乳原料をすべて豆乳に置き換えた新しいチョコレート「SOY de Chocolat」で仕掛けるカバヤ食品の挑戦
2022.08.29■連載/阿部純子のトレンド探検隊
豆乳好きも豆乳嫌いも満足できる、おいしさに振り切った“豆乳チョコレート”
9月27日にカバヤ食品から発売される新商品「SOY de Chocolat(ソイ・デ・ショコラ)」(オープン価格/参考価格:55g箱入り220円、142g大袋450円)は、豆乳とカカオの組み合わせによる新しいチョコレートカテゴリーだ。
チョコレートに対する生活者の意識調査では9割以上がおいしさを求めつつも、おいしさと共に身体や健康に良い要素を求める人が50%に上った。その反面、健康系チョコレートを牽引してきたハイカカオチョコレートのシェアは6.7%と小さく、同社では健康志向の高いチョコレートユーザーに向けて商品開発をするにあたり、健康だけでなくおいしさへのこだわりも絶対条件と位置付けた。
昨今、健康志向の高まりから、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクなど植物由来のプラントベースミルクが注目されており、プラントベースのチョコレートもヨーロッパを中心に登場し日本にも輸入されている。
製品開発においては、浸透しつつあるプラントベースのオーツミルク、アーモンドミルクも検討していたが、豆乳市場は直近10年で約2倍となり、一般消費者の既食経験が多いこと、オーツミルク、アーモンドミルクより栄養バランスが良いことから豆乳が選ばれた。
豆乳を使ったチョコレートはすでに存在しているが、少量での使用が多いことから、同社では豆乳をたっぷり使うことにこだわり、ソイ・デ・ショコラは乳原料をすべて豆乳に置き換えている。その他のチョコレートの主要原料でも、カカオマスはハイカカオ、糖質は糖アルコールオリゴ糖、油脂はMCTオイルと健康に配慮した材料を使っている。
しかし豆乳をチョコレートに多く使用すると、味と食感への弊害があり、おいしさが失われることが判明。開発期間は想定よりも長く1年半を要した。カバヤ食品の開発担当者である秋田康裕氏は「前例がないことが一番苦労した」と開発当時の様子を振り返った。
「豆乳をさらに多く使って、味をとがらせる方向でも考えましたが、今回は豆乳好きだけでなく、豆乳にあまりなじみのない方を含め多くの方に食べていただきたいと考えていたので、おいしさに振り切った味の構成として今回のバランスに着地しました。
苦労したのは、乳原料を使ったミルクチョコレートの経験が生かせないため、一から作り上げる必要があったということ。豆乳にはコクと旨みがある反面、青臭さ、豆っぽさを感じる方もいます。さらに今回は粉末タイプの豆乳を使用したため、多く入れるほど粉っぽさも出てきてしまい、なめらかさが失われてしまいました。それらを解決するため原料、配合、製法と3つの条件にこだわりました」(秋田氏)
日本で手に入る粉末豆乳はほぼ集めたというほど、原料の粉末豆乳は数十種類から厳選。
中にはとても青臭いものもあり、さまざまな豆乳を取り寄せ、毎日試作を繰り返したという。カカオマスも近年ではビーントゥバーに象徴される香り豊かで、フルーティーなものが使用されることが多いが、今回が豆乳を邪魔しない敢えてシンプルな味わいの物を選定。
チョコレートは配合によって風味がまったく異なるため、豆乳粉末とカカオマスの配合にも徹底研究し黄金比にたどり着いた。しかしここまでしても豆臭さ、粉っぽさが残ってしまったため、カバヤ食品が長年培ってきた技術力を生かし、製法によるアプローチを試みた。
「人間の舌は通常30㎛以下になると物理的に粒を感じることができないので、粒を小さくすることで粉っぽさを低減しました。さらに、熱と摩擦をかけながら生地を練り上げる精錬工程を踏むことで、豆乳独自のくせのある風味を飛ばしています。ただ条件が強すぎると良い風味まで飛んでしまうため、温度条件や時間を緻密に計算して試作を行いました」(秋田氏)
この結果、豆乳のコクや旨みを引き立て、好まれない風味の豆っぽさ、青臭さをなくした、豆乳が好きな人も、豆乳になじみがない人でも、どちらもおいしいと感じる絶妙な豆乳感を実現した。
味覚の受託分析や食べ物の相性研究を実施するAISSYの最新AIによる味覚検証試験では、チョコレートと相性が良いとされるコーヒーよりも、ソイ・デ・ショコラの味覚バランスが良いという結果が出た。
「ソイ・デ・ショコラでは粒をもう一回り大きくすることも検討しましたが、粒の大きさが0.数グラム変わるだけで風味が全く異なったため、カバヤのチョコレートの粒の大きさは完成度が高く、それがロングセラーに結びついているのだと改めて感じました。
選択肢として植物性ミルクを食べる時代が来ているのではないかと考えており、ソイ・デ・ショコラがそのスタートとして市場を盛り上げていきたいと思っています」(秋田氏)
洗剤から食品へ転向した、ヒット商品の仕掛人・宮川氏に聞く
今年1月にカバヤ食品に入社したマーケティング本部 本部長 宮川孝一氏は、前職のライオンで大ヒット商品「ルックプラス バスタブクレンジング」を手掛けた人物。洗剤メーカーから食品メーカーへ転向した宮川氏に、新たな地でのマーケティング戦略について話を聞いた。
Q・食品業界に転向した理由は?
