経営にアップサイクルを取り入れると、本来捨てられるはずだった製品に新たな価値を与えて資源を有効活用できます。企業に対して環境問題に取り組む姿勢が重要視される今、アップサイクルが注目される背景やメリット・取り組み事例を確認しておきましょう。
アップサイクルの基礎知識
近年では、モノを再利用する『リユース』よりも、さらに一歩進んだ考え方である『アップサイクル』が注目を集めています。アップサイクルの基礎知識やリユースとの違いについて、詳細を把握しましょう。
アップサイクルとは何か
アップサイクルとは、本来は捨てられるはずだった製品に新たな価値を与えて、別の製品として再生する取り組みです。廃棄されるはずだった製品が別の製品として生まれ変わることで、廃棄のための燃料や新しい製品を作る原料を削減でき、間接的に環境にポジティブな影響を与えられます。
企業や組織にとっては、アップサイクルを実施することで、国際的な課題となっている『大量生産・大量消費』へのアプローチが可能です。大量に作って大量に消費する経営は多大な廃棄を発生させ、資源の無駄が生じやすくなる点がデメリットとされます。
アップサイクルへの取り組みを通して、環境に優しい経営を意識している組織であるとアピールできるでしょう。
アップサイクルとリユースの違い
リユースは、まだ使えるモノをそのままの形で再利用することを指します。例えばフリーマーケットで不要になった服を売ることも、リユース活動の一つです。フリーマーケットで販売された服は、新たな持ち主の元でそのままの形で再利用されます。
アップサイクルは使われなくなったモノを新たな製品に作り替え、より高い価値を与える取り組みです。いわば『モノのアップグレード』であり、リユースの進化版とも表現できるでしょう。
単にそのままの形で製品を再利用するリユースに比べて、さまざまな形に作り替えられる分、幅広い選択肢があるのがメリットです。
アップサイクルが注目されている背景
アップサイクルが注目されている背景として、資源確保や環境保全が世界的に重視されている点が挙げられます。また、SDGsに配慮した経営が広まりつつあることも、アップサイクルが注目される一因です。
高まる資源確保や環境保全の重要性
『大量生産・大量消費』というスタイルは、世界的に長らく当たり前になっています。
大量に生産する裏側で、消費されなかった製品を大量に廃棄するというサイクルが繰り返されているのが現状です。廃棄時に排出される温室効果ガスによって環境が悪影響を受けたり、資源が枯渇したりという問題が世界各地で起こっています。
日本国内においても、ごみの減量化と再生利用対策の必要性を記した通知が、環境省から各都道府県に対して発信されました。
こうした動きを受け、高まる資源確保や環境保全の重要性にアプローチする方法の一つとして、アップサイクルを意識した経営が注目されているのです。
参考:ごみの減量化・再生利用対策の推進について | 法令・告示・通達 | 環境省
アップサイクルと関連するSDGsの項目
アップサイクルは、SDGsの『17の目標』のうち、目標12『つくる責任 つかう責任』に深く関連しています。この目標では、『持続可能な生産・消費のパターンを確保する』ことが掲げられています。
設定されている達成目標の中で、特に5番目の『2030年までに、ごみが出ることを防いだり、減らしたり、リサイクル・リユースをして、ごみの発生する量を大きく減らす』に対するアプローチとして、アップサイクルが効果を発揮する可能性が高いでしょう。
将来にわたって持続可能な生産・消費サイクルを確保するためには、現在の大量生産・大量消費から脱却し、限りある資源を大切に活用していくことが求められます。企業や組織がSDGsの達成に貢献していることを対外的に発信できれば、ブランディングにつながり企業価値の向上に貢献するでしょう。
参考:12.つくる責任、つかう責任 | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)
アップサイクルのメリット
アップサイクルには、ゼロから製品を作るよりもエネルギー消費が少ない、製品寿命を延ばしやすいというメリットがあります。これまでには進出していなかった、新たな業界への参入チャンスにもつながるでしょう。
エネルギー消費が少ない
アップサイクルは、現在使われているモノに新しい価値を持たせます。ゼロから新しい製品を作ったり、一度原料に戻してから別の製品に作り替えたりするためのエネルギーが必要ありません。エネルギー消費を軽減できる点は、アップサイクルのメリットといえます。
一度原料に戻してから新しい製品を作るリサイクルでも、資源の再利用は可能です。しかし、原料に戻すのにも新たに製造するのにも、エネルギーは必要になります。アップサイクルはリサイクルよりも省エネで、環境に優しい取り組みだといえるでしょう。
製品寿命を延ばしやすい
アップサイクルは、現存する製品を元の形のまま利用するのではなく、全く別の価値ある製品に作り替えます。単なるリユース(再利用)に比べて、製品の寿命を延ばせるのが特徴です。
リユースは、まだ使える製品を廃棄せずに再利用するため、使用年数を重ねるほど劣化が進みます。アンティークなどの一部のカテゴリーを除くと、古くなるたびに価値も下がるのが一般的です。
一方、アップサイクルであれば、価値の下がった製品に対して再び高い価値を再度与えられます。アイデア次第で付加価値が大きくなり、元の製品からは考えられないほど高い評価を得ることも可能でしょう。
新たな業界へ参入するチャンスになる
アップサイクルによって既存の製品が新たな価値を持つことにより、本来の用途とは全く異なる性質の製品へと生まれ変わるケースもあります。
