いつもデニムに関する興味深い話を語ってくれる原宿の老舗古着屋BerBerJin(ベルベルジン)のディレクターの藤原裕さん。連載7回目を迎える今回は、東京の虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーにある人気書店「SPBS TORANOMON」で行われたトークショーの様子をレポートする。
ゲストは、Levi’s(リーバイス)のプレミアムブランドのセールスとマーケティングのディレクターも務めた、ファッション・ライフスタイルコンサルタントの大坪洋介さん。モデレーター(司会)はライター & インタビュアーのオオサワ系(けい)さんが担当した。今回の対談のテーマは「ヴィンテージデニムに学ぶ、サスティナブルな価値の見つけ方」。特に買い付けにおける「交渉術」など、ビジネスパーソンにも役立ちそうな話題をピックアップして紹介しよう。
デニムの対談で着用したデニム
藤原さんと大坪さんはデニムを通じて長い交友関係がある。大坪さんは米国での活動が長く、リーバイスに約9年間、在籍していた。最初に藤原さんがリーバイス501の書籍に関して大坪さんに相談したのが、出会いの始まりだったと言う。
この日の二人の着用デニムは、もちろんリーバイス。藤原さんはリーバイス505のスリムストレート。Gジャンは506のセカンドタイプで、これまで日本で4点しか出ていないレアものだった。
一方の大坪さんは501に刺繍作家がオリジナルの刺繡を入れたものを着用されていた。Gジャンはデンマークのデザイナーがデザインしたもので、二人ともデニムマスターらしいファッションスタイルで、会場のデニムマニアの目を引いていた。
服装だけでなく、二人が身に付けていた個性的なアクセサリーについても質問されていた。
グローバルなシチュエーションでの交渉の秘訣
現在、ヴィンテージデニムの在庫が最も多いのは、日本である。藤原さんらが買い付けてくれたおかげだが、価値のある商品はどのように仕入れてくるのか。難しい買い付けのリアルな実態も語ってくれた。
藤原さん 私が最初に買い付けに渡米したのは20歳の時で、同行ツアーに参加させてもらいました。その後、いろいろなマーケットなどにも参加して、23歳の時に本格的に3ヶ月間、滞在して買い付けを行うようになりました。
当時、デニムを集めるのは大変で、90年代後半のブームもあって、海外でも高い値段がつけられていました。交渉は1本いくら、ではなく、「まとめて買うからいくらにしてくれ」という交渉がほとんど。会社のお金でまとめて買うわけで、いくらつかうか、(デニムの)状態をどう見るかで、値段交渉が異なってきます。
大坪さん 国民性があるので、国によって交渉(のやり方)に違いはありますが、相手に対して安心してもらうための、笑顔は大切ですね。にこやかに、「あなたに害は及ぼしませんよ」と伝える。もちろんその(笑顔の)裏には虎視眈々があるわけですが(笑い)。
デニムの買い付けは現金払いが基本なので、デニムハンターたちは靴下の中に現金を入れて毎日仕入れ先の倉庫に赴いた。そして、買った後に、その場を掃除して、きれいに整えて帰ることで、少しずつ相手に信頼してもらえるようにしていったと言う。
こうした積み重ねの結果、「藤原裕は信頼できる」という評価が少しずつ広がって行った。藤原さんの見えない努力が、会場にいた多くの参加者の感動を呼んだ。
交渉術の話題では、大坪さんの「どんな交渉でも、愛があれば」という発言が、会場を沸かせていた。
他にも、リーバイスのブランド戦略や、古着の価値感など、デニムファンをワクワクさせるような話題が続いたが、藤原さんがデニムの価値について、「この年代のここがこう良いと言ってきた、そういう風に自分が口にして言ってきたディティールや魅力が広まって、どんどん価値が上がって来た。それでも、ちょっと値段が高騰しすぎている」という言葉は、ヴィンテージデニムのプロとしての苦渋も、ほんのり窺えた。
一方、大坪さんは、価値あるデニムに関して、「今は私の私物ですが、(私は)いっときの預かり人だと思っているので、次につながってくれれば良い」と時代とともに受け継がれるべき文化財であるとも発言していた。
さらに、ヴィンテージデニムはサスティナブルな価値を教えてくれる究極のアイテムであるという二人の意見に、多くの参加者が共感していた。
デニムをもっとビジネスシーンに
デニムをビジネスシーンに取り入れるコツについても語られた。
