不動産を相続する場合、相続税の金額はどのように決まるのでしょうか?不動産を含めた遺産相続の基本や、不動産の価格を決める方法などを解説します。不動産相続に役立つ特例や遺産の分割方法も確認し、相続税の負担を軽減させましょう。
目次
不動産を相続するときの基本
不動産を相続すると、課税される相続税額が高くなりやすいのが現実です。まずは相続税の基になる遺産総額の求め方や相続税が課されないケースなど、相続の基本を解説します。
不動産を含む遺産総額を基に相続税を計算
相続税は、亡くなった人が遺した財産の額が一定額を超えると課される税金です。そのため相続税の計算は、不動産を含めた遺産総額を求めるところからスタートします。
『財産』と聞くと、プラスのイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?しかし、相続における財産には以下の表のようにプラスだけではなく、マイナス・みなしの財産が含まれます。
プラスの財産 |
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マイナスの財産 |
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みなし相続財産 |
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亡くなると取得できる『みなし相続財産』のうち死亡保険金・死亡退職金は、「500万円×法定相続人の数」の額が非課税限度額です。
その他、債務の支払いや葬式にかかった費用なども遺産総額から差し引くことができます。
参照:No.4105 相続税がかかる財産|国税庁
参照:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
遺産総額が基礎控除額に満たなければ課税なし
相続税には、全ての相続に適用される『基礎控除』があります。そのため、不動産を含めた遺産総額が基礎控除額に満たない場合には、相続税は課税されません。
基礎控除額は、『3,000万円+600万円×法定相続人の数』で求められます。『法定相続人』とは民法で定められ、相続の権利を有する人を表しています。原則として、亡くなった人と婚姻関係にある配偶者は常に法定相続人と見なされ、財産を相続することが可能です。
例えば父親が亡くなり、母親と子ども3人の合計4人が法定相続人のケースでは、基礎控除額は3,000万円+600万円×4人=5,400万円です。遺産総額が5,400万円に満たなければ相続税は課税されないため、申告をする必要はありません。
ただし遺産総額が基礎控除を上回り、特例を使った後に相続税が0円になる場合は例外です。特例を適用するためには、相続税の申告を忘れずに行いましょう。
不動産の価格はどのように決める?
不動産の価格を表す『評価額』は、一定の方法で評価を行って決定されます。不動産の評価方法は土地と建物で異なるため、別々に評価をする必要があります。土地と建物、マンションの評価方法をそれぞれ確認していきましょう。
土地は「路線価方式」か「倍率方式」で評価
土地の評価は原則、宅地・田・畑・山林などの地目ごとに行います。その上で路線価が定められている地域には『路線価方式』、それ以外の地域には『倍率方式』を使って評価額を求めます。
路線価方式は、国税庁が毎年7月初旬に公表する『路線価』に基づいて土地の価格を計算する方法です。
路線価は路線(道路)に面した宅地1平方メートル当たりの価額を千円単位で表したもので、国土交通省が毎年公表する『公示地価』の8割程度に設定されています。例えば路線価が200千円とある場合、その土地の1平方メートル当たりの金額は1,000円×200で20万円ということです。
一方、倍率方式は、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価額を算出します。固定資産税評価額は毎年4月から6月ごろに送付される『固定資産税の納税通知書』の他に、市区町村役場(東京23区内では都税事務所)でも確認が可能です。
売却した価格を評価額にできる場合も
中には相続した土地を売却した価格を、評価額にできるケースもあります。路線価は整った土地を前提として設定されており、固定資産税評価額は3年ごとに見直しされます。
そのため、土地の形状や周辺環境の変化によっては、路線価方式・倍率方式で求めた評価額では買い手がつかないケースもあるでしょう。
路線価方式・倍率方式では評価が難しい土地の場合、以下の条件を満たすと売却価格を評価額にできます。
- 相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内)までに土地を売却
