■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、スマートフォンの中古市場について話し合っていきます。
中古iPhoneの価格も上昇している
房野氏:中古スマートフォン市場に「Back Market(バックマーケット)」というフランス発のマーケットプレイスが参入していますね。デジタル機器中古事業者向けのメルカリみたいなイメージです。
石川氏:事業者が出品できるところ。Back Marketは品質の高い「リファービッシュ品」を扱っているといっているんですが、その言い方はちょっと違うんじゃないかなと。
房野氏:リファービッシュっていう言葉が、私たちの考えるリファービッシュとはちょっと違うようですね。中古事業者がちゃんとチェックして整備した製品が、バックマーケットの基準をクリアしていれば出品していい、ということになっています。
石野氏:それって、単に中古って意味ですよね。
石川氏:そう。
石野氏:リファービッシュって、本来はきちんと整備していないと……
石川氏:我々の感覚でリファービッシュというのは、メーカーが整備して、ものによっては分解して、新しい部品やバッテリーに交換していたりするものだと思いますが、彼らは中古品のことをリファービッシュといっている。その感覚は日本市場では違うんじゃないかなと。まぁ、iPhoneの新品の価格が上がっていることもあり、中古市場も連れ高で盛り上がっているという話。ただ一方で、円安基調になったために日本からiPhoneの中古品が消えつつある、みたいな話もあります。
石野氏:そうなんですよねぇ。
石川氏:中古品はグローバルで流通するので、円安のせいで日本のiPhoneは安く買えるということで、海外の中古事業者がごっそりiPhoneを買っていったりもする。結果として中古の相場も上がっている。なので「新品が高いからやっぱり中古でしょ」 と思っていたのに、中古も値上がりしている状況。
石野氏:買い替えなどで手持ちのスマートフォンを手放す側としては、買取価格が上がってありがたい話なんですよね。高く買ってもらえば新型iPhoneの購入資金に回しやすい。
石川氏:キャリアも「Certified(認定リユース品)」で中古品を扱っていて、注力し始めている感じもある。まだまだみんな中古品を買っていくんだろうなと思います。ただ、そうなると5G端末じゃなくて4G端末を使い続けることになって、本当に業界とっていいことなのかっていうことは、ちょっと議論の余地があると思いますね。
ドコモの「docomo Certified(ドコモ認定リユース品)」
石野氏:スマートフォンの中古ってどうなんだろうな。市場は毎年伸びているんですけどね。
法林氏:iPhoneもそうなんだけど、いわゆる中古業者さん、イオシスとかゲオとかの業者さんと、メルカリ、ヤフオクの競争、みたいな感じになっている。個人がスマートフォンを買い換えて、余った端末、どうしますか? となった時に、どこで手放すかという話になる。あまり知識がない人は、面倒だからキャリアへ下取りに出す。キャリアにしてみれば、まぁ、儲かるよね。しかも下取り分はポイントで返すみたいな場合もある。実際のところは中古業者さんに売るのが一番いいと僕は思うけれど、キャリア以外に渡すことに抵抗感を持つ人もいる。今はちょっと競争になっている感じがしますね。
Nothing Phone (1)がすでに中古市場に
法林氏:最近、新製品が出ると、それがフリマアプリでどれくらいの価格で出るかなと思って見ているんですけど、それなりの価格でやり取りされている気がします。最近だと「Nothing Phone (1)」。
石野氏:スニーカーショップの「KITH TOKYO」で先行発売された端末が出ているんですよね。
法林氏:そうそう。先行で買った人が出している。
石野氏:Nothing Phone (1)にも転売する人がいるんだと思いましたね(笑)
法林氏:結構いる。
房野氏:でも、Nothing Phone (1)はパッケージが独特なので、開封すると売りにくいですよね。まぁ、メーカーさんは転売のことを考えて作っているわけじゃないですからね。
石野氏:ところで、Nothing Phone (1) を採用するMVNOが意外と多くて、「それ、先に言ってよ」って感じ。
房野氏:IIJmioとOCN モバイル ONEでしたっけ。
法林氏:その2社が扱ったら、もう十分でしょう。
石川氏:説明会の時、散々販路を質問したのに全然答えてくれなくて……ちゃんと答えてくれていたら、ずいぶん印象が変わったのに。
房野氏:MVNOから取り扱いするというリリースが出た時、「なんだ、MVNOで買えるんだ」って思いました。
法林氏:家電量販店でも普通に売っているし。
石野氏:そうそう。最初からそう言っていれば、「いきなり日本市場参入で頑張ってるじゃん」っていう印象になった。
石川氏:それだけ販路があるんだったら、メディアの扱い方も変わってくる。
石野氏:普通に買えないのでは、記事にしても意味がないので。
石川氏:その辺のプロモーションは下手だったよね。
法林氏:Nothingがわかっていないのかどうかはわからない。PR会社に言われるままにやっているのかもしれない。
石野氏:ちょっと秘密っぽさを出したかったから、情報も小出しにしているのはわかるんですけど、販路を隠す必要はあったのかなって。
石川氏:事前に相談してくれればなぁ……
法林氏:きちんと決まってなかったんだろうね。
石川氏:そうですね。
房野氏:Nothing Phone (1) の中古はどれぐらいの価格で売られていたんですか?
