シトロエンは「シトロエンの哲学に基づく大胆で革新的、かつ快適なロングツーリングを実現するフラッグシップモデル」となるC5 Xを発表、10月1日からまず1・6Lガソリンエンジンを搭載するC5 X SHINEPACKを発売する。
シトロエンC5の先代モデルは4ドアノッチバックとツアラーと呼ばれるステーションワゴンで構成され、2007年に登場し(日本では2008年から導入)、ハイドラクティブサスペンション最後の搭載車として2015年で生産を終えている。つまり、7年の空白の後(2019年からC5エアクロスというクロスオーバーモデルが存在。フェイスリフトの予定)、シトロエンのフラッグシップモデルが復活したことになる。
先代同様に、4ドアノッチバックとツアラーと呼ばれるステーションワゴンで構成されるのかと思いきや、なんと「セダンの持つエレガンスとステーションワゴンの実用性、そしてSUVの力強さを組み合わせた」と謳われるラージサイズで独創的なクロスオーバーテイストある1モデルに絞り込まれたのだ。実車を見た限り、セダンテイストは感じにくいものの、ワゴンとSUVのクロスオーバー感が強調されたエクステリアデザインという印象だ。ボディサイズは全長4805×全幅1865×全高1490mm、ホイールベース2785mm(先代セダン比+66mm)となる。
ボディカラーはメインカラーのガンメタリックのようなグリアマゾニトゥ、オフホワイトのブランナクレ、深みのあるブラックに近い色のノア―ルベルラネラ(どれも言いにくい!?)、そして受注生産となるダークブルーのブルーマグネティックの4色。インテリアカラーは濃淡のグレーを配したツートーンレザーシートが基本となるが、色に関しては同グループのDSやプジョーに寄せたくないというこだわりがあったという。
そして何と言ってもかつてアバンギャルドを売りにしていたシトロエンらしく、現代のクルマにも遊び心を随所に注入。例えばシートなどに刻まれた、よーく見ないと分からないダブルシェブロンのロゴが配置されていたりするのである。
かんじんのパワーユニットは今回のC5 X SHINEPACKではピュアテック1・6Lガソリンターボ、180ps、250Nm、および年内導入予定の(予想) C5 X SHINEPACK PLUG IN HYBRIDモデルに搭載される225ps、360Nm+モーター、WLTCモード燃費17・3km/LというPHEVユニットだ(普通充電のみに対応)。なお、変速機はいずれも8AT。クロスオーバーモデル風だが、駆動方式はFFのみとなる(最低地上高は165mm)。ガソリンターボモデルのWLTCモード燃費は非公表だが、先行して東京~四国を往復したシトロエンのスタッフによれば、高速約80%、山道を含む一般道約20%の走行で実燃費16km/Lを達成したというから、車重1520kgのフラッグシップモデルとしてなかなかの燃費性能と言うべきだろう。
シトロエンに興味がある人なら気になるサスペンションは、魔法の絨毯と形容されたシトロエン独自のハイドロニューマチックサスペンションの流れをくむ最新のプログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)を全モデルに標準装備。タイヤサイズは205/55R19と大径だ。PHCはショックアブソーバー内にもうひとつのセカンダリーダンパーを内蔵し、一般的なショックアブソーバーで吸収しきれなかったショックを抑制、フラットライドを実現するものとされている。
今回、試乗できたのは、そのPHCを備えたガソリンターボモデルのC5 X SHINEPACKのみだが、運転席に着座すれば、ダブルシェブロンが隠れキャラとしてあしらわれたシートデザインを含め、フラッグシップモデルとしての上級感に包まれることになる。ただし、メーターは小さめで、その表示、演出はシトロエン、フラッグシップモデルとしてはかなり地味。というか、フツー。遊び心はダブルシェブロン柄に集約されたようだ。
とはいえ、先進運転支援機能、6エアバッグや360度ビジョンなどを含む安全装備、ヒーター&ベンチレーション付きフロントシート、コネクテッドナビゲーションやUSBソケット(全3個)などを含め、装備類は充実。電子パーキングブレーキとともに渋滞追従機能付きACCも用意されるのだが、唯一惜しいのは、グループ内で何故か用意されていないオートブレーキホールド機能がないことか。日本の走行環境、道路環境、日常環境ではとてもありがたい機能なのだが・・・(ルノーにはある)。
そうそう、フラッグシップモデルとしてのパッケージングもなかなかだった。身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で、ゆったりとしたサイズのシートが奢られる後席の頭上に140mm(ガラスサンルーフ装着車)はともかく、膝周り空間には270mmもの余裕があり、センタートンネルの凸が小さいため、足元もすっきり。大型アームレスト、後席エアコン吹き出し口+USBソケット×2も装備されている。