- 売却価格が、路線価方式や倍率方式などの評価額より低い
ただし、土地の売り急ぎや親族への売却だと判断されると、売却価格を評価額として認められない恐れがあるので注意しましょう。
建物は固定資産税評価額に基づいて評価
相続した建物の評価額は、直近の基準年度における固定資産税評価額に、評価倍率1.0を掛けて求めます。評価倍率が1.0だと価格は変わらないので、固定資産税評価額が建物の評価額といえるのです。
固定資産税評価額は時価の7割程度に設定されており、新築の際に評価されてからは3年ごとの『基準年度』に更新されます。
そのため、2022年に相続を開始すると、直近の基準年度である2021年度の固定資産税評価額で評価することになります。
マンションは敷地権の割合を掛けて評価
マンションを相続した場合にも、戸建てと同じように土地と建物に分けて評価額を求めます。しかし、土地の権利を分けて所有しているマンションでは、敷地全体の評価額に所有部分を表す『敷地権の割合』を掛けて評価をする必要があります。
下の事例を使って、マンションの評価額を求めてみましょう。
専有部分の床面積合計 | 1000平方メートル |
所有する専有部分の床面積 | 75平方メートル |
敷地全体の評価額 | 3億円 |
敷地権の割合 | 75/1000 |
固定資産税評価額 | 20万円 |
土地の評価額は、敷地全体の面積×敷地権の割合で算出します。1000平方メートルの床面積のうち75平方メートルを所有している場合、敷地権の割合は75を1000で割った0.075です。よって、事例における土地の評価額は3億円×0.075=2,250万円だと分かります。
建物の評価額は、固定資産税評価額に評価倍率1.0を掛けた20万円です。マンションの評価額は、土地と建物の評価額を合計した2,250万円+20万円=2,270万円と求められます。
評価額が下がる不動産の特徴
不動産の形状・立地などによっては、評価額が下げられる場合があるのも事実です。評価額が下がると遺産総額は減り、課税される相続税額も下がります。評価額が下がる不動産の特徴をチェックすれば、相続税の負担を軽くできる可能性があります。
立地条件が悪い
不動産の評価では、住みやすさ・売りやすさなどの『利用価値』が重視されます。そのため、立地条件が悪くて利用価値が低いと判断された場合には、不動産の評価額が下がります。
利用価値が低下している不動産の特徴は、以下の通りです。
- 道路よりも高い・低い位置にあり、付近の宅地に比べて高低差が激しい
- 地盤に甚だしい凹凸がある
- 震動が甚だしい
- 上記以外で騒音・日当たりが悪い・臭いなどで取引金額に影響があると認められるもの
利用価値が低いと認められると、該当部分の面積に対応する価格に10%を掛けた額が控除されます。
ただし、利用価値の低下を考慮して路線価・固定資産税評価額・倍率が設定されている不動産は、控除の対象外です。
参照:No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価|国税庁
賃貸アパートやマンションが建っている
相続した土地に賃貸アパートやマンションなどが建っている場合、その土地は『貸家建付地』と見なされて評価額が下がります。
貸家建付地の評価額を求める計算式は、自用地としての価額-(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)です。
2022年における借家権割合は、国税庁が一律で30%と定めています。なお、借地権割合は地域によって異なります。
自用地としての価格を2,000万円、借地権割合を20%、借家権割合30%、賃貸割合を100%と仮定し、貸家建付地の評価額を計算してみましょう。
計算式に当てはめると、貸家建付地の評価額は2,000万円-(2,000万円×20%×30%×100%)=1,880万円です。2,000万円の自用地評価額よりも120万円安くなることが分かります。
建築中の建物
固定資産税評価額は、建物が完成した後に設定されるものです。そのため、契約者が建築中に亡くなると、建築中の家屋の価額は『費用現価』の70%とされます。費用現価は、死亡した日までに建物にかかった建築費用の額を、死亡日の価格に引き直した金額の合計です。
建築業者から死亡日までにかかった建築費用の見積もりを出してもらい、費用現価を確認するとよいでしょう。例えば費用現価の見積額が3,000万円の場合、3,000万円に0.7を掛けた2,100万円が建築中の家屋の価額です。
また、支払済みの金額が費用現価の見積額よりも多いか少ないかで、相続財産が増減することも覚えておきましょう。
