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本来野外にいるはずのない改良メダカが泳ぐ水域を確認、なぜ「第3の外来種」問題は起きるのか

2022.09.14

人為的に導入される「第3の外来種」たち

突然だが、「第3の外来種」というワードをご存知だろうか。

今にはじまったことではないが、人の手によって品種改良されたコイ、キンギョやメダカなどが屋外に放流され、在来の生物に悪影響を及ぼすという事例はいくつも報告されている。

数十年前から、全国各地で自治体などの手によるニシキゴイの放流がたびたび行われてきた。

この放流の目的は、たとえば景観の向上のためなどが考えられるが、コイという生き物は世界の侵略的外来種ワースト100の中の1種でもあり、うかつに放流するとその水域で形成されていた生物環境を壊してしまうことも多い。

食欲が旺盛なこともあり、ニシキゴイが居着いた水域は本当に見た目も寂しくなってしまう。

水質を浄化してくれる水草も食べてしまうから、結果的に、コイばかりが目立つ水域に。コイ以外は住みにくい水域も各地に散見されるようになってしまった。

もともとの生態系に対して、強引に人の手を入れてしまったことで環境が著しく悪化してしまったのである。

ニシキゴイによって住処を追いやられた多くの在来生物も被害者だが、人の都合で放流され、悪者にされたコイもまた当然被害者となる。

このニシキゴイの例のように人工的に改良された品種が野外に定着してしまうことを「第3の外来種」問題という。

そして現在では観賞用に改良されたメダカもまた、「第3の外来種」としてクローズアップされるようになってきている。

何故か野外に改良メダカ。どうしてそこに?

2022年8月1日に、世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふが公式サイト上に「岐阜県内の野外水域における初記録が論文に掲載 『第3の外来種』観賞魚メダカの初記録」というエントリーをリリースしている。

タイトルにあるように、こちらの報告では岐阜県内で改良メダカが野外採取されていたことを報告している。

さらにその詳細は「岐阜県の野外水域における体外光メダカ(幹之メダカ)などの観賞魚メダカの標本にもとづく初記録」というタイトルで論文としても発表されている。

これによれば2021年11月に岐阜県美濃市の用水路で採集された74匹のメダカのうち、24匹がいわゆる幹之メダカと呼ばれて市場に出回っている人気の観賞用メダカであると判断されたという。

さらに青メダカ、ラメメダカなど、同じく市場でもよく見かける人気の品種が採集されたことも説明がなされており、いずれの個体も市場価値の低い特徴が観察されていたという。

メダカのブリーディングをする上で選別から漏れた個体群が、野外に遺棄されてしまったのではないかとも考えられるということで、これが事実ならなんとも可哀想な個体群である……。

メダカはペットショップ、ホームセンター、果ては道の駅などで頻繁に見かける安価なペットだ。

最近は品種改良も進み、熱帯魚ばりの美しさを持ちながら、屋外越冬にも耐えられるほど飼いやすい観賞魚としての地位も確立している。

そういった改良メダカの選抜育種に夢中になるあまり、その過程で管理しきれなくなった個体を野外に放つ飼い主がそう多くはいないことを祈りたい。

「メダカだから屋外に逃してあげてもいい」が招く取り返しのつかない事態もある…

ところでメダカはもともと日本の在来種でもある。

名前の通り目が高い位置についているのが特徴で、品種改良など施されていなくても、そのままでも十分魅力的な生き物だ。

全国各地に生息してはいるものの、実は在来のメダカも、ミナミメダカ、キタノメダカの2種類が生息している。見た目はよく似ているが名称のとおりこの2種は生息域が異なる上に地域によって微妙な形態の差異があるし、遺伝的な特性も異なっている。

だからたとえば、関東で捕まえたメダカを関西に放流するとなると、一見すると同じに見えるこれらのメダカ同士であっても、万が一交雑すると、双方のメダカが本来保ってきた遺伝的情報が損なわれることとなる。

これを遺伝子汚染と呼ぶ。在来の品種改良もされていないメダカ同士ですらこのようなリスクがあるわけで、当然改良メダカの安易な放流もご法度となる。

放流した改良メダカが、その水域の在来メダカとどの程度の割合で合流して交雑をするかどうかはさておき、そういうリスクをわざわざ私たちがもたらす必要はない。

私達に出来る「第3の外来種」問題への対策。

それは品種を問わず、一度迎え入れたペットを野外に放さないこと。これに尽きる。

これを徹底すれば、逃したペットが在来種に影響をおよぼす心配もないし、交雑の可能性もない。

「飼い切れないし、小さなメダカだから逃しちゃおう」は、近隣の生物相を一変させてしまうかもしれない。

綺麗で目立つ魚が近所の水域にたくさん泳いでいるという状況は、それはそれで楽しそうだけど、それを実践した結果がかつてのニシキゴイの盛んな放流だし、結果的にコイしか住めない環境があちこちに誕生してしまった。

同じような轍を踏まないように注意したい。

野外で改良メダカの確認事例はまだ少ない様子…定着させないために私達ができること

先に引用させていただいた「岐阜県内の野外水域における初記録が論文に掲載 『第3の外来種』観賞魚メダカの初記録」というリリースの中には、「観賞用のメダカの野外での確認を記録に残したもので全国的にも例が少ない」とする文言があるが、論文の責任著者である堀江真子氏によると、実際に現時点では改良品種の野外での採集例について文書化されたり、採集後に標本として残された例は少ないという。

ところで、観賞用のメダカと聞いて、真っ先に思い浮かぶのは黄色い体色のヒメダカではないだろうか。

学習教材や魚食性観賞魚の餌として大量流通している品種である。

このヒメダカが養殖現場から流出したり、教材としての役割を終えた後に放流されるたと考えられる個体が、野外で確認されている。

しかも、野生メダカの多数の個体からヒメダカ由来と考えられる遺伝子が検出されているといった調査結果まであると、堀江氏は指摘する。

つまり、改良メダカによる遺伝子汚染は実際に多数の地域で問題視されているのである。さらに近年においては、このヒメダカ以外のいわゆる一般家庭で好まれる様々な体色や、特異な体型をもつ品種まで野外で見つかる例まででてきたことは由々しき事態である。

在来種と品種改良を経て誕生した種は、本来野外においては一緒にいることが不自然。

小さな生き物とはいえ、改良メダカを野外に逃がすことが環境にも影響を及ぼしてしまう可能性はゼロではない。

在来メダカの生息域を大切に見守りつつ、改良メダカたちのことを「第3の外来種」として嫌われ者にせずに済むように、一度彼らを飼うと決めたなら、最後までちゃんとお世話をしてあげよう。

文/松本ミゾレ

編集/inox.

【参考】

世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ 岐阜県内の野外水域における初記録が論文に掲載 「第3の外来種」観賞魚メダカの初記録

伊豆沼・内沼研究報告 岐阜県の野外水域における体外光メダカ(幹之メダカ)などの観賞魚メダカの標本にもとづく初記録
堀江 真子 [日本] 責任著者
世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ [日本]

伊藤 玄
龍谷大学生物多様性科学研究センター [日本]
岐阜大学教育学部 [日本]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/izu/16/0/16_63/_article/-char/ja/

協力:世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ
https://aquatotto.com/

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