本来の用途とは異なる性質の製品を生み出せれば、自社の業種の他に新たなビジネスへの新規参入も可能となり、企業や組織にとってはビジネスチャンスが広がります。
アップサイクルは製造業に限ったものと思われがちですが、実際には、製造業以外の業種であっても挑戦できる取り組みです。
広告代理店を本業とする電通グループが取り組んだアップサイクルが好例です。オフィスで使われなくなったクリアファイルなどのプラスチック資源と、防災備蓄品の入れ替え期限を過ぎたヘルメットを利用して、名刺用の点字機を作りました。
参考:電通、使用しなくなったプラスチック製品のアップサイクルを推進し、社会課題に対応する「で、おわらせないPROJECT」を始動 – News(ニュース) – 電通ウェブサイト
アップサイクルの注意点
アップサイクルに取り組む際は、素材の安定的な回収が難しい点や、そもそも『アップサイクル=廃棄物ゼロ』ではない点を理解しておく必要があります。アップサイクルの二つの注意点について詳しく解説します。
素材の安定回収が難しい
アップサイクルは、本来捨てられるはずだった素材を新たな製品に作り替える手法です。デメリットとして、アップサイクル製品を製造するために活用できる廃棄物の量を、正確に予測するのが難しいという点が挙げられます。
アップサイクル製品を製造するためには、素材となる廃棄物の確保が必要不可欠です。廃棄物を安定的に回収できない可能性が高い点には、十分に注意しましょう。
一般的な製造計画においては、毎月確保できる資源の量を正確に予測しながら製造数を設定しますが、アップサイクルの製造計画は流動的になりがちです。素材によっては、アップサイクルのためにかかるコストが大きくなるリスクもあります。
アップサイクル製品の開発パートナーを見つけるのが難しいというデメリットもあるため、慎重な計画・施策の立案が欠かせません。
アップサイクル=廃棄物ゼロではない
アップサイクル商品に人気が出るということは、新たなアップサイクル商品を製造するための廃棄物が出続けるということでもあります。つまり、アップサイクル製品を製造する限り、廃棄物はゼロにはならないというジレンマが生じるでしょう。
このジレンマを解消するためには、アップサイクルによって廃棄物を循環させながら、最終的にはゼロウェイスト(そもそも廃棄を出さないこと)を目指していく計画が理想的です。
アップサイクルの具体例
国内外を問わず、アップサイクルに取り組んでいる企業や組織は数多くあります。これからアップサイクルに取り組むなら、他社の事例を参考にするのがおすすめです。注目したい事例を四つ紹介します。
日本の事例1:不要なタンスをアートに昇華
株式会社家’s(イエス)では、不要になったタンスをアートとして改修し、月額数千円からの金額でレンタルできるサブスクリプションサービス『yes』を展開しています。同社ではサブスクリプションサービスを始める前から、家具の再生事業を手掛けていました。
事業の過程でまだ使えるタンスが次々と廃棄されている現状を目にしたことで、タンスにアート性を持たせたデザインを施し、寿命を伸ばすアップサイクルの取り組みを開始します。
アップサイクルによって新たな価値を持ったタンスは、多くの消費者から問い合わせを受けるようになり、飲食店やホテルのロビーに設置したいという声もあるようです。
循環型アップサイクル家具のサブスクリプションサービス | yes
日本の事例2:学校備品をインテリアに
アップサイクル家具ブランドの『tumugu upcycle furniture』では、学校で使われていた用具を、アップサイクルによってインテリアや文房具などに生まれ変わらせ、ECストアで販売しています。
校舎に置かれているような落書き・破損のある椅子は、入れ替えのタイミングで粉砕されて廃棄されます。また、児童が使っていたランドセルは自宅に保管されたままになっていたり、規格の変更で販売できなくなったりするケースが多い現状に着目しました。
学校の椅子の背板をハンガーに生まれ変わらせたり、ランドセルの『かぶせ』のパーツを使って時計を作ったりと、ユニークな発想でデザイン性の高い製品を生み出しています。
tumugu upcycle furniture | upcycle interior アップサイクル家具のセレクトショップ
海外の事例1:電子廃棄物を利用した時計
イギリスのメンズアパレルブランド『VOLLEBAK』では、電子廃棄物となったコンピューターのマザーボードやテレビの配線・スマートフォンのマイクロチップなどをアップサイクルして、世界に一つしかない時計を作っています。
年々増加し続けている電子廃棄物の問題にアプローチするこの時計には、『Garbage Watch(ごみ時計)』という名称が付けられました。
廃棄物から作られたとは思えないほどカラフルで印象的なデザインの時計で、電子廃棄物に関する問題を再認識するきっかけを投げかけている事例です。
Garbage Watch. Built from the tech the world threw away in the trash.
海外の事例2:廃タイヤからサンダルを製作
インドネシア・バリ島のフットウェアブランド『Indosole』は、毎年大量に廃棄されるタイヤに着目して、廃タイヤから作られたインソールを活用したサンダルを販売しています。
中間処理場に放置されたり河川に不法投棄されたりした廃タイヤは、環境汚染の重大な原因となっています。また、廃タイヤは蚊が大量繁殖する基点となり、感染症の流行に関与しているという問題も深刻です。
Indosoleでは、廃タイヤからