大さじ3杯の油で、天ぷらが作れる!?
1959年に、世界で初めて「天ぷら粉」を発売した昭和産業が、またしても天ぷらの歴史を塗り替える、すごい商品を開発したという。その名もズバリ「もう揚げない!!焼き天ぷらの素」。
なんでも、大さじ3杯の油で天ぷらを作ることができる、特別な粉なのだそう。調理が終わったら、フライパンの油を拭き取るだけで後始末はOK。これまで、捨てるにも保存するにも面倒だった揚げ油の処理が一切不要なのだそうだ。
それが本当なら、まさに「天ぷら革命」だが、本当にそんなうまい話があるのだろうか。まずは実際に試してみた。
2022年9月1日に発売された「もう揚げない!!焼き天ぷらの素(120g)」税込み179円
1袋で17個くらいの天ぷらが作れる
袋裏には「本品1袋で作れる目安」が書いてある。野菜4種類×3枚+かきあげ5枚、計17枚。3人家族がちょうど晩御飯1回で使い切る量のようだ。
薄さ5mm程度に薄く切り、魚介や厚みのある具材は薄く平らに切るのがコツとのこと。
成分を元祖「昭和天ぷら粉」と比較してみても、大きな違いはない。
普通の天ぷら生地よりも、かなり“もったり”
生地の作り方は「1袋を120mlの水で溶き、泡立て器でよく混ぜる」とある。やってみると、一般的な天ぷらの衣の生地よりもかなり濃度が高く、もったりしている。ホットケーキの生地くらいの印象だ。
油の量は、大さじ3(45cc)。直径26cmフライパンに流すと、上の写真のように、全体に行き渡るか行き渡らないかくらいの量だ。本当にこの量で、天ぷらが作れるのだろうか…。
後から昭和産業さんに確認したところ
「油大さじ3は1回の焼成で使用する量のため、1袋分がこの量で作れるわけではございません。」
とのこと…。
確かに、作り方をよく見ると「続けて焼く時は、油を追加してください」と書いてある。
それを思いっきり、見落としたまま、最後まで作っていた…。
用意した具材
用意した具材は、
・オクラ
・レンコン
・トウモロコシ
・マイタケ
かきあげの材料として、オクラ+ちくわ+桜海老。
「焼き天ぷら」爆誕の手ごたえを感じるも、具材選びに誤算
「生地を付けたら縦に3回振って、余分な生地を落とす」と書いてあるコツを忠実に守りながら、焼き始める。火加減は中火、焼き時間は、表3分、裏返して3分。天ぷらに比べると長いような気もするが、天ぷらと違って一瞬で状態が変わることもないので、ほかのことをしながら落ち着いて調理ができるのは、意外なメリットだった。
考えてみれば、天ぷらのハードルが高いのは、「一瞬も気が抜けない」「集中力と気合が必要」という面もあったかもしれない。こんなに穏やかな気持ちで天ぷらを作ったことはないような気がする。
完成。
おおおおおおお!
焼いたとは思えない仕上がり。どこから見ても揚げたての天ぷらだ。
さっそく揚げたてを一口、試食。中まで火が通っていて、衣はいつもの天ぷらよりもむしろカリカリ。驚いた。
この結果に気をよくし、次に天ぷらの種で一番好きなマイタケを焼く。
※注:正しい作り方は、ここで油大さじ3を追加
だが、いつものサラサラの天ぷらの生地と違い、もったりした濃度のある生地なので、マイタケに予想以上に衣がつき、あっという間に残りが1/3以下に…。さらに生地をたくさんつけているため、油もどんどん吸い込む。マイタケを焼き終わったらすでにフライパンはカラカラ状態…。
仕上がりは最高だったので後悔はない。
かき揚げも今日から「かき焼き」
かき揚げは、具材の生地の一部を混ぜて油の上にスプーンですくい落とし、平らにして焼く。生地の量の目安は、具材100gに対して大さじ4。残っている生地をかき集めて、やっとなんとかまとめた。
ここでついに、油を追加。
「マイタケのせいで油が足りなくなった」とばかり思っていたが、むしろここまで最初の大さじ3の油だけで、よくできたと思う…。
かき揚げは、天ぷらの中でも特に緊張度が高いが、揚げるのと違って散らばらないので、こちらも気が楽。缶ビールをあけて飲みながら、気長に焼けるのを待つ。この平和な楽しみ方も、「天ぷら革命」のポイントのひとつかもしれない。
残り少ない生地と、少ない油でなんとか完成したかき揚げ。
油大さじ3(+1)で、こんなに「焼き天ぷら」ができた!
