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【深層心理の謎】何ひとつ悪い印象がなくてもコロナ禍と関連しただけで記憶が汚染されてしまう理由

2022.08.30

 すごく久しぶりに見かけたティッシュ配りの人は、ティッシュを配ってはいなかった。そばに置かれたティッシュの入った段ボールにご自由にお持ちください」のメッセージが記されていたのだ――。

ティッシュは配られてはいなかった

 コロナ禍をきっかけに変わった“行動様式”はいくつかあるが、やはり人との接触の仕方が大きく変わったということで、街でティッシュやビラを貰うことが極端に減ったことにさっき気づいた。それというのも駅前でティッシュ配りの人をずいぶんと久しぶりに見たからだ。

 所用で神田駅界隈に来ていた。用件は終えたのでちょうどお昼の時間でもあるし、どこかで昼食にしてみたい。駅の西口から伸びる「神田駅西口商店街」に足を踏み入れる。空は快晴で、猛暑日ではないもののまだまだ暑い。

※筆者撮影

 さっき駅前で何年振りかわからないほど久しぶりにティッシュ配りの人を見かけたのだが、正確に言えばティッシュを配ってはいなかった。その人の傍らに大量のポケットテッシュが入った段ボールが置かれていて、箱には「ご自由にお持ちください」というメッセージが記されていたのだ。通りすがりに箱の前で身を屈めてテッシュを取っていく人を1人だけ見かけたが、通行人の大半は素通りしていた。

 ティッシュはやっぱり手渡されるからなんとなく受けとってしまうわけであって、「ご自由に~」となれば、当然だが本当に欲しい人しか持っていくことはないのだろう。

 しかしもちろんこのコロナ禍で、ティッシュであれ何らかのモノを通行人に手渡すという行為がちょっとあり得ない感じにはなっているだろう。配るのがビラだとしてもなかなか難しそうだ。コロナ禍もきっかけとなって、路上でティッシュやビラを配ろうとする行為は激減の一途を辿っていそうである。

 商店街を進む。通りは近くで働く人々で賑わっている。ラーメン店では行列ができていた。オフィス街のランチタイムを訪れるのも久しぶりのことだ。

 もちろんティッシュやビラを配る行為が禁止されているわけでもないが、手渡しするということはある程度は接近することでもあるし、“ソーシャルディスタンス”の面からも憚られることではあるのだろう。

 それにしても飲食店が多く選びたい放題だ。うなぎの店やステーキの店も気になるがもう少し歩いてみたい。

視覚的に嫌悪感がなくとも、記憶の“汚染効果”は働く

 商店街は延々と続いていく。そろそろどこかの店に入りたいが、何だか決めきれない。どの店も美味しそうなので、たぶんどこに入ってもよさそうではある。

※筆者撮影

 ともあれ街からティッシュ配りの人がほとんどいなくなるなど、コロナ禍の影響は決して小さくないわけだが、コロナ禍でそれまでのイメージが変わってしまった物事もある。

 多くが羨む豪華客船の船旅が実は感染症に脆弱であったことが判明し、健康的であるはずのスポーツジムでクラスターが発生するなど、それまでのイメージをいったん考え直さなければならないことが増えたともいえるだろう。

 しかし当然だが豪華客船やスポーツジムが悪いわけではない。その見た目からすればむしろ肯定的な印象を受けるビジュアルだろう。最新の研究では、何ひとつ悪い印象のないモノではあっても、コロナ禍と関連してしまったがために、ネガティブなものとして強く記憶に残されてしまうことが報告されている。


 行動免疫システム(BIS)は、病原体への曝露から保護する機能を持つ防御システムです。記憶はこのシステムの重要な構成要素です。

 COVID-19に関連した記憶の「汚染効果」を調査しました。健康な人と新型コロナウイルスに感染した人の手の中にある日用品の写真が成人(の実験参加者)に示されました。

「汚染されたオブジェクト」は「汚染されていないオブジェクト」よりもよく思い出されました。これは、人間の記憶における汚染効果が、病気の明らかな視覚的手がかりがない場合にも容易に獲得されることを示唆しています。

※「SAGE Journals」より引用


 フランス・ブルゴーニュ大学をはじめとする合同研究チームが2022年6月に「Evolutionary Psychology」で発表した研究では、嫌悪感を引き起こす要素や特徴がないモノであってもコロナ患者に関連付けられることで、そのモノの記憶に「汚染効果(contamination effect)」が働くことを報告している。

 記憶の汚染効果は、病原体から身を守る防御システムである行動免疫システム (BIS) の重要な構成要素であり、感染や汚染の危険のある物事に嫌悪感を抱き、より印象強く記憶することで、将来のサバイバルに役立てている。嫌悪感はBISの重要な部分であり、身体に危険を及ぼすものを回避する方法として進化したと考えられている。そしてこの嫌悪感は、中立的な刺激よりも注意を引き、記憶にも印象強く残るのだ。