「以前より、食べることが幸せに直結する食品は夢がある商材だと感じていまして、食べた瞬間に人を幸せにするもので、新しい価値を作れないかと考えていました。どの食品会社もおいしさの追求を基本としながら、今回の新商品のように健康への追求も行っています。
そこからさらにプラスαの理由である『食べる価値』があるような食品を生み出して、世の中に広く普及したいという思いから、この業界に転じました。前職で培ったお客様に寄り添って価値を追求するという考え方が、食品業界でも活かせるのではないかと思います」
Q洗剤と食品では全く異なる領域だがスタンスの違いを感じることは?
「価値を作る、価値を伝えるということに関しては、どちらの業界でも難しさを感じます。食品の場合、売れればそれで良しといった面もありますが、お客様に本当に感じていただきたい価値が届いていないこともあると思っていました。
そのあたりをしっかりと設計し、伝える努力をしていきたいと考えています。例えばこの食べ物はこういう瞬間に食べると、それがその方の一番の幸せにつながるというような、食品の価値を提案していくことに力を入れていきたいと考えています。そのためにはお客様の生活や求めているものをどれだけ深く知って、洞察できるのかがキモになってきます。
そういう意味で、前職ではメインユーザーである主婦層のニーズや行動、本音を汲み取ることが大事でしたが、カバヤ食品ではお菓子を食べていただくすべての世代の、どんなときに、どんな思いでお菓子を食べるのか、その気持ちに寄り添うことで新しい価値が作れると考えています」
Q・新商品「ソイ・デ・ショコラ」のマーケティング戦略について
「ソイ・デ・ショコラの開発は私の入社前からスタートしていましたが、価値をどう感じてもらうか、そこにとことん寄り添った製品作りをしています。健康系のチョコレートはカテゴリーとして活況でいろいろな商品が出ています。それぞれこだわりを持って作っておられますが、健康系もいいけれどおいしさも捨てられないというお客様の気持ちに寄り添うならば、声高に健康を主張するよりも、おいしさを前面に謳いたいところもあります。
その点、豆乳ならば、ヘルシーであることを説明する必要もないくらい浸透しており、ソイラテのように日常的に飲食している消費者が非常に多いので、豆乳とカカオを合わせたチョコレートと聞くだけで『これはおいしいかも!』と期待感が高まります。
一方で、豆乳は青臭さやえぐみが苦手という方も多くいます。豆乳が好きな人でも嫌いな人でもおいしく食べられる豆乳のチョコレートだったら最高じゃないか、そういう想いで作った商品がソイ・デ・ショコラです。お菓子ならその価値が瞬時に伝わりますので、そのあたりも意識してコミュニケーションやパッケージも決めています。
もちろん、ソイ・デ・ショコラだけを食べてヘルシーになるというわけではないですが、食の喜びはおいしさだけではないので、健康的という安心感ももたらすことができるのではないかと思います。ソイ・デ・ショコラはこれまでとは全く違った切り口の新しいチョコレートであり、幅広いお客様に受け入れられ、市場の拡大に貢献できる商品と自負しています」
【AJの読み】豆乳ガチ勢の筆者と、豆乳大嫌いの息子が試食した結果は?
健康志向にフォーカスし豆乳感をより出した製品にするのか、豆乳嫌いにも受け入れられるおいしさを目指すのか、開発者の秋田氏の話からもそのあたりのせめぎ合いが伝わってきた。そこで毎日飲むラテは豆乳オンリーの筆者と、においだけで無理という息子の双方で、ソイ・デ・ショコラを試食してみた。
期せずして二人の第一声が「あっさりしておいしい」。
青臭さ、豆っぽさを含めて豆乳が大好きなガチ勢の筆者からすると、豆乳感がほとんどないことに少々落胆した。しかし、ソイ・デ・ショコラは乳原料を使ったミルクチョコレートのような後味に残る甘ったるさがなく、最初にカカオのビターな風味を感じ、後味に豆乳のコクや旨みがあった。冷えた状態よりも、少しやわらかめの状態の方が、豆乳の旨みが強く感じられる。
一方、豆乳を大の苦手とする息子は、豆乳に感じる青臭さや「ゲロマズな味」(おそらくえぐみのことを指している)が全くなく、普通においしいチョコレートとしてポンポンと続けて食べられると満足していた。
植物由来の豆乳を使ったソイ・デ・ショコラは、くどくなくすっきりとした味のチョコレートに仕上がっている。宮川氏が話していた「価値をどう感じてもらうか、そこにとことん寄り添った製品作り」を体現した、豆乳を意識してもしなくてもおいしく食べられるチョコレートといえるだろう。
文/阿部純子