完成!これだけの焼き天ぷらが、あの油の量でできたとは信じられない。
家族には何も言わずにだしたが、全く気が付かない。「今日の天ぷらは揚げてない」と伝えても「え、どういうこと?」と、すぐに理解してもらえなかったほど。
「いつもの天ぷらと変わらない」というよりも、油の量が少ないので、いつもより軽くサックリした食べ応え。全部食べても、胃もたれが少ない。これなら毎日でも食べられる。「もう一生、天ぷらは揚げずに焼く」と心に決めた。
こんなに簡単な油の始末は初めて
かき揚げ調理後のフライパン。油を少量足したが、このとおりカラカラの状態。
ペーパータオルで1回、さらっとぬぐっただけできれいになった。天ぷらは、揚げ油の後始末と同じくらい、油でベトベトのフライパンの油汚れ落としが面倒だった。洗い物用のスポンジに油がつくのが嫌で、新聞紙で油を拭き取ったり、重曹を振りかけて放置したり、といろいろな“裏技”を駆使していたが、それからも解放された。何度もゴシゴシこすらずにすむので、フライパンの傷みも少ないのではないだろうか。
天ぷらを食べたい時、家で揚げている人は半分以下
そもそもこの商品の存在を知ったのは、2022年7月28日に行われた、昭和産業の2022年秋冬新商品発表会。「天ぷらを揚げて食べない人は、油の処理が面倒、手間がかかる、キッチンが汚れる、少量だけ作るのが大変などから敬遠しているのではと考えた。天ぷら調理を簡単なものにすれば、調理頻度が増えるのではという発想から、焼いて作れる天ぷら粉の開発に着手した」(商品開発研究所の石井圭子家庭用グループリーダー)。
新商品発表会で「社内アンケートでは96%がザクザク食感を感じると回答した」と説明する昭和産業 商品開発研究所の石井圭子家庭用グループリーダー
※(左)出典:(株)富士経済:222食品マーケティング便覧販売額よりグラフ化 (右)出典:(株)ライフスケープマーケティング、食マップ、2021
「天ぷらは揚げたてが美味しい」と誰もがわかっているのに、家庭で揚げるという人は半分以下で、半分以上の人が冷凍や総菜の天ぷらを購入しているのが現状。
家庭で天ぷらを揚げない人の理由が
・油の処理が面倒
・手間がかかる
・キッチンが汚れる
・美味しく作れない
・少量だけ作るのは大変
というもの。
どれもすごくよくわかる。以前は床が油でベトベトするのが嫌で、天ぷらを作る時にはガス台のまわり半径1mに新聞紙を敷き詰めていた時期もあった。冷やし素麺を作った時に、夫から「ちょっと天ぷらっぽいのがあったらいいな」と気軽に言われ、「ちょっとって、簡単に言わないでよ!」とキレた経験もある…。
しかし、上記の問題はすべて、この「焼き天ぷらの素」で解決するわけだから、考えてみれば驚きだ。強いて難点を上げれば、揚げるのよりも時間がかかるという点だが、これも「あせらなくていい」「ほかのことをしながら調理できる」というメリットもある。油に火が燃え移る危険もなく、安全。子どもでも作れるので、手伝ってもらいやすい。
昭和産業では、2006年にも「フライパンでできる昭和天ぷら粉」を発売している(現在は終売)。広まらなかったことを思うと、「やはり揚げた方が美味しい」と思う人もいたのかもしれない。だが今回の品は、間違いなく、揚げた天ぷらと遜色がない仕上がり。これからは、「ほんのちょっと、天ぷらが欲しい」と言われて、も、キレずに機嫌よく作れそうだ。
取材・文/桑原恵美子