YouTube動画やニュース記事・ブログ記事などでは、誇張にあふれたタイトルや、過度に衝撃的な印象を与えるサムネイル画像が付されている例がよく見受けられます。
閲覧者の目を引き、アクセス数を集めるための大げさなタイトルやサムネイルには、辟易している方も多いかと思います。
倫理的な問題はさておき、こうした大げさなタイトルやサムネイルには、何らかの違法性はないのでしょうか?
1. 動画・記事のタイトルやサムネイルについて、問題になり得る法律・犯罪
動画や記事に大げさなタイトル・サムネイルを付けたとしても、大抵の場合は違法とまでは言えません。
ただし、動画や記事の目的や、タイトル・サムネイルの表現内容などによっては、景品表示法違反や名誉毀損罪・詐欺罪などが問題になる可能性があります。
1-1. 景品表示法の不当表示規制
景品表示法※5条では、商品やサービスの供給者による「優良誤認表示」「有利誤認表示」などの不当表示を禁止しています。
※正式名称:不当景品類及び不当表示防止法
商品やサービスの宣伝動画や宣伝記事に、実態とはかけ離れたタイトルやサムネイルを付した場合、景品表示法違反の不当表示に当たるケースがあるので注意が必要です。
1-2. 名誉毀損罪
動画・記事のタイトルやサムネイルが、他人の社会的評価を下げる内容である場合、名誉毀損罪(刑法230条1項)によって処罰される可能性があります。
名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
1-3. 詐欺罪
商品やサービスを購入させる目的で、宣伝動画や宣伝記事にウソのタイトル・サムネイルを付した場合、詐欺罪(刑法246条1項)によって処罰される可能性があります。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
2. タイトル・サムネイルが景品表示法違反に当たるケース
動画・記事に付されたタイトル・サムネイルのうち、商品やサービスの供給者が内容を決めていて、かつ優良誤認表示または有利誤認表示に該当するものは、景品表示法違反に当たります。
2-1. 商品やサービスの供給者による「表示」であることが必要
景品表示法の不当表示規制は、商品・サービスの供給者による表示(広告)のみを対象としています。
たとえば、商品やサービスを販売する会社が、自社サイトや自社のYouTubeチャンネルにアップした動画・記事のタイトルやサムネイルは、景品表示法の不当表示規制の対象です。
これに対して、販売会社から委託を受けたYouTuberがプロモーション動画を制作・公開する場合(いわゆる「企業案件」)や、アフィリエイトブログに宣伝記事を掲載する場合などには、原則として景品表示法の不当表示規制は及びません。
商品やサービスの供給者による表示(広告)ではないためです。
ただし、動画や記事の公開者が販売会社と商品・サービスを共同で供給している場合には、公開者も景品表示法による規制の対象となります。
また、公開される動画・記事の内容を販売会社が決めている場合、販売会社による「表示」とみなされて、景品表示法の規制が適用される可能性があるので注意が必要です。
2-2. 優良誤認表示に当たるタイトル・サムネイルの例
景品表示法で禁止される「優良誤認表示」とは、商品やサービスの品質・規格などが、実際のものや競合他社のものより著しく優良であると見せかけて、一般消費者を誤導する表示です(景品表示法5条1号)。
たとえば、販売会社が公開した商品・サービスの宣伝記事や宣伝動画に、以下のような表現が含まれるタイトル・サムネイルを付した場合、優良誤認表示に該当する可能性があります。
<優良誤認表示の例>
「飲めば100%病気が治る! 超強力サプリメント」
「短期間で確実に5kg以上減量可能! 医学専門家お墨付きのダイエット食品」
「業界No.1の合格実績! ノウハウが詰まった勉強法マニュアル」
特に上記の例のように、「100%」「確実」のような表現や、「No.1」のような最上級表現を根拠なく用いた場合、優良誤認表示に当たる可能性が高いので注意が必要です。
2-3. 有利誤認表示に当たるタイトル・サムネイルの例
同じく景品表示法で禁止される「有利誤認表示」とは、商品やサービスの価格などの条件を、実際のものや競合他社のものより著しく有利であると見せかけて、一般消費者を誤導する表示です(景品表示法5条2号)。
たとえば、販売会社が公開した商品・サービスの宣伝記事や宣伝動画に、以下のような表現が含まれるタイトル・サムネイルを付した場合、有利誤認表示に該当する可能性があります。
<有利誤認表示の例>
「効果がなければいつでも返品可能! 強力ダイエットマシーン」(実際には厳しい返品条件が設定されている)
「驚異の95%オフ! 今すぐ買うべき爆益投資マニュアル」(定価で販売された実績がない)
「業界最安値! 不動産仲介サービス」(業界最安値であることの基準と根拠が示されていない)
3. タイトル・サムネイルが名誉毀損罪に当たるケース
動画や記事のタイトル・サムネイルが名誉毀損罪に該当するのは、何らかの事実を摘示したうえで、他人の社会的評価を下げるような内容が含まれている場合です。
<名誉毀損罪の例>
「芸能人Xが三股不倫」
「有名スポーツ選手Yと反社会的勢力の黒い繋がりとは?」
ただし、以下の①②いずれかに該当する場合には、名誉毀損罪の成立が否定されます(刑法230条の2、最高裁昭和44年6月25日判決)。
①公共の利害に関する特例の要件((a)~(c)すべて)を満たす場合
(a)動画や記事の内容が、公共の利害に関する事実に関係すること
(b)動画や記事を公開する目的が、専ら公益を図ることにあったと認められること
(c)摘示した事実について、真実であることの証明があったこと
②摘示した事実について、真実であると誤信したことにつき、確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合
4. タイトル・サムネイルが詐欺罪に当たるケース
動画や記事のタイトル・サムネイルが詐欺罪に該当するのは、公開者の側に、閲覧者を騙して商品やサービスを購入させる意図がある場合です。
<詐欺罪の例>
「寝てても資産が増える! プロによる投資運用サービス」(無登録業者による「ポンジ・スキーム」の場合)
5. まとめ
実際には、動画や記事のタイトル・サムネイルが多少大げさであっても、法律上の責任が問われるケースはそれほど多くありません。
しかし、商品・サービスの誇大広告に当たる表現や、実際に被害者を生むような表現などをタイトル・サムネイルに含めた場合は、法律上の責任を負う可能性がある点にご注意ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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