50代女性の養子になっていた20代男性が、保険金を得る目的などで養親を殺害したと疑われる事件が各メディアで報道されています(被疑者の20代男性はすでに死亡)。
養子縁組は、子どもと里親が行う場合などのほか、養子側が大人になってから行われるケースもあります。大人同士の養子縁組は、どのような目的で行われるのでしょうか?
今回は、養子縁組の効果や手続き、大人になってから養子縁組をする主な目的、養子を迎える場合の注意点などをまとめました。
1. 養子縁組とは?
養子縁組とは、養親と養子の間で、新たに法律上の親子関係を発生させる手続きです。
1-1. 養子縁組の効果
養子縁組によって、養親と養子の間には法律上の親子関係が発生します。
具体的には、法律上の親子関係に基づき、以下の権利義務が生じることになります。
①扶養義務
養親と養子は、直系血族として互いに扶養義務を負います(民法877条1項)。
②相続権
養子は養親の子として、常に養親の相続人となります(民法887条1項)。
また、養子に子がいない場合には、養親が養子の相続人となります(民法889条1項1号)。
③親権
養子が未成年者の場合、養親の親権に服することになります。
その反面、実親は親権を失います(実親と養子の親子関係は、特別養子縁組の場合を除いて残ります)。
また、養子は原則として養親の戸籍に入り(戸籍法18条3項)、それに伴って氏(苗字)が養親のものに変わります。ただし例外的に、養子が結婚していて、戸籍の筆頭者の配偶者になっている場合は、戸籍や氏は変動しません。
1-2. 養子縁組の手続き
養子縁組の効果は、養親・養子いずれかの本籍地または住所地の市区町村役場に対して届出を行った時点で発生します(民法799条、739条1項、戸籍法66条)。
なお、届出の段階で以下の要件を満たしていなければなりません。
・養親は20歳以上(民法792条)
・養親は養子よりも年長(民法793条)
・後見人が被後見人を養子とする場合は、家庭裁判所の許可を得る(民法794条)
・配偶者のいる養親が未成年者を養子とする場合は、原則として配偶者とともに養親になる(民法795条)
・養親または養子に配偶者がいる場合、原則としてその配偶者の同意を得る(民法796条)
・未成年者を養子とする場合は、原則として家庭裁判所の許可を得る(配偶者の連れ子や孫などを養子とする場合は不要。民法798条)
2. 大人になってから養子縁組をするのはなぜ?
大人になってから養子縁組をする目的は、以下の3つのいずれかに当てはまるケースが多いです。
2-1. 子どもの結婚相手(婿養子など)に家業を継がせるため
家業の後継者に子どもの結婚相手(婿養子など)を指名する際に、養子縁組が行われることがあります。
現経営者と後継者が養子縁組をすることは必須ではありませんが、家業に深くコミットしてもらう、苗字を揃えて対外的に正統な後継者であることをアピールするなどの意図があるようです。
2-2. 相続対策のため
養子には養親の相続権が発生するため、遺産を与えたい人を養子に迎えるケースがあります。
養子縁組をしなくても、遺言書を作成すれば遺産を与えることは可能です。しかし、遺言無効などの場合に備えて、確実に遺産を与える観点から養子縁組が行われることがあります。
また、以下に挙げる相続税の非課税枠は、法定相続人の人数に応じて金額が決まります。
①基礎控除額
3,000万円+600万円×法定相続人の数
②死亡保険金の非課税限度額
500万円×法定相続人の数
③死亡退職金の非課税限度額
500万円×法定相続人の数
養子については、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人まで法定相続人の数にカウントされます。そのため、相続税の非課税枠を広げる目的で、養子縁組が行われることがあります。
2-3. 養子を生命保険の受取人に指定するため
生命保険の受取人は、配偶者や子など、被保険者と一定の続柄にある者に限られています。
そのため、遠い親族や血縁関係のない他人を生命保険の受取人にしたい場合、養子縁組を行うことがあります。
3. 他人を養子に迎える際の注意点
大人になってからの養子縁組は、相続や生命保険など、財産絡みの理由で行われることが多いです。その反面、養子縁組を巡る以下のようなトラブルには十分ご注意ください。
3-1. 実子などとの間で、相続争いが発生するリスクがある
相続権を取得した養子は、実際に相続が発生した際、実子などとともに遺産分割を行います。
特に、赤の他人を養子とした場合には、他の相続人は養子が遺産を相続することに反発し、深刻な相続トラブルに発展する可能性があるので要注意です。
3-2. 相続税対策のみを目的とした養子縁組は、無効となる可能性がある
相続税対策など、財産的な目的が主である養子縁組も、直ちに無効となるわけではありません(最高裁平成29年1月31日判決)。
ただし、縁組をする意思(=実質的な親子関係を形成する意思)が全くない場合には、養子縁組が無効となる可能性があるので注意が必要です(民法802条1号)。
3-3. 詐欺目的の養子縁組にも要注意
最近報道されている事件のように、養子側が詐欺の目的を有しており、養親から財産を騙し取る目的で養子縁組が行われるケースも稀に存在します。
たとえどんなに長年の付き合いであっても、赤の他人から養子縁組を誘われた場合には、詐欺目的である可能性も念頭に置きつつ、十分慎重にご検討ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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