支払済みの金額が費用現価よりも多い場合には、差額は『前渡金』として相続財産に含まれます。反対に少ない場合、支払っていない分は『未払い金』として相続財産から差し引くことが可能です。
相続税の減額に役立つ特例もチェック
相続税の特例を使うと、相続税額を大幅に減らせるケースがあります。二つの特例をチェックして、相続税の節税に役立てましょう。
「小規模宅地等の特例」で評価額を大幅カット
亡くなった人が住宅として使っていた土地を相続する際には、『小規模宅地等の特例』を使うことができます。亡くなった人が住んでいた住宅は『特定居住用宅地等』に該当し、330平方メートルまでの評価額が80%減額されます。
例えば亡くなった母親が、1人で住んでいた面積500平方メートル、相続税評価額6,000万円の宅地を相続するとしましょう。
宅地面積が上限を超える場合には、全体の面積のうち330平方メートル分が減額されます。計算式は6,000万円×330/500(0.66)×80%となり、3,168万円が減額されます。
小規模宅地等の特例を使えるのは、亡くなった人の配偶者か、死亡した当時に同居していた親族、亡くなった方と別居していて、3年以上借家に住んでいる親族です。さらに、相続が発生した翌日から10カ月の申告期限まで、該当の宅地に引き続き居住・所有する必要があります。
参照:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
「配偶者控除」を使って相続税の負担を軽減
亡くなった人の配偶者であれば、『配偶者控除』を使って相続税の負担を軽減させることができます。相続における配偶者とは、亡くなった人と戸籍上の婚姻関係がある人を意味するため、事実婚・内縁関係・離婚した元配偶者などは対象外です。
配偶者控除を利用すると、1億6,000万円か法定相続分に基づいて相続した配偶者の財産、どちらか多い金額までが非課税になります。
配偶者の法定相続分は、配偶者以外の法定相続人によって変わります。配偶者以外の主な法定相続人は、優先順位が高い順に亡くなった人の子・直系尊属・兄弟姉妹です。配偶者と法定相続人ごとの相続割合は、以下の通りです。
子 |
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父母 |
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兄弟姉妹 |
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当然ながら配偶者控除でカットされる相続税は、そのまま配偶者の財産になります。そのため、配偶者が亡くなって二次相続が発生したときに遺産額が増え、高額な相続税が課される恐れがあることも覚えておきましょう。
相続人が複数の場合、不動産はどう分ける?
相続財産に不動産が含まれていて、複数の相続人がいる場合、どのように遺産を分ければよいのでしょうか?不動産を含めた遺産の分割方法を、事例を挙げて解説します。
不動産以外の遺産があるなら「現物分割」を検討
不動産以外にも、相続する遺産がある場合には『現物分割』を検討する方法もあります。現物分割は遺産の一つひとつを、各相続人に割り振る方法です。
きょうだい3人(長男・次男・長女)が、親の遺産(不動産2件・預貯金・宝石類)を現物分割するケースで考えてみましょう。
なるべく均等に割り振るので、例えば以下のような分け方が可能です。
遺産 | 相続する人 |
親の住んでいた家屋 | 長男 |
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次男 |
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長女 |
ただし、法定相続分を正確に割り振ることは難しいため、全員が納得する分け方を話し合う必要があります。
代表が相続し、現金を分配する「代償分割」
不動産・有価証券などの現金化が難しい財産の場合、代表者がまとめて相続する『代償分割』を選ぶのも一つの方法です。
代償分割を選択すると相続財産を1人、または複数の相続人で取得できる半面、取得した人は他の相続人に対して債務を負います。『代償金』と呼ばれる債務は現金で支払う必要があり、金額は代償分割を開始したときの時価で決まります。
以下の事例で、代償分割の特徴を確認しましょう。
相続人 | 長男・次男 |
法定相続分 | 長男1/2・次男1/2 |
分割方法 | 代償分割 |
相続財産 |
土地 ※相続税評価額 ※代償分割開始における時価 |
代償分割で長男が3,000万円の土地を相続した場合、相続税評価額に基づく次男の法定相続分は1,500万円です。