C5 Xは、ホイールアーチの黒い樹脂パーツのカバーからクロスオーバーモデル色を強く感じる人もいるはずだが、実はパワーテールゲートを開ければ、ほぼステーションワゴンの使い勝手が得られることに気づくはずだ。なにしろ広大かつスクエアなスペースに加え、フロアには重い荷物もスルスル出し入れできるレールが敷き詰められているのだから。しかも、床下収納が仕切り付きで実に使いやすく設計されているのである。個人的には、C5 Xはステーションワゴンをライトクロスオーバーモデルにアレンジしたシトロエンの高級車・・・と解釈している。
さて、ノーマル、スポーツ、エコが選べるドライブモードをノーマルにセットし、スライドボタン式のシフターをDレンジに入れて走り出せば、パワーステアリングは軽く扱いやすく、アクセルレスポンスは想像以上によいことが分かる。ちょっとアクセルペダルに力を込めただけで、実にビビッドに反応するのだ。ちょっと過敏すぎる・・・と最初は感じたものの、それが全長4805×全幅1865mm、車重1520kgのボディを持てあますことなく走らせやすい理由ではないだろうか。実際、エコモードにするとアクセルレスポンスはかなり穏やかになり、エコではあるものの、走りやすさという点ではノーマルモードに敵わない印象だ。一方、スポーツモードにセットらすればアクセルレスポンスはさらに鋭く、加速力も高まり、キビキビした運転、スポーティな運転向けとなる。が、都内のような一般道ではノーマルモードがなるほど、余裕ある動力性能を含め、もっとも走りやすく扱いやすいモードだと感じた。車内の静粛性も文句なしである。
注目の乗り心地はどうか。PHEVモデルには、速度や路面に合わせた柔軟なダンピング調整を可能にするプログレッシブ・ハイド―リック・クッションと呼ばれるサスペンションをさらに進化させた、4つのモードが選べるアドバンストコンフォートアクティブサスペンションが装着されるのだが、こちらにはそのシステムはない。
しかし、乗り心地は文句なしに素晴らしい。決してフワフワとしているわけではなく、むしろけっこう19インチタイヤの性能もあってシャキッとした乗り心地なのだが、さすが、セカンダリーダンパーの効果なのか、シトロエンならではのフラットライドが見事に実現されている。とくに東京のレインホーブリッジの下道にあるような茶色のゼブラゾーンが連続した路面、路面の継ぎ目の段差でのショック、音、振動は最小限。アドバンスコンフォートシートの心地よいホールド感、かけ心地もあって、まるで道が再舗装されたかのように感じられたほどの快適感に満ちた乗り心地を示してくれたのだ。
そしてそれと同じぐらい感動できたのが、日常域の速度でもたらされる、カーブやレーンチェンジでの、姿勢変化最小限で、路面に4輪のタイヤが吸い付くような独特かつ絶品のコーナリングフォーム。これなら、運転を始めて年月が経つが、いまだにカーブでは緊張する・・・というドライバーでも安心至極ではないだろうか。
そうそう、フランス車のエアコンは、日本車、ドイツ車、アメリカ車に比べ、効きが穏やかである。よって、試乗当日の外気温33度という環境では、日本車が25度AUTOでも十分に車内を冷やしてくれるのに対して、C5 Xは22度ぐらいにセットしないと涼しさは感じにくかったのも本当だ。ただし、かつてのフランス車のように、真夏日だと設定温度を下げ、なおかつ風量を強にして、エアコンの風の轟音の中で暑さを凌ぐ・・・ということはなかった。つまり、エアコンの作動音もずいぶん静かになったということだ。
というのが、C5 Xのガソリンターボモデルを試乗した好印象なのだが、ズバリ、真打ちグレードは後からやってくる電動車のPHEVモデルだろう。ガソリンターボモデルとPHEVモデルの価格差は現時点で106万円差だ。これは大きい。が、PHEVモデルは補助金やエコカー減税などによって、ガソリンターボモデルとの価格差は実質、約40万円になる。東京都での登録ならさらに45万円の補助が出るため、PHEVモデルのほうが実質、5万円安く買えたりするのだ(補助金が間に合えば)。仮に今、自宅に充電設備がないとして、10万円で設置したとしても、持ち出しは5万円で済む!?計算になる。それで、よりシトロエンらしい乗り心地が得られるであろうアクティブサスペンションや10スピーカーオーディオのHI-FIシステムなどが手に入るのだから、この電動車時代には、すでに先行商談も開始されているPHEVモデルを(価格的にも)薦めたくなってしまうのが本音である。
文/青山尚暉
写真/シトロエン