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【深層心理の謎】不特定多数の人が事実と異なる記憶を共有する現象「マンデラ効果」は視覚的にも存在していた

2022.09.09

 何の疑問も抱きようがなく、自信を持って口にした地名だったが、やんわりと読み方のミスを指摘されてしまった。我ながらお粗末な話だが、事実は受け入れなければならない――。

地名の読み間違えについて考えながら四ツ谷を歩く

 所用を終えて四ツ谷駅界隈に来ていた。7時を過ぎたところだ。近場だが普段はあまり来ることがない街である。たぶんコロナ禍前以来のことだ。戻ってから片づけなければならない作業が少し残っているで「ちょっと一杯」というわけにもいかないのだが、どこかで何か食べて帰ることにしよう。

※筆者撮影

 今日はJRではなく地下鉄を利用してここにやって来た。乗り換え駅のホームで電車を待つ間、壁に表示されている東京メトロの路線図を何気なく眺めていて気づいたのは、東京の地下鉄の駅名には「町」がつく駅が多いということだ。

 そしてこの「町」が「まち」なのか「ちょう」なのか、なかなか把握が難しかったりもする。小川町(おがわまち)は「おがわちょう」と言ってしまいそうだし、田原町(たわらまち)や稲荷町(いなりちょう)、宝町(たからちょう)などもその時々で間違えそうに思えてくる。日常的に利用していない駅だけに、きっと言い間違えるだろうし、これまでに何度も呼び間違えていそうだ。

 四谷見附交差点の外堀通りを市ヶ谷方面に進む。フライドチキンの店があるが、今は鶏肉という気分でもなかった。もう少し歩いてみよう。

 馴染みのない地名は読み方が難しいケースがあるわけだが、実は先日、我ながら情けない体験をしてしまった。

 仕事に関係することで、ある施設に電話したのだが、所在地の住所の確認でこちらから「愛知県名古屋市千種区~」と読み上げたのだが、その区名を自分はまったく当然のように「ちぐさ」と発音したのだ。

「はい。その“ちくさ”の住所で間違いありません」と先方は返事をして用件は終わり、その後少しして通話を終えた。

 記事についての確認なので発音は関係ないこともあり、決して修正を求められたわけではなかったのだが、“ちくさ”が気になってネットで調べてみると、確かに千種区は「ちくさく」であった。この歳になる今に到るまで、千種区の読み方が誤ったままであったことになる。

 我ながら意気消沈する体験であったが仕方のないことだ。むしろ気づかせてくれる機会が得られたことのほうを感謝すべきである。

 この誤りの原因はかつての人気女子プロレスラーの名前にあることは間違いない。「名古屋市千種区」という表記を見れば、個人的にそのレスラーの姿がまず最初に思い浮かんでしまうのである。

「視覚的マンデラ効果」は存在する

 通りを進む。歩いてすぐの左側に「しんみち通り」のアーチ看板のある商店街入口があった。いろいろと飲食店がありそうだ。入ってみよう。

※筆者撮影

 地元の人間ではない者にとって、地名の読み方が難しいケースは少なくないともいえるのだが、この「千種」については自分以外にも、特にこの女子レスラーをよく知る世代であれば、きっと多くが同じ間違えをしているのではないかとも思えてくる。

 このように事実と異なる記憶を不特定多数の人が広く共有している現象は一部で「マンデラ効果(Mandela Effect)」と呼ばれていて、南アフリカの指導者ネルソン・マンデラ氏について実に多くの人が1980年代に死亡していた(実際の死去は2013年)と思い込んでいたことに由来している。

 そして最近の研究ではこのマンデラ効果がビジュアルの記憶にも見られることが報告されていて興味深い。たとえばピカチュウの尻尾の先端が黒い(実際は黒くない)と多くが思っているというのである。


 マンデラ効果は、大衆文化における特定のアイコンの共有された一貫した偽の記憶を説明するインターネット現象です。「視覚的マンデラ効果(VME)」 は、ビジュアルアイコンに固有のマンデラ効果(例:モノポリーの男性は片眼鏡をかけていると誤って記憶される)であり、まだ経験的に定量化またはテストされていません。