藤原 勝手なイメージですが、今回の対談の場所は港区虎ノ門のオフィスビルで、ビジネスパーソン中心の場所です。ぜひこうした場所でも、スーツ必須でないシチュエーションであれば、デニムを着用して欲しいですね。特にきれい目系のジーンズで、ジャケットと合わせるのが、カジュアルで良いと思います。自分はシャツも大好きなので、シンプルにプレーンな白シャツにジーンズはかっこいいと思っています。
ビジネスのシーンではできればジャストサイズで、もちろんストレッチでも良いですけど、色の濃い目のジーンズを、普段に着用して欲しいです。
色の濃いジーンズをはいて、こすったりして、自分なりの色落ちを楽しんで。普通に仕事をして、2年後にすごい色になっているのが、楽しいと思いますよ。
大坪 確かに白シャツとデニムは相性が良いですね。娘が私のデニムと白いシャツを着ていて、すごくよかった。デニムはどう着るかも自由で、上に高級ブランドのジャケットを着ても、それなりにかっこいい。デニム自体もいろいろなデザイナーが革新的な作品を作っているので、自分にどういうものが合ってるかを考えて着る楽しみもあります。
サイズも30インチの人が30インチをはくのではなく、わざと大きく33インチにしても、又は29インチでトップボタンを外しても、それはそれでかっこいいと思います。
自らプロデュースした新ブランド「ニューマニュアル」
会場では伝説の1千万円超えのデニムのほか、デニムで装丁された貴重な本も紹介されていた。さらに参加者にはプレミアムジン・BOMBAY SAPPHIRE(ボンベイ・サファイア)による、デニムカラーのオリジナルカクテルが振舞われた。
中学時代にジーンズを買って以来、45歳になった今日まで、インディゴブルーと深く関係してきた藤原さん。愛車もインディゴブルーにカスタマイズされているとか。「次の世代も含めて、一人でも多くの人にデニムの魅力を伝えていきたい。死ぬまでインディゴ。肌も染まっちゃうかな?」とデニム愛を語った。
また、今回、自らがプロデュースしたニューマニュアル(New Manual)ブランドについても語ってくれた。「現在の物差しで、よき時代のものを捉え直し、新しい“マニュアル”をつくること」をコンセプトにした新しいブランドで、特に国産にこだわっていると言う。
会場には多くのファンが駆け付けた。SANTASSÉ (サンタッセ)のデザイナー大貫達正(おおぬき たっせい)さんは「本当に好きな人の熱い想いは、とても刺激になりました」と語ってくれた。
会場女子の羨望を集めた貴重なテディベアをじゃんけん勝負でゲットした大貫さん
対談は時間を延長して行われ、その後も二人はファンに囲まれて、サインや記念撮影、握手に応じていた。
トークショーは藤原さんの著作『教養としてのデニム』(KADOKAWA発刊)増刷記念のイベントとして行われたが、このほど出版記念として、藤原さんがプロデュースしたデニムブックカバーとバンダナが作成された。こだわりの限定オリジナルグッズは9月18日までKADOKAWA公式オンラインショップで予約受注販売中。
https://store.kadokawa.co.jp/shop/e/eti0397/
藤原裕(ふじはら・ゆたか)さん
ヴィンテージデニムアドバイザー
1977年、高知県生まれ。原宿の老舗古着屋「BerBerJin(ベルベルジン)」ディレクター。
別の名を「デニムに人生を捧げる男」。店頭に立ちながらも、ヴィンテージデニムアドバイザーとして人気ブランドの商品プロデュースやセレブリティのスタイリング、YouTubeチャンネルの配信、ファッションメディアでの連載など、多岐にわたりデニム産業全般に携わる。コアなマニアからの信頼も厚い、近年ヴィンテージブームの立役者。
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大坪洋介(おおつぼ・ようすけ)さん
ファション & ライフスタイル ・エヴァンジェリスト
1956年生まれ。1970年代に渡米し、29年間ロサンゼルスで過ごす。数々のブランドを日本に上陸させ、目利きとして多岐にわたる活動を続ける。
モデレーター
オオサワ系(おおさわ・けい)さん
ライター & インタビュアー
1975年生まれ。男性ファッション、エンターテイメント、サブカルチャー全般に造詣が深く、数々のメディアで執筆、インタビューを担当。藤原裕氏とは20年来の友人で、『GQ JAPAN』の人気連載「ヴィンテージ百景」でもタッグを組む。
文/柿川鮎子、撮影/木村圭司
編集/inox.
SPBS TORANOMON
営業時間 平日 11:00-20:00 / 土日祝 11:00-19:00 *短縮営業中
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