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【深層心理の謎】SNSで情報を共有するだけでわかったつもりになるのはなぜ?

2022.09.14

 多くの共感を得られれば、ついつい人は張り切ってしまうものだ。張り切れるということは、自信があることの表れでもあるし、自信があるだけにリスクをとることができる。しかしもちろんだがリスクは危険をはらむ――。

新宿を歩きながら自転車の盗難被害ツイートについて考える

 信号待ちをしている自転車はパッと見でも高級自転車であることがわかる。カーボンフレームのロードバイクで、詳しくは分からないが20万円くらいはするかもしれない。いやその倍の40万円以上しても不思議ではない。

 自転車に跨っている男性は小さなリュックを背負い、頭には自転車用ヘルメットを被っている。体型も脚の太さも普通で、自転車競技をやっている人のようには見えない。趣味の自転車乗りといったところだろうか。

 ひと仕事終えて新宿に来ていた。西武新宿駅に近い靖国通り沿いを歩く。夜8時半になろうとしているが、けっこう人出は多い。今日はもう仕事を切り上げることにして、戻る前にどこかで「ちょっと一杯」にしてもいいのだろう。靖国通りを青梅街道方面へ進み「新宿大ガード」を抜けることにしたい。

※筆者撮影

 高級自転車に乗った人はもはや見えなくなったが、ツイッターを見ているとたまに自転車の盗難被害を報告するツイートを目にしたりする。盗まれた日時と場所が記され、そして多くの場合盗まれた自転車の画像が添付されているのだが、一縷の望みを託して情報拡散しているだけに、高そうな自転車であることが多い。

 新宿大ガードの下を潜る。ここを通るのもけっこう久しぶりだ。周囲の風景がどれほど変貌を遂げようとも、ここの殺風景さはいつまで経っても昭和のままである。

 SNSで盗難被害を報告することでどのくらいの効果があるのだろうか。それはもちろん一律で測れるような種類のものではなく、そもそも盗難はそれぞれ個別具体的な状況と条件が組み合わさったケースバイケースの事件である。

 それでもツイートする側は僅かでも戻ってくる可能性を高めたいという一心でSNSで盗難被害を報告をしているのだから、ツイートするのとしないとでは、気の持ちようはかなり違ってはくるだろう。

 そして報告ツイートに「いいね」が多くつけられたり、リツイートされたり、コメントが寄せられたりするなどして情報が広く共有されるほどに、自転車が戻ってくる期待は高まってきそうだ。

 だがそれはあくまでも期待である。SNSによる情報共有が盗難車が戻ってくる可能性を実際に高めるのかどうかはまた別の問題になる。可能性を高める場合もあり得るが、一方で残念ながら何の効果も及ぼしていないケースも多そうだ。

 しかしここでも、当人の気の持ちようは大きく違ってくるだろう。情報が広く共有されるほどに当人は心強さを感じ、これほど多くの人が盗難を知ってくれているという事実を根拠に、場合によっては絶対に戻ってくるという確信さえ得られてしまうかもしれない。

 くどいようだがそれもやはり当人の期待であり心境の変化である。期待するだけでは現実は何も変わらない。多くの認知と同情を得て、残念ながら束の間、気が大きくなっているだけである公算は大きい。

情報を共有するだけで“わかったつもり”になる

 大ガードを潜り抜けて広い交差点に出る。信号を待って新宿駅西口方面へ進んでみたい。久しぶりに「思い出横丁」に足を踏み入れてみてもいいのだろう。

※筆者撮影

 SNSで多くの人と情報を共有することができれば、心強さを感じて気持ちも大きくなり、場合によって自信に繋がるかもしれない。そしてそのように周囲から多くの共感を得られれば、張り切ったり頑張ったりしたくもなるのは人情だとも言える。

 しかし最新の研究では、SNSでの情報共有で得られた“自信”には落とし穴があることが報告されている。情報を共有できたことだけで“自信”を得て“わかったつもり”になり、投資においてリスキーな選択をしやすくなるというのだ。


 テキサス大学オースティン校の研究者による新しい研究によると、ソーシャルメディアで友人やフォロワーとニュース記事を共有すると、記事のトピックについて実際よりも多くのことを知っていると人々に思い込ませる可能性があります。

 ソーシャルメディアの情報共有者は、自分が共有するコンテンツについて(記事を)読んだことがなくても、見出しをちらっと見ただけでも(それについての)知識があると信じています。

 情報をオンラインで公開することにより、情報共有者は専門家としての身分を公に約束することになるため、情報共有は自信を高めることができます。

「人々は自分がより知識があると感じると、よりリスクの高い決定を下す可能性が高くなります」

※「The University of Texas at Austin」より引用


 米テキサス大学オースティン校の研究チームが2022年8月に「Journal of Consumer Psychology」で発表した研究では、SNSで情報を共有すると、自分の知識を過信してしまうことが報告されている。この根拠のない自信によって、投資においてはリスキーな選択をしやすくなるというのである。

