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米粉は世界有数の小麦輸入国・日本を救う切り札となるか?

2022.09.05

「値上げの秋」の原因は、ウクライナ情勢だけじゃない

食品メーカーの値上げラッシュが止まらない。中でも深刻なのが、輸入小麦の大幅な値上げによる、小麦製品の値上げだ。

農林水産省は、2022年4月期からの輸入小麦の政府売渡価格を、主要銘柄で17.3%の引上げを行なうと公表。その理由として、

①2021年夏の高温・乾燥による米国、カナダ産小麦の不作の影響
②米国、カナダ、豪州の日本向け産地における品質低下
③ロシアの輸出規制、ウクライナ情勢等の供給懸念

をあげている。

ニュースのイメージだと、ロシア、ウクライナからの小麦輸出減のイメージが強いが、実は日本が最も小麦を輸入している国はアメリカで、輸入量の約49%を占めている。2番目はカナダで約34%、3番目がオーストラリアで約17%。この3つのエリアで同時に小麦の不作が起こり、特に、高品質の小麦の需要が多い日本で、価格が高騰しているというわけだ。

小麦の不作の原因が欧米の異常気象によるものだとすると、今後もそれが続く可能性は高い。日本で食べられている小麦粉は約9割が海外から輸入。日本は世界上位5カ国に入る小麦輸入国であり、小麦価格の高騰が続くと、今後の食生活が激変する可能性も…。

このピンチをチャンスに変えようと、政府が着目したのが「米粉」だ。

米の消費量減少を救うのは、米粉!

農林水産省の資料によると、米の1人当たりの年間消費量は、昭和37年度をピークに一貫して減少傾向。昭和37年度と比較すると、その半分以下にまで減少している。今後の日本の人口減少を考えると、米の消費量がさらに減少するのは確実。

それと逆行して増えているのが、「米粉用」の米の需要量だ。米粉の需要量は、平成29年度までは2万トン程度だったが、グルテンフリー食品のニーズの広がりから、食品メーカーや小売店での米粉商品の開発が増加。令和3年には4万トン以上に増えている。

※令和4年8月/農林水産省「米粉をめぐる状況について」より転載

「小麦粉を米粉に替えれば即解決」ではない

9割を輸入に頼る小麦粉と違い、米粉の原料となる米の自給率はほぼ100%。「だったら、小麦粉で作っているものを全部米粉に変えれば即解決では?」と思えるが、実際はそんなに簡単ではない。

筆者が2022年9月、ある大手製粉メーカーの新商品発表会でトップに「今後、米粉代替品に変えていく予定は?」と聞いたところ、「もちろん視野に入れているが、小麦粉と米粉では、性質も加工法も全く違う。小麦粉をそのまま米粉にすれば解決というわけではない」という回答だった。

では現在、すでに米粉の代替に成功しているのは、どのような商品なのか。「味の素冷凍食品(株)」が開発した「米粉でつくったギョーザ」、米菓でシェアN0.1の「亀田製菓(株)」の新ブランド米粉パンを取材した。

皮だけでなく、羽根まで米粉100%の餃子…味の素冷凍食品

餃子売上日本一(※)で、看板商品である「ギョーザ」が今年3月で発売50周年を迎えた味の素冷凍食品(株)。同社は一部店舗及びECで先行発売していた「米粉でつくったギョーザ」の全国発売を、2021年10月3日からスタートした。

パンや焼き菓子などで小麦粉の代わりに米粉を使った商品は多いが、餃子の皮を米粉100%で作っているのは珍しい。皮だけでなく、羽根の部分も100%米粉。これは味の素冷凍食品にしかできない技術なのだという。50年間、研究と改良を重ねた餃子作りの技術があったから開発できた商品といえる。

※(市販用冷凍・チルド餃子市場2021年度売上金額ベース、味の素冷凍食品(株)ギョーザブランド計、同社調べ)

「米粉でつくったギョーザ 1袋 12個入」(税込321円)。小麦・卵・乳不使用で羽根の部分も小麦粉100%

実際に取り寄せてみた。焼く前の見た目は、いつも食べている定番の「ギョーザ」と全く変わらない。

羽根の部分は、通常品よりさらにパリパリ感がアップしているような…!?

作り方も同様に、油・水なしで調理可能

羽根の部分の水分が多く、いつもの「ギョーザ」よりもパリパリにするのに時間がかかるような

できあがった羽根はいつもの「ギョーザ」よりもっと繊細で、よりパリパリ。米粉ならではの甘みも感じられた

皮はもっちり感や甘みを強く感じる

グルテンを含まない米粉に弾力を持たせるため、研究を重ねた

味の素冷凍食品 製品戦略部 ギョーザ担当 山下賢吾氏によると、米粉の皮の技術難易度はかなり高いが、それでも開発を進めたのは、食物アレルゲンに関する問い合わせが年々増加していたため。

「最も多かったのは当社で人気の『やわらか若鶏のから揚げ ボリュームパック』でした。そこでこの商品を小麦・卵・乳不使用にリニューアルしたところ、食物アレルギーをお持ちのお客様からたくさんの喜びのお声をいただきました。切実な食物アレルギーのニーズを実感し、味の素冷凍食品の看板商品のギョーザでも米粉の皮を実現することで、一人でも多くの方に、おいしく楽しくギョーザを召し上がっていただけると考え、本製品を開発しました」(山下氏)。

