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完成度は高いのになぜか気になる部分が多いホンダの新型「ステップワゴン」

2022.09.19

 フルモデルチェンジしたホンダのミニバン「ステップワゴン」には、2種類のパワートレインが用意されている。1.5L、4気筒ターボエンジンを積んだ「STEP WGN」と、2.0L、4気筒に2基のモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載した「STEP WGN e:HEV」だ。

 エンジンか、ハイブリッドか? それぞれ乗ってみたが、違いがとても大きかった。別のクルマと言って構わないだろう。結論から言うと、予算が許すならば、断然、「e:HEV」を買ったほうがいい。「e:HEV AIR」というグレードに乗ったが、発進や中低速域など、モーターだけで走行する範囲が広いので、滑らかで静か。ミニバンの主な使い途である日常ユースでは申し分ないだろう。

 首都高速も少し走った。高速域に入るとエンジンがクラッチを介してタイヤと直結して走るが、タイヤノイズや風切音に混ざり、うるさくは感じなかった。

機械として優れているか?★★★★4.0(★5つが満点)

 エンジン版は「SPADA」というグレードだった。2台を都内の一般道と首都高速の、ほぼ同じルートで走らせたが、このエンジン版SPADAは一般道から首都高速まで常にエンジン音が目立っていた。乗り心地も荒く、小さな段差を乗り越えても、揺れがなかなか収まらない。首都高速ではエンジン回転数も上がるので音も目立ってくる上に、乗り心地も荒く、落ち着けない。価格以外で、あらゆる点で「e:HEV AIR」が優れていた。

商品として魅力的か?★★★★4.0(★5つが満点)

 ライバルのミニバンたちがフロントグリルなどのメッキを目立たせて、パッと見た目をギトギトさせているのに対して「ステップワゴン」はそうした風潮に背を向けて、都会的でスッキリしているのが大いに好感が持てる。そういうところがホンダらしい。「シビック」も「アコード」も「オデッセイ」も、始めのうちはメッキなどの飾りものではなくて、造形そのもので特色を出していた。

 新型「ステップワゴン」はインテリアでも、ホンダらしさを示している。「e:HEV」ではグレージュ系色をした織り柄のファブリック地をシートやドア、ダッシュボードなどに反復させて使っている。他の樹脂の部分もグレーの濃淡でまとめていて、シンプルでモダン。

 ここでも、ギトギトさせるのではなく、造形とマテリアル、色彩のコンビネーションでまとめ上げていて、ライバルたちとの違いを示している。シフトレバーはボタンスイッチが用いられ、空いたスペースを有効に活用している。

 しかし、その一方「SPADA」にはニョッキリとシフトレバーが生えているのにはビックリさせられた。MTではないから、走行中にいじるものではないのだから、無いに越したことがない。カタログを確かめると、ガソリン版ではすべてのグレードがシフトレバーで、ハイブリッド版はすべてボタンスイッチだ。コストダウンなのだろうか?いやいや、立派なレバーなわけだからコストアップしてしまうのではないか!?

 シート表皮やドア内張り、ダッシュボードなど「e:HEV AIR」ではちょっと凝っていたのに、この「SPADA」では黒に近いダークグレーのノッペリとしたビニール地。シートの中心部分には加工が施されているが、「e:HEV」の洒脱さには遠く及ばない。マテリアルの使い方やアレンジ方法がシンプルではなく、素っ気ないとしか言いようがない。なぜ、わざわざ造り分けるのだろうか?

 と、「e:HEV AIR」の良いところばかりが目立っていたが、弱点もあった。2列目シートには「SPADA」に装備されているオットマンが付かないのだ。付けられるのは、「SPADA」と「PREMIUM LINE」というグレードだけ。さらに、「AIR」グレードではシートヒーターをオプションでも装着することができない。ちなみに、ガソリン版もハイブリッド版もグレードは「AIR」「SPADA」「PREMIUM LINE」の3つだが、ガソリン版にはそれらの他にシートが異なる車いす仕様車とサイドリフトアップシート車が用意されている。

 造り分けることをせず「e:HEV AIR」でも「SPADA」でもオプションで選べるのは、2列目シートのサイドスライド。ベンチシートではない2列目シートを中心部に寄せたり、反対に窓側に離すこともできる。小さな子供を乗せたり、荷物を上げ下ろししたりする際に、このサイドスライドはとても便利に使える。

 新型「ステップワゴン」は、ホンダらしくライバルたちとは違ったセンスでまとめられ「e:HEV」の優秀性もあって、高く評価できる。しかし、グレードごとの造り分けやオプション設定などが複雑怪奇でわかりにくく、顧客への説得力に欠けている。スタイリングはスッキリしているのに、商品構成やオプション設定がスッキリしていないところが惜しい。

■関連情報
https://www.honda.co.jp/STEPWGN/

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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