人間ならば、誰しも週に1日くらいは「凡庸な時間」を持っているはずだ。
しかし、己が「平凡な人間」であることを認めたくないばかりに「凡庸な時間」を全て潰してしまう人が多くなっている気がする。
「何者でもない自分」「単なるモブに過ぎない自分」を否定しようとし、結局は四六時中息詰まるような環境を自らの手で作り出してしまう……という例を筆者は幾度となく目撃している。
「凡庸な時間」があるということは、本来であれば幸せなことだ。そしてその時間は誰にも邪魔をされず、ただひたすら目の前の景色に没頭したい。
そんな時間を、ヘッドマウントディスプレイ『SMAGULA』は実現してくれる。
450インチを独り占め!?
VRゴーグル、ARグラス、ヘッドマウントディスプレイ。それらは単に呼び方の違いのみならず、各々の目指す方向性をも示している。
たとえばARグラスの場合は、製品にもよるが大抵は「拡張空間の実現」を目指している。
筆者が小学生の頃に放映していた『ドラゴンボールZ』に出てくるスカウターは、まさに拡張空間そのものである。あのような具合にGoogle Mapも表示できたら確かに便利だが、一方でARグラスには「没入感」というものは求められていない。
「普段の視界にプラスアルファするためのガジェット」だから、それを装着したまま外を歩けないほどの没入感はむしろ必要ない。
今回解説する『SMAGULA』は、ARグラスとは真逆の方向性だ。即ち、この製品の醍醐味は「徹底した没入感」にある。
4K対応、FOV68°視野角、3D切り替え、そして450インチ相当の画面を視聴できるというスペックである。よ、よんひゃくごじゅっいんち!?
ドライブインシアターの思い出
パンデミックをきっかけに、ドライブインシアターというものが復活した。
「復活した」というのは、かつて日本にもこの形態の映画鑑賞施設が存在したからだ。
筆者は生後1ヶ月から高校を卒業するまで、神奈川県相模原市で生活していた。小学生の時分、相模原市内にあったアイワールドというディスカウントストアがあり、そこの駐車場がドライブインシアターになっていた時期があった。
野外なのに映画館の大画面を眺めることができるというのは、子供心に深く刺さった。
筆者の自宅は法務省管轄の老朽化した狭っ苦しい官舎で、それ故に「大画面に憧れを持っていた」ということも作用していたはずだ。
しかし『SMAGULA』があれば、狭い自宅だろうと車の中だろうといつでも映画館並みの大画面を楽しむことができる。
そしてそう書くからには、もちろん製品を実証している。
PC、スマホ、ゲーム機とも接続可能で、動画視聴から合間のゲームプレイにまで対応する『SMAGULA』。今回はNintendo Switchにつないでみる。
筆者が今プレイしているのは『ポケモンユナイト』『ダークソウルリマスター』、そして『スプラトゥーン2』。
そういえば9月9日には『スプラトゥーン3』が発売される。もちろん、筆者も予約済み。いよいよ四十路が近くなってきた今だが、それでも子供の頃のようにゲームのコントローラーが手放せない状態だ。
というわけで、『SMAGULA』をSwitchのドッグに接続してプレイ開始。すると……。
目が追いつかないぞ!
『SMAGULA』を装着した筆者を襲ったのは、頭痛である。これは文字通りの、そして捻りなしの頭痛だ。
目の前にあるのは、まさに本物の映画館に勝るとも劣らない大画面。そしてそこに映し出される、Switchに収録されたゲームの映像。「ゲームのために映画館を貸し切った」と表現してしまっても支障はないほどの迫力だ。
が、そのような画面でプレイするゲームは……頭がグラングランする! 激しいアクションに、眼球が追いつかないぞ!
これは、開発者とインポーターには申し訳ないが「『SMAGULA』は扱い方注意の製品」と言わざるを得ない。
いや、マジで酔うぞコレ! 『ダークソウルリマスター』などは、自キャラも敵キャラも激しく動く上に恐ろしく難易度の高いアスレチックを進まなければならないから、尚更グラングラン!
横への急な移動の際、脳が片側にだけ「グワン!」と偏ってしまうような感覚、これは一体何なんだ!?
なお、今回のレビュー記事を書くに当たって混沌の魔女クラーグさんのご協力をいただきました。容赦ない攻撃ありがとうございました。
そんなクラーグさんを倒す前に、筆者は頭痛に襲われてしまう。あぁ、こりゃ無理して長時間プレイするのは良くねぇな。
大画面にありがちな画質の粗は殆ど見受けられず、ダクソファンの間では有名なクラーグさんの美しい上半身も素晴らしい画素数で拝められる『SMAGULA』。
それ故に人間の目が追いつかず、これは慣れが必要と感じた次第である。
言い換えれば、性能面に全く問題はないということだ!
クラウドファンディングGREENFUNDINGで公開されているページにある「極上の没入感」という文言は、決して誇張などではない。
たったひとりの楽園
ちなみにこの『SMAGULA』、ドローンの映像をスマホ経由でミラーリングするということも可能だ。
FPVドローンの操作もできるというわけだが、これも実施する際は周囲の安全に配慮しなければならない。
とにかくこの『SMAGULA』は、高性能・高画質・多機能故のある種の恐ろしさが含まれている。
『SMAGULA』は視力調整機能付きで、何と視力が低い人でも裸眼で扱うことができる。とりあえずこの製品を1台所有すれば、己の発想次第で様々な用途を見いだせるはずだ。
そして『SMAGULA』は、土日の数時間だけ許された「凡庸な人間になる瞬間」をこれ以上なく彩ってくれるだろう。
普段の肩書きを机に置き、特定の曜日の特定の数時間だけ趣味の映画鑑賞に没頭する。そこは誰にも邪魔されない、自分だけの領域だ。
家族も、訪問者も、スマホの画面も、そしてどこからか飛んできた蚊すらも視界に入れない。週末にだけ実現する、たったひとりの楽園――。
『SMAGULA』は毎日頻繁に利用する製品ではないが、貴重な休日に「ただの人」になって趣味に没頭するためのエンタメガジェットと言えるのではないか。
『SMAGULA』はGREENFUNDINGにて、6万8,880円(製品1台提供・9月5日現在)からの出資を募っている。
【参考】
極上の没入感を、450インチ大画面の4K対応3D映像で。進化した究極のヘッドマウントディスプレイ「SMAGULA」-GREENFUNDING
取材・文/澤田真一