灼熱と冷水に交互に身を置くことで肉体に急激な温度変化を強いる……サウナって、もしかして体に悪いのか?そんな疑問を払拭するべく、そして死ぬまでサウナを楽しむべく、気をつけるべきことを医師に聞いた。
サウナーが気をつけるべきは、血管の病気!
お茶の水循環器内科
院長 五十嵐健祐さん
循環器内科医。サウナは毎日のルーティンのひとつ。昼サウナのため、クリニックの休憩時間を長くとるほどのサウナ好き。サウナ関係の論文は目を通し和訳してHPにて紹介している。行きつけのサウナは「神田セントラルホテル」。
──サウナで人が倒れたという話を聞いたことがあります。サウナや水風呂に入ってはいけない人の条件を教えてください。
「倒れる原因として頻度が多いものは、脱水と泥酔です。
一方で、死に至る危険性があるのが心筋梗塞や脳梗塞などの血管系の病気です。これらの病気を抱えていて現在治療中の人は入ってはいけません。また、血管系の病気の診断をされていなくてもリスクが高いと医師から言われている人は心臓や脳の血管の検査を受け、異常がないかを必ず確認する。異常が見つかった場合は治してからサウナに、異常がなさそうな場合には、ないことを確認してからサウナに入りましょう」
──血管系の病気のリスクが高い人は、具体的にはどういう人ですか?
「リスク要因となるのは『年齢』『家族歴』のほかに、改善可能なものとして『高血圧』『脂質異常症』『糖尿病』『喫煙』『大量の飲酒』『睡眠時無呼吸症候群』の6項目があります。目安は3項目以上チェックがついた人は、動脈硬化がかなり進んでいる可能性があるため、精密検査を受けましょう。
動脈硬化が進むと、動脈が硬くもろくなり、詰まりやすくなったり破れやすくなったりします。もし、非常に危ない血管の状態でサウナに入ったり、水風呂に入ったりすると、高温や冷水の刺激により血管が詰まったり、破れる可能性も。最悪の場合、突然死になりかねません。
また、目安は3項目といいましたが、1項目だけでも非常に値が悪い場合は要注意。40歳以上の方は3項目該当していなくとも検査を受けて、問題がないとわかってからサウナに入ることをおすすめします」
──加齢により血圧などの数値は高くなっていきます。「トシだから仕方ない」と放置してしまいがちですが、すぐに健康に異変が生じるなんてことは……?
「その考え方は危険です。仮に若かったとしても、健康診断で『高血圧』『脂質異常症』『糖尿病』のいずれかの可能性が疑われる数値が出た場合には、必ず医療機関を受診してください」
──血管系の病気を診断されたら、もうサウナに入れないのでしょうか。
「そんなことはありません。手術などで治療した後の『慢性期』と呼ばれる状態になれば、ふたたびサウナに入っても大丈夫でしょう。慢性心不全に対しては和温療法というものもあり、治療法のひとつとしてガイドラインに記載、2020年から保険適用もされました。
しかし、定期的に検査などを受けて、異常が出ていないか確認しつつ入るようにしてください。食事や運動、薬などできちんとコントロールができている状態に身体をととのえてから、サウナの扉を叩くべきです。
以前、健康診断の結果を持って、『サウナに入りたい』と相談に来た患者さんがいました。血管系の病気のリスクが高かったため、精密検査を行なうことにして、結果が出るまではサウナは控えてもらいました。何とその後、その方の心臓の血管が3本も詰まっていることが発覚。もし、あの状態でサウナに入っていたら……想像すると恐ろしいです。治療後、徐々にであればサウナを再開してOKです」
──夜にサウナに行く際にごはんを食べていくか、サウナ後に食べるか悩んでしまいます。
「極端な空腹でサウナに入るのはよくないですが、満腹でサウナに入るのも注意が必要です。お酒を飲んだ後のサウナも避けたほうが無難です。
サウナ後に夜遅くご飯を食べる場合もあると思いますが、血管系の病気になるのを防ぐためにも食事の内容には要注意。魚中心で糖分や脂質、塩分に気をつけた食事メニューを意識するとよいでしょう」
──空腹時にサウナに入ると低血糖になりませんか。
「よほど飢餓状態でない限り、低血糖は起こりません。
ただし、糖尿病の薬の中には、低血糖を起こしやすいものがあります。主治医に確認しておくとよいでしょう」
生活習慣の乱れにより糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病に。これらの病気は痛みなどの自覚症状がなく、検査でしか異常を見つけるタイミングがないため、年1回の健康診断は必ず受けることが推奨されている。異常値が発覚しても、生活習慣の見直しや治療を受けようとしないと、血管が傷み続け動脈硬化に。動脈硬化が進むことで、各部位の血管に異常が生じはじめ、脳卒中や心臓病など血管系の病気を発症し最悪の場合突然死にもつながる。