離婚した元夫婦が、子の親権を共同で行使する「共同親権」は、現行民法において認められていません。
法制審議会家族法制部会では、共同親権を新たに導入すべきかどうかについて検討が続けられています。2022年8月中には、共同親権に関する事項を含む中間試案が公表される予定でしたが、先日見送りが発表されました。
参考:法制審議会家族法制部会第19回会議(令和4年8月30日開催)|法務省
なぜ中間試案の公表は見送られたのでしょうか。また、現時点ではどのような検討が行われているのでしょうか。法制審議会における議論状況をまとめました。
1. 現行民法では「単独親権」のみ|共同親権は不可
現行民法のルールでは、夫婦が離婚する場合、必ずどちらか一方を親権者と定める必要があります(単独親権。民法819条1項、2項)。その反面、離婚後の父母の両方を親権者とする「共同親権」は認められていません。
しかし、離婚後も父母の両方が子の養育に責任を持つべきであるなどの考え方から、法制審議会家族法制部会にて、民法改正による共同親権の導入が議論されています。
2. わかりづらい共同親権の「中間試案(案)」|内容は?
中間試案の公表が見送られたのは、部会の内外から「選択肢が入り組んでいてわかりづらい」との指摘があったことを踏まえたためとされています。
法制審議会家族法制部会第19回会議の部会資料である「家族法制の見直しに関する中間試案(案)」において示されている、共同親権の導入に関する選択肢をまとめると、以下のとおりです。
(1)甲案:共同親権を認める
(a)共同親権・単独親権のどちらが原則か
甲①案:共同親権を原則とする(一定の要件を満たす場合に限り、単独親権を認める)
甲②案:単独親権を原則とする(一定の要件を満たす場合に限り、共同親権を認める)
(b)共同親権の場合、監護者を定めることは必須か
A案:共同親権とする場合、必ず父母の一方を監護者と定める
B案:共同親権とする場合、監護者を定めるかどうかは任意(父母双方が監護を行うことも可能)
(c)共同親権かつ監護者を定めた場合、親権は誰が行使するか
α案:監護者が単独で親権を行うことができ、その内容を事後に他方の親へ通知する
β案:親権は父母間の協議に基づいて行う。協議が調わないとき・協議ができないときは、監護者が単独で親権を行うことができる
γ案:親権は父母が共同して行う。父母の一方が親権を行うことができないときは、他方が行う。重要な事項について協議が調わないとき・協議ができないときは、家庭裁判所が親権を行う者を定める
(d) 共同親権かつ監護者を定めた場合、子の居所は誰が決定するか
X案:監護者が決定する
Y案:α案・β案・γ案に従って決定権者を定める
(2)乙案:共同親権を認めない(従前どおり、単独親権とする)
共同親権を認める「甲案」を採用する場合、上記(a)~(d)の4つの論点があり、それぞれ2~3の選択肢が設けられています。
共同親権を認めない「乙案」も含めれば、組み合わせのパターンは25通り(=2×2×3×2+1)もあり、たしかに選択肢を絞り切れていない印象は拭えません。
3. 共同親権を認める場合に、問題となる論点の概要
共同親権を認める甲案を前提として検討されている、(a)から(d)の論点についてもう少し詳しく見てみましょう。
3-1. 共同親権・単独親権のどちらが原則か
甲①案:共同親権を原則とする(一定の要件を満たす場合に限り、単独親権を認める)
甲②案:単独親権を原則とする(一定の要件を満たす場合に限り、共同親権を認める)
共同親権を原則とする甲①案は、父母双方が子の養育につき責任を持ち、熟慮のうえで養育方針を決定することが子の最善の利益に資するとの考え方に基づいています。
これに対して、単独親権を原則とする甲②案は、父母間の意見対立による弊害を強く懸念する立場から提案されています。
3-2. 共同親権の場合、監護者を定めることは必須か
A案:共同親権とする場合、必ず父母の一方を監護者と定める
B案:共同親権とする場合、監護者を定めるかどうかは任意(父母双方が監護を行うことも可能)
監護者の定めを必須とするA案は、日常的な事項の決定などを機動的に行う、父母の意見が対立した場合に適時の意思決定を可能にするといった理由から提案されています。
監護者の定めを任意とするB案は、子の身上監護の在り方について柔軟な選択を可能とすべきであるとの考え方に基づいています。
3-3. 共同親権かつ監護者を定めた場合、親権は誰が行使するか
α案:監護者が単独で親権を行うことができ、その内容を事後に他方の親へ通知する
β案:親権は父母間の協議に基づいて行う。協議が調わないとき・協議ができないときは、監護者が単独で親権を行うことができる
γ案:親権は父母が共同して行う。父母の一方が親権を行うことができないときは、他方が行う。重要な事項について協議が調わないとき・協議ができないときは、家庭裁判所が親権を行う者を定める
α案は、監護者に事実上の単独親権を与えるものです。共同親権の弊害が強く意識された案であり、現行民法のルールと大差がないとの見方もあります。
β案は、共同で親権を行使することを原則としつつ、最終的な決定権は監護者が持つという案です。α案ほどではないものの、監護者に強い権限が認められます。
γ案は、親権の行使について監護者に特別な権限を与えず、可能な限り最大限、父母共同での親権の行使を義務付ける案です。共同親権の精神にはマッチしていますが、意見対立が発生すると機動的に親権を行使できなくなる懸念があります。
3-4. 共同親権かつ監護者を定めた場合、子の居所は誰が決定するか
X案:監護者が決定する
Y案:α案・β案・γ案に従って決定権者を定める
X案は、監護者が子の居所を決定する権限を持つというもので、現行民法の解釈と整合しています。
Y案は、現行民法の一般的な解釈とは異なり、子の居所についても、親権の行使と同様の要領で決定するというものです。
4. 共同親権に関する民法改正の展望
2022年8月中の中間試案の公表は見送られましたが、今後は制度設計の選択肢を整理したうえで、数か月以内に中間試案の公表が予想されます。
依然として、共同親権に対する反対意見も根強いところであり、実際に共同親権を認める法改正が行われるかどうかは不透明な状況です。
中間試案の公表後は、パブリックコメントによる意見募集が行われる予定であり、集まった意見が共同親権導入の行方を左右する可能性が高いと見るべきでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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