法林氏:新品と同じくらい。先行販売の未開封が一部、高くて8万円とかで売られているのがあったね。
フリマアプリ vs 中古販売店
石野氏:中古販売店としては、メルカリとかヤフオクとかの二次流通アプリやウェブをライバル視しそうですよね。
石川氏:もう戦っているでしょ。総務省が動いていなかったっけ?
法林氏:メルカリ、ヤフオクみたいな個人間売買が伸びると、中古販売店は仕入れしにくくなる。そこは結構困っている。あまり表立っては出ていないけれど、中古スマートフォンを扱う業界団体が、一定のクオリティをクリアした状態で、データもちゃんと消去した状態で中古スマートフォンを売ります、みたいな話をしている。
石野氏:リユースモバイル・ジャパンですね。
法林氏:あの話は、メルカリ、ヤフオクへの流通量をけん制している感もあるんですよ。総務省もリユースモバイル・ジャパンを後押ししているでしょ。だけど、ユーザー的にいうと、買取の価格がいくらなのか、フリマアプリならいくらで売れるか、そのさじ加減次第。
石野氏:難しいところで、自分が売る時はフリマアプリだと高く売れるからいいんですけど、買う時にどちらかを選ぶとしたら中古販売店なんですよね、安心感があるから。
石川氏:そう。赤ロム(端末代金の支払いが滞るなどして、通信会社によってネットワーク利用制限がかけられた端末)とかを購入しないように中古販売店で買う方がいいよねって感じだけれど、手数料とか買取価格を考えるとね……。
法林氏:フリマアプリなら手数料が1割くらいかかるでしょ。送料はどちらが負担するかによるけど、そう考えるとどっこいどっこいなんだけどね。
石野氏:メルカリだと高く売れるものもありますからね。Apple Watchとか出品したらすぐに売れました。先日、メルカリがサービス開始9周年記念でインフォグラフィックスを公開していて、「60秒未満で売れた! ブランドランキングTOP10」で1位はアップルだったんですよ。
法林氏:iPhoneに同梱のイヤホン、使っていないまっさらな状態のイヤホンだけメルカリに売りに出したら、もう一瞬で売れましたね。
房野氏:イヤホンが、ですか。
法林氏:ケーブルもきれいに束ねられた状態のものを出したら、すぐ売れた。みなさんの家に眠っている都市鉱山は、やっぱり売りましょう。お金にした方が、物価高の折、いいでしょう。売れるものは売りましょう。
房野氏:そして次の新しいスマートフォンを買いましょうと。
法林氏:中古スマートフォンを買ってもいいと思いますよ。
スマートフォンを売りに出す時の手順を案内すべき
法林氏:売却する時に端末の初期化をどういう手順でするか、データは何をバックアップすればいいか、みたいなことが実はちゃんとガイドされていない。iPhoneだったらアップルのサイトを見に行けば「探す」をオフにするとか、iCloudからサインアウトしましょうとか記載されているけれど、Androidの各メーカーさんは、売却する時にどうするかを案内しているかといったら、やっていない。本当はGoogleアカウントをちゃんと消さなきゃいけないし。
石野氏:あと、FeliCaの初期化ね。
法林氏:そういうことをちゃんとガイドできてないことの方が、業界としては課題。キャリアもメーカーもちゃんとやってほしい。FeliCaの初期化はわかりにくいよね。
石野氏:まぁ、キャリアの端末はキャリアショップに行けばリセットしてくれるし、ドコモはショップの「DOCOPY(ドコピー)」にセットすればできますが、SIMフリー端末が面倒なんですよ。1つ1つアプリを消していかないといけないんです。
法林氏:「おサイフケータイ」アプリの中で使っているサービスを確認できる。
石野氏:そう。1つ1つ消していって、ブロックがゼロになると「未利用」になる。そうなれば売れるんです。この1個1個消さなきゃいけないのが結構面倒くさい。「これ、FeliCa使ってたの?」みたいなアプリもあって。
法林氏:意外に残っているのが航空会社のアプリ。
石野氏:そうそう。
法林氏:機種変更後の端末にエアラインのアプリをインストールすれば、普通に使えるんだけど、前の端末はフルリセットしてもFeliCaチップが初期化されず、そのブロックが残って、使えない状態になってしまう。次に使う人に情報が漏れるわけではないけれど、あんまりいい使い方ではない。
石野氏:そういう意味ではiPhoneは楽ですよね。
房野氏:iPhoneはFeliCaの消去をしなくていいのが楽ですね。
法林氏:中古に関しては、業界的にぜひ深掘りしてほしい。
石川氏:高く買ってもらうために、極力スマートフォンにはカバーを着ける。中古業者の人たちもそう言っています。
法林氏:カバーを着けていたかいないかはすぐわかるそうですよ。
……続く!
次回は、新型iPhoneについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子