません。
アメリカと日本の著作権法は別であるため、日本での著作権が存続していれば、オリジナルのミッキーマウスを日本で無断利用することはできないからです。
日本の著作権法における保護期間のルールは、アメリカとは異なり非常に複雑な内容となっています。法改正が繰り返された結果、「つぎはぎ」のようなルールになっているからです。
オリジナルのミッキーマウスの著作権保護期間についても諸説あり、一例を挙げると以下のとおりです。
①1989年5月に切れたとする説
『蒸気船ウィリー』の公表(1928年)から50年+戦時加算10年5か月
②2020年5月に切れたとする説
『蒸気船ウィリー』の(共)著作者であるアブ・アイワークスの死亡(1971年)から38年+戦時加算10年5か月
③2052年5月に切れるとする説
『蒸気船ウィリー』のミッキーマウス原画の(共)著作者であるアブ・アイワークスの死亡(1971年)から70年+戦時加算10年5か月
有力とされているのは②または③ですが、②であればすでに日本における著作権は切れており、③であればまだ30年程度は保護期間が残っていることになります。
今後日本において、もしオリジナルのミッキーマウスの著作権の有効性が争われる事案が登場すれば、裁判所の判断に注目です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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