NPO法人のデジタル先生に聞いたスマホコーチング!
田舎に住む高齢の親がガラケーからスマホに変えてくれたら色々好都合なのに…そう思ったことはないだろうか?そこには大きな壁が立ちはだかっている。ボタンを押すという感覚から、触れるだけのタップの世界に導かなくてはならない。
そしてもう一つの不安。自分は高齢の親にスマホの使い方を正しく丁寧に教えられるのか?
毎日普通にスマホを使ってはいるものの、使ったことのない人に正しく説明できるのか、私は正直自信がない。タップってなに?メールとLINEの違いは?…教えているうちに自分が高齢者になってしまいそうな予感しかしない。
ちなみに最近、こんなサービスが登場している。
茨城県の常陽銀行では今年9月から、来店した高齢者にスマホの使い方を教えるサービスを開始。PCやタブレットで高齢者に動画を見せ、使い方を一緒に体験してもらうとのこと。これは、窓口業務のデジタル化を進めるにあたり高齢者のデジタルデバイド(情報格差)を解消する狙いがあるという。
これはありがたい。こんなサービスが増えてくれることが理想なのだが、自分の親には自分で教えたい気持ちもある。ではどうすれば上手に教えられるのか?調べていたらネット上でこんなものを発見した。
今まさに欲しかった一冊。これはNPO法人デジタルライフサポーターズネット(https://dsapo.org/)、通称「デジサポ」が製作したスマホコーチ指南本。デジサポでは老若男女がデジタルライフを上手に受け入れられるよう様々な活動をしている。“あなたの傍のデジタル先生”のような存在だ。
今回、筆者も「スマホの教え方」を教えてもらおうとデジサポ理事長の友次さんに話を聞いた。
ーー親世代へのスマホの教え方に悩んでいます。まずはどこから教えればいいんでしょうか?
「最初に大事なのは、使い方の前にスマホの購入ですね。購入するときは可能な限り家族が同伴し、使い方を教える家族と同じ機種を買うのがおすすめです」
ーー同じ機種ということはシニア向けスマホではなく普通の?
「そうです。シニア向けは画面表示や設定が特殊なので、教える方と同じスマホの方が説明しやすいですしラクなはず。普通の機種をシニア向けに使いやすい設定にすればいいと思います」
なるほど。いきなり目からウロコだ。タメになる話がたくさん聞けそうだが、ここからはテーマ毎に紹介していこう。まずは購入した後の設定方法の教え方から!
【高齢者が利用しやすくなる設定 5か条】
設定を少し変更するだけで高齢者が利用しやすくなる5か条がコチラ!
1.ロック(スリープ)時間を3~5分に変更
初期設定で30秒になっている機種もあるので、親御さんに合わせた時間に変更することで使いやすくなります。
2.ホーム画面には必要最小限のアプリ表示に
アプリが沢山並んでいるだけで困惑しますし、意図せずタップしてしまい無用な混乱を引き起こします。利用しないアプリはアンインストールまたは「利用しない」というフォルダを作ってそこへまとめておきましょう。
3.文字サイズを適切に
大きすぎると却って読みづらくなるので本人に確認をしながら設定しましょう。文字を太くすると視認性があがります。
4.画面ロックは必ず設定すべし
毎回ロック解除が必要になり面倒ですが「スマホには自分以外の情報も大量に保存されていて紛失すると犯罪に利用される恐れがある」と伝えて覚えてもらいましょう。ただ、高齢者の場合は指紋認証が読み取れない場合もあるので要注意。
5.高齢者が入れるべきアプリは「LINE」「健康」「孫」
家族でLINEグループを作り、一日一回スタンプを送信するのもおすすめ。子供、孫からの連絡に喜んでくれますし生存確認にもなります。特に高齢者はお孫さんからコメントをもらう度にスマホを利用して良かったと感じるようです。それと高齢者が興味関心の高い「孫」「健康」「防災」に関するアプリを教えてあげると喜ばれますし、スマホ利用の強力なモチベーションにつながります。
続いて、最低限の操作の教え方!最初にすべきことは?