 一般的に酷い風邪をひいていたりする患者は、誤解を恐れずに言えばその見た目で、近寄ってはならない存在として認識されるだろう。

 しかし今回のコロナ禍において、特に無症状の感染者はその外見からはほとんど見分けがつかない。そうしたほとんど見分けがつかない感染者であっても、その人物が感染者であると知ることで、記憶の汚染効果が働くのであろうか。

 これを確かめるために研究チームは実験を行った。合計80人が参加した実験では、参加者は手に各種の日用品を持っている30名の人物の画像を見せられた。画像の人物はいずれも健康そうな面持ちをしているのだが、半数はPCR検査の陰性者で、もう半数は陽性者であると伝えられた。そして画像の人物が手に持っている物体が、どの程度役立つものなのかを5段階で評価してもらった。

 このタスクは3分間で行われ、その後に参加者は画像の人物が持っていた物体を憶えているかぎりすべて書き出すことが求められた。

 回答データを分析した結果、陽性者が持っていた物体のほうがよく記憶されていることが判明したのだ。つまりビジュアル面で嫌悪感を引き起こさなくとも、陽性者であるという情報だけで、記憶の汚染効果が働いていたことになる。

 見た目がどれほど壮観でゴージャスな豪華客船であっても、コロナ禍が落ち着くまではあまり乗りたくなくなるのも無理もないということになるだろうか。

居酒屋ランチメニューの海鮮丼をいただく

※筆者撮影

 商店街のかなり奥のほうまできてしまった。途中、いくつか路地の十字路はあったのだが、信号のある大通りの交差点に辿り着く。引き返そうかとも思ったが、ひとまず信号を待ってみることにしたい。

 信号が青になり、横断歩道を渡る。駅前の賑わいからはずいぶん遠ざかったともいえるが、通りには中華料理店や居酒屋などまだまだ飲食が並んでいる。

 少し進むと右側に雰囲気がよさそうな居酒屋屋らしきお店があり、店先のスタンド看板は海鮮丼のランチメニュ―が写真付きで紹介されていた。入口には「商い中」と書かれた木板が立てかけられている。久しぶりに海鮮丼を食べてみるのもアリだ。入ってみよう。

 店内は思ったよりも広々としていて天井も高い。お店の人に店の奥のカウンター席に案内される。両側にはすでに先客がいて、テーブル席にも明らかに近隣の会社で働いているのであろう中年男性の3人組がいた。

 お水を持ってきたお店の人に外の看板にあった海鮮丼をお願いする。注文を受けてカウンターのすぐ奥にいる料理人さんが手を動かしはじめた。

 寿司屋のランチメニューでは個人的にはにぎり寿司を優先してしまうので、海鮮丼を食べることはあまりない。海鮮丼を食べるのは年に数えるほどだ。しかし寿司屋ではなく、このような居酒屋ランチで海鮮丼があれば食べてみたい。そういえばこの春に日暮里で食べた海鮮丼も美味しかった。

※筆者撮影

 海鮮丼がやってきた。すごくカラフルで美味しそうだ。一緒についてきた醤油ダレを回しかけてさっそくいただく。

 コロナ禍も3年目を迎えた今、飲食店はおおむね通常営業に戻りつつあるが、コロナ禍でこれまで以上に定着したのはテイクアウトとウーバーイーツなどの宅配サービスだろう。自宅周辺でもコロナ禍中に海鮮丼のテイクアウト店が2店ほどオープンしてそれなりにお客が入っている。

 海鮮丼をテイクアウトして自室で食べたことはたぶん一度もないはずだが、考えてみれば仕事で忙しい場合はその選択肢もあるのだろう。しかしテイクアウトだと個人的にはどうしてもケバブを優先してしまう。それにしても長く続いた飲食店の“時短営業”中には遅くまでやっているケバブ店の世話になりっぱなしであった。

 二度とあのような飲食店の“時短営業”を味わいたくないものだが、その期間中に少しばかり自分の中に変化があったとすれば、それまで以上にランチに行くようになったことだ。

 コロナ禍の中で外食を充実させようと思えば、ランチメニューにも目が向く。そしてこうして実際にこれまでならまず訪れる機会のなかったお店でランチメニューを食べる気になったことは、コロナがもたらした思いがけない恵みであるのかもしれない。

 まだまだ予断を許さない状況ではあるが、コロナ禍が明けた後もランチメニューというお得で美味しい食文化をまだまだ味わいたいものである。

文/仲田しんじ

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