一方、代償分割を開始したときの時価を適用した場合の、長男・次男の相続額は以下の通りです。
長男 |
3,000万円 -{1,500万円×(3,000万円÷4,000万円)} =1,875万円 |
次男 |
1,500万円×(3,000万円÷4,000万円) =1,125万円 |
次男が受け取れる代償金の額は、法定相続分よりも安くなることが分かります。代償分割を開始する時期によっては、法定相続分よりも金額が下がるケースがあることを覚えておきましょう。
参照:No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算|国税庁
「換価分割」で不動産を売却して現金化
相続した不動産を売却し現金化し、法定相続人で分配する『換価分割』もあります。換価分割をするときに、『取得費加算の特例』を使うのも一つの方法です。
特例を使って相続税の申告期限から3年以内に相続した不動産を売却すると、土地にかかる相続税を取得費として売却価格から差し引くことが可能です。
売却価格が下がるため譲渡所得額も減り、課税される所得税・住民税の額も抑えられます。適用には確定申告が必要で、遺産総額が基礎控除内で相続税が発生していない場合には適用されません。
相続財産を現金化する換価分割は、法定相続人に分配しやすいのがメリットです。
参照:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁
「配偶者居住権」で権利を分ける方法も
2020年4月に施行された『配偶者居住権』を使い、亡くなった人が所有する家の権利を「所有権」と「居住権」とで分割する方法もあります。
相続税評価額1,000万円の家と、1,000万円の預貯金を配偶者と子ども1人で相続するケースで考えてみましょう。
法定相続分は配偶者1/2・子ども1/2なので、それぞれ1,000万円ずつ相続できます。現物分割で配偶者が1,000万円の家を、子どもが1,000万円の預貯金を相続すると、配偶者の手元には現金が残りません。
しかし配偶者居住権を使うと、1,000万円の家を配偶者居住権500万円と所有権500万円のように分割することが可能です。すると配偶者は家に住む権利を取得しながら、預貯金500万円も相続できます。
さらに配偶者居住権は原則、配偶者の死亡とともに権利が失効し、配偶者の遺産に含まれないのも特徴です。
不動産を含めた財産の相続に関する豆知識
精神的・経済的にも負担になりやすい相続手続きには、細かな決まりや納付が困難な場合に使える制度が設けられています。最後に、不動産を含めた財産の相続に役立つ豆知識をまとめて紹介します。
遺言書がない場合は「遺産分割協議」が必要
亡くなった人の遺言書がなかったり、無効だったりする場合には、遺産の相続分を決める『遺産分割協議』が必要です。
遺産分割協議には法定相続人の全員が参加し、納得するまで分割方法を話し合わなければなりません。話し合って分割方法が決まると『遺産分割協議書』に、法定相続人全員が署名・押印します。
被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内に遺産分割協議書を作成し、相続税の申告をするときに法定相続人全員の印鑑証明書を添えて提出しましょう。
参照:No.4202 相続税の申告のために必要な準備|国税庁
相続税には延納・物納制度がある
相続税が発生した場合には、申告期限までに現金でまとめて納付するのが原則です。しかし、年払いで払う『延納』や、相続した財産で相続税を納める『物納』の制度が使えるケースがあります。
延納が認められる条件は、以下の通りです。
- 相続税額が10万円を超えている
- 納付期限までに現金で納付することを困難とする事由がある
- 延納申請書と担保提供関係書類を期限までに提出する
- 延納する相続税額に相当する担保を提供
延納する相続税額が100万円以下で、延納期間が3年以下の場合は担保は必要ありません。ただし、延納には、相続財産のうち不動産が占める割合や、延納の期間に応じて利子がかかります。
延納制度を使ってもなお、現金での相続税納付が困難な場合には、物納を申請することが可能です。物納ができるのは、相続税の課税対象になった財産のうち、日本国内にあるものとされています。
不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式などが該当し、生前贈与で相続時精算課税や非上場株式の納税猶予を適用している財産は対象外です。
参照:延納・物納申請等|国税庁
参照:No.4214 相続税の物納|国税庁
※情報は万全を期していますが、その内容の完全性・正確性を保証するものではありません。
構成/編集部