「まずは持ち方が地味に大切ですね。スマホを持っている方の手が画面に触れているとタップやスワイプなどが反応しない。画面に触れないように持つこと、または机などの上に置いて操作するように伝えましょう」(友次さん)
確かに。これはガラケーにはない要素だ。触れる触れないという繊細な扱いにまずは慣れてもらうしかない。
さらに、当然分かるだろうと思っていても改めて伝えたいポイントがあるという。自分軸ではなく相手の立場を意識することが重要だ。
■電話の受け方/かけ方/切り方
電話を受ける練習をしましょう。「ロック状態」「ホーム画面表示状態」「アプリ利用中」それぞれの受け方を教えつつ、切り方も必須。スマホに不慣れな方同士が電話をして、両者とも電話を切り忘れて高額な通話料金の請求が発生したこともあります。
■スマホ利用後について
使った後はそのまま放置しておいても良いことを伝えます(自動で消灯するので)。スマホケースを利用している場合は蓋をすれば良いと伝えます。画面が明るいままの状態が気になる場合は「電源/ロックボタン」を押すと画面が消灯することも伝えます。
■電源ボタン
電源ボタンを長押しして電源を切る方法と電源を入れる方法を伝えます。電話ができない、インターネットに接続されていない、アプリが起動しないなどのトラブルがあった時に高齢者自身が電源のオンオフ(再起動)ができるようにしておきます。これにより教える側の負担が減ります。
高齢者にスマホを教えるときは「カタカナNG」「三歩進んで二歩下がる」
親世代にスマホを教えているとあっという間に時間が過ぎてしまう。長くなればなるほど双方にストレスが溜まりイライラも増えてくる。それらを乗りこえるために特に気をつけるべきこととは?
「いっぺんにたくさんのことを教えないでください。聞かれたことだけを伝え、聞かれていないことまで教えないようにしましょう。ご自身が『知りたい』と思った時が教えるベストタイミングです」
「カタカナ言葉はなるべく避けましょう。『インストール』はスマホに取り込むこと、『ストレージ』はスマホの中の倉庫のことなど、わかりやすい言葉に置き換えて伝えましょう」
「そして必ずご自身で操作してもらってください。時間がかかるからと教える側が操作してしまうといつまでたっても覚えられません」
教える側は自分が分かっているからこそ「なんで理解できないんだ?」と思ってしまうかもしれない。そんな無意味な誇りやおごりやプライドは捨ててしまえ。今は矜持を貫いている場合ではないのだ。
さらに高齢者がスマホを好きになるこんなワンポイントアドバイスも。
「高齢者の特徴としてタップやスワイプが上手にできないときはタッチペンを用意してあげるとよいでしょう。100円ショップなどで販売している安価なもので十分です。落ち着いた操作にもつながります」
「操作に慣れてきたらスクリーンショットの撮り方を教えてあげると良いですね。困ったときや不安な画面が出た時に『スクリーンショットを撮ってLINEで送ってね』と伝えておくだけでも安心できます」
多くの高齢者はスマホを「厄介な道具」と思っているという。「個人情報が流出するのでは?」「犯罪に巻き込まれるのでは?」と不安と恐怖を感じながらスマホを利用している。
「そんな方々に『触れば分かるよ』という言葉は厳禁です。高齢者にとっては、飛んでいる飛行機のコックピットで『触れば分かるよ』と言われているのと同じ。相手の気持ちに寄り添い、メンタル部分を理解して教える、伝える、接する必要があります」(友次さん)
ーーそれでもくじけそうになったときは?
「高齢になると認知能力が低下し、新しいことを憶えたり理解したりすることが難しくなります。一度で操作ができず同じことを何度も聞かれますが、その都度同じ回答を行います。『三歩進んで二歩下がる』です」
「歳をとるにつれて今までできていた事がどんどん出来なくなっていく。でも、スマホのカメラが使えるようになるとか、ちょっとしたことができるようになるだけでとっても嬉しいんです。根気よく『スマホは楽しくて便利』という世界へ導いてあげて欲しいですね」
取材協力
NPO法人デジタルライフサポーターズネット
https://dsapo.org/
「スマホの教え方、教えます スマホコーチになるための本」
https://dsapo.org/smartphonecoach/
文/太田ポーシャ