 実験1では、人気のある図像からの特定のイメージが、一貫した特定の誤った記憶を引き出すことを示しています。

 実験2では、視線追跡のような方法を使用することで、この現象を引き起こす注意や視覚的な違いは見つかりませんでした。

 これらの画像の自然な視覚体験に明確な違いはなく(実験3)、これらのVMEエラーは想起中にも自然に発生します(実験4)。

 これらの結果は、視覚経験の大部分が正規のイメージであるにもかかわらず、人々が一貫して同じ誤った記憶エラーを起こす特定のイメージがあることを示しています。

※「PsyArXiv」より引用


 米シカゴ大学の研究チームが2022年3月に「Psychological Science」で発表した研究では、有名なロゴやキャラクターに関してはしばしば「視覚的マンデラ効果(Visual Mandela Effect、VME)」が見られることを調査を通じて明らかにしている。

 100人が参加した調査では、ポップカルチャーのアイコンとキャラクターについて本物の画像に加えて、微妙な加工が加えられた2つの画像が用意され、それを見た参加者にどれが本物の画像であるかを特定してもらい、その選択にどの程度の自信があるのかを自己評価して報告してもらった。

 収集したデータを分析した結果、ある特定の加工された画像を本物であると主張している者が多いことがわかり、しかもその主張に自信を持っていることが浮き彫りになったのだ。

 例えばピカチュウの尻尾の先は黒く、モノポリーの男性キャラクターは片眼鏡をかけていると、多くの参加者が誤って信じていたのである。しかもその解答は自信を持って行われていたのだ。

 これはつまり「視覚的マンデラ効果」が実際に存在することの証であり、単なる記憶だけでなく、ビジュアルにおいても広く共有されている誤ったイメージがあることになる。

 マンデラ効果には視覚的な側面もあるということで、名古屋市千種区~の表記を見て女子レスラーのビジュアルが思い浮かんでくることもまた、ひょっとすると誤った記憶の定着に関係しているのかもしれない。

町洋食のビーフステーキに舌鼓を打つ

「しんみち通り」を進む。狭い道幅の両側にラーメン屋や焼肉屋、海鮮系居酒屋などが並んでいる。地下や2階に構える店舗もあり目移りしてしまう。

※筆者撮影

 左手に赤い看板のレストランが見えた。歩みを止めて店先のメニューを見ると町の洋食店だ。ステーキを食べるのもいい。入ってみよう。

 店内は長い弧を描いたカウンター席だけで、隔てた先が比較的広い調理場になっている。先客は3人いて、当然横に並んではいるがグループ客のようだ。入口近くに設置されている券売機で「サーロインビーフステーキセット」のボタンを押す。エビフライやハンバーグも美味しそうだが次の機会にしよう。

 コップの水を持ってきたお店の人に食券を渡す。焼き具合とソース(ニンニクかショウガ)を聞かれ、ミディアムレアとショウガでお願いした。

 先客も今入ってきたばかりのようで、お店のシェフは調理に余念がない。カウンターからは調理場の様子が丸見えである。

 今さらのように思い出したがここは茗荷谷にもあるお店だ。確か茗荷谷のお店でもほとんど同じようなステーキセットを食べたはずである。メニュー選びに個人的な偏りがあるのは自覚しているが、ほかのお店でも結局前に来た時と同じメニューを注文してしまうことは多い。

※筆者撮影

 ステーキがやってきた。町洋食のステーキということでボリュームは求めていなかったがじゅうぶんな量である。熱いうちにさっそくいただこう。

 気づくのが遅かったが、店内に流れているBGMが1970年代~80年代の日本のアイドル歌手の楽曲ばかりである。店主の趣味ということだろうか。決して自分から望んで聴いたりはしない種類の楽曲だが、同じ世代としては懐かしい。名古屋の地名を聞いて思い出す女子プロレスラーもそうえいばこの時代の人気者である。

 このレスラーとタッグではなく“ペア”を組んでいたもう1人の選手のほうも、東京都北区・王子の飛鳥山公園界隈に来た時には何となく頭に浮かんでくる。もちろんこの場合の読み方は間違ってはいない。

 そういえば王子にも久しく訪れていない。時間がある時に王子のおでんが売りの立ち飲みのお店で「ちょっと一杯」してみたいものだ。

 まぁ今はあまり余計はことは考えず、目先のステーキを美味しくいただくとしよう。食べ物に関することでマンデラ効果があるのかどうかはわからないが、食べたことがないものはその味を知らないのだから、食べたことがあるという誤った記憶は生じ難いような気はする。

 むしろ食べたことがあると勘違いするほど多くの味覚を知っているのは、それはそれで素晴らしいことだ。とすれば同じようなメニューばかり注文してばかりいないで、たまには冒険してみてもいいのだろう。もちろん今食べているステーキもこれはこれで文句なしに美味しいのだが。

文/仲田しんじ

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