「食物アレルギーをお持ちのお客様の声が、開発の原点」と語る味の素冷凍食品 製品戦略部 ギョーザ担当 山下賢吾氏

開発に着手したのは2019年ごろで、完成までに2年以上かかった。特に苦労したのは、米粉を使って小麦粉のような弾力を持たせること。小麦粉にはグルテンというたんぱく質が入っており、これがゴムのような弾力をもたらすため、餃子の皮などのように好きな形に加工できたり、弾力のあるもちもちした食感になったりする。ところが米粉にはこのグルテンが入っていないため、水を入れるだけだと粉同士がつながらず、ボロボロになって餃子の皮に加工できない。また弾力が出ないため、すぐに溶けるような頼りない食感になってしまう。

この大きな課題を解決するため、同社ではいくつもの米粉の中から目的にあう米粉を選定すること、また加工時のつなぎや喫食時の食感がでるような素材の選定に、時間を要したそうだ。

食物アレルギーのある家族を持つ購入者からの反応は大きく、「アレルギーがあるため食に対して消極的な子どもが、おいしいというメニューがまた一つ増えたこと、とてもうれしく思っています。親としても、焼くだけですぐご飯ができることが、とっても助かります」「ぜひこの商品を長く取り扱ってくださるよう、よろしくお願いします」といった声が寄せられているという。

ちなみに同社では、「米粉は小麦粉より低脂質で炭水化物含有量が多い」という特性に着目し、アスリート向けに皮の部分に米粉を使用した「For ATHLETE エナジーギョーザ(R)」も開発し販売している。米粉には、小麦粉の代替にとどまらない可能性がまだまだありそうだ。

皮に小麦粉より低脂質で炭水化物含有量の多い米粉を採用した「For ATHLETE エナジーギョーザ(R) (30個入り袋/525グラム)」(税込1200円)※写真提供/味の素冷凍食品

”炊きたてご飯”のようなお米の甘さを追求した米粉パン…亀田製菓グループ

「亀田の柿の種」「ハッピーターン」などで知られる米菓メーカーの亀田製菓グループは2022年3月より国産の米粉を100%使った食パンなど計9品目を展開。「アレルゲン2 8品目不使用の 100%国産米粉パンで、誰もが楽しめる笑顔で囲む食卓を実現する」という亀田製菓の目指す「米粉パン」 のビジョンを一丸となって推進するための新ブランド「Happy Bakery」をスタートさせた。こだわりは”炊きたてご飯”のようなお米の甘さだという。

「Happy Bakery」で販売している米粉パン「Happy Bakery」の「タイナイ 玄米あんパン 3個入」 (税込430円 )、「タイナイ おこめ丸パン (3個入)」(税込345円)。どちらも新潟県産の米粉を中心に、100%国産米粉を使用 ※価格はタイナイオンラインショップ価格

グルテンフリーはもちろんのこと、特定原材料等28品目を使用しておらず、専用工場で製造しているため、食物アレルギーを持つ人も安心して食べられる米粉パン

メーカーのおすすめは、電子レンジ加熱。何度か試したが、規定の時間で温めると、大きく膨らむ瞬間があるので、そこで取り出すと良い感じになった

電子レンジで温めた「タイナイ おこめ丸パン」。小麦粉のパンよりもきめが細かく、もっちりした食感。香ばしさとともに、噛めば噛むほど甘みが増してくるのは、お米と共通している。ほのかな塩味がきいていて、とても美味しい

小麦粉なしでもふんわりするのは、粒子の細かい「微細米粉」だから

亀田製菓(株)によると、このもちもちした食感は米に含まれる粘り成分、アミロペクチンの作用。また小麦粉なしでもふんわりさせるため、粒子の細かい「微細米粉」を使用しているとのこと。

亀田製菓は1946年の創業。米菓売上No.1メーカーであり、昔からお米を使用したあられ・おせんべいを数多く発売してきた。またお米から発見した乳酸菌や、おかゆ等のお米を元とした米菓以外の商品の発売や、グループ会社の尾西食品にて長期保存食のアルファ米の販売等、お米にまつわる様々な商品を展開している。

米粉パンの展開は、亀田製菓の“あられ、おせんべいの製菓業”からより幅広い“Better For You の食品業”への転換施策のひとつ。2021年7月に米粉パンの製造販売を手掛ける「タイナイ」をグループ会社とし、アレルギーを持つ子供だけでなく、一家全員で楽しめる米粉パンの取り扱いを亀田製菓グループとして開始した。ブランド発足のタイミングが偶然にも小麦価格高騰と重なって注目され、取材依頼も多く、売上も右肩上がりだという。

「アレルギーにお困りの方が世界的に増加している中、米粉製品は国内はもちろんの事、世界中で拡大の可能性があると思います。米粉パンの認知率は高まって参りましたが、まだ米粉100%の米粉パンを実際にお召し上がりいただいたお客様の数は少ないと思います。まずは米粉パンの魅力をお客様にお伝えし、お召し上がりいただくことで、米粉パンのふんわりもちもちとした美味しさに触れていただく事が必要だと感じています」(亀田製菓 経営企画部 コーポレートコミュニケーションチーム 池ノ上雄樹氏)。

農林水産省が米粉製品の拡大を後押ししていることもあり、米粉は近年、猛烈なスピードで技術革新が進んでいる。増粘剤や油脂等の代替として使用できる新たな米粉加工品(米ピューレ、アルファ化米粉など)が登場し、多岐に渡る米粉の活用がさらに進んでいるほか、“米粉”に特化した専用の新品種も続々と誕生している。今後さらに米粉を使った商品が増えていくことは間違いない。「米粉でつくったギョーザ」のように米粉を使っていることを意識させない商品、「米粉パン」のように米粉ならではの魅力を訴求する商品、双方向でさらに選択肢が広がりそうだ。

文・取材/桑原恵美子

編集/inox.

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