 ご存知のように今日、インターネット上にニュースをはじめとする各種の情報が溢れかえる事態を迎えているわけだが、ロイターの最近の調査によると、オンラインニュース記事に実際にアクセスしたユーザーの51%が記事全体を読み、26%が部分的にななめ読みしていて、22%が見出しまたは冒頭の数行だけをチェックしている実態が浮き彫りになっている。記事を最後までちゃんと読んでいるユーザーは半分しかいないということになる。

 98人の学生が参加した実験では、一連のオンラインニュース記事が提示され、各人はそれを自由に読み、友人などと自由に情報共有し、その行為を自己申告した。

 次に各記事に対する参加者の主観的知識と客観的知識、つまり本人が知っていると思っていることと、実際に知っていることを明らかにするテストが課された。そこでわかったのは、記事を全部読んでおらず客観的知識が不足した状態であっても、他者と情報共有していると、その記事についての主観的知識は増加していたのである。つまり記事を全部読んでいなくとも、情報共有したという行為だけで“わかったつもり”になっていたのだ。

 さらに300人のアクティブなフェイスブックユーザーが参加した実験では、投資に関する記事が提示され、半数はその記事を友人などと情報共有し、もう半数は共有を禁じられた。

 その後参加者はシミュレーション上で退職金の使途についてアドバイスを受けながら意思決定をしたのだが、情報を共有したグループはしなかったグループよりもよりリターンの大きい積極的な投資行動を選択しており、アドバイスよりも2倍高いリスクをとる傾向が判明したのである。情報共有により気持ちが大きくなり、発奮してリスクをとりやすくなると考えられるという。

 SNSでの情報共有によって実際には詳細を知らないことでも“わかったつもり”になりやすく、気持ちが大きくなってリスクをとりやすくなるという今回の研究結果は、自分を戒めるためにも常に頭の片隅に置いておいてよいのだろう。

立ち飲み屋の「まぐろカツ」を謙虚に味わう

 信号が青になり横断歩道を渡る。広い交差点だけに横断に要する歩行距離は、渋谷のスクランブル交差点に引けをとらないかもしれない。

 横断歩道を渡り終えて左に少し進むと「思い出横丁」の路地が2本伸びている。ガード下沿いの広いほうの通りを進む。

※筆者撮影

 老舗の中華料理店は健在だ。お客もけっこう入っている。最後にこの店に入ったのは10年くらい前のような気がするが、それよりも初めてこの店に入ったのはもう30年近く前のことだと気づかされる。まさにタイムスリップしたような気分だ。

 夜9時前というちょうどいい時間でもあり、路地は相変わらず呑兵衛の聖地といった趣だ。店の前に出されたテーブルで飲んでいるオープンエア派の酔客も少なくない。

 路地を進み通りの終わり近くにローカルチェーンの立ち飲み屋がある。この場所に店を出していたことは前から知っていたが、コロナ禍もあってなかなか入ることができなかった。迷う理由は何もない。入ることにしよう。

 けっこうなお客の入りで、比較的空いているのは店の奥の方のカウンターである。店内を進みカウンタ―の空いたスペースに陣取らせてもらった。

 カウンターから見える場所の調理場の柱に本日のおすすめメニューの表が貼り出されている。まずは酎ハイをお願いし、ジョッキが来たタイミングで本日のおすすめの中から「黒鯛刺身」と「まぐろカツ」を注文した。何はともあれジョッキをひと口あおってから息をつく。

 先ほど見かけた高級自転車とその乗り手の男性についても言えることなのかもしれないが、高そうな自転車に乗っているというだけで、自転車について一家言ある専門家やエキスパートに見えてしまうという現象があるかもしれない。

 それまでは特に熱心な自転車乗りではなかったものの、興味本位で高い自転車を買って納車された日には思わず写真に撮ってSNSに投稿してしまったりもするだろう。そこで意外にも「いいね」が多くつくなど反響を呼んで情報が共有されれば、隅に置けない自転車乗りとしてツーリングなどに張り切って出かけることにもなりそうだ。

 長距離ツーリングの体験などほとんどないのにも関わらず、SNSの情報共有で妙に自信過剰になって無理なツーリングを行えばケガやトラブルに見舞われかねない。本格的な自転車については初心者であるのに、高い自転車を購入しSNSで情報共有をしたことで、自分があたかもベテランの自転車乗りであると錯覚しかねないともいえるだろう。自転車に限ったことではないが、こうした心のメカニズムには気をつけたいものだ。

※筆者撮影

 黒鯛の刺身に続いてまぐろカツがやってきた。見た目だけならヒレカツと言われてもわからないビジュアルで美味しそうだ。ソースを少し滴らせ、カラシをつけた一切れをさっそく頬張ってみる。衣がサクサクしていて、熱が通った柔らかいマグロの身が素朴で美味しい。お酒が進むというものだ。

 こうして普段食べないものを食べる体験は、“わかったつもり”にならないためにも必要なことであるのかもしれない。そして自信過剰の罠に陥ることのないよう、謙虚に酒を飲み、知ったかぶることなく酒の肴を味わっていきたいものである。

文/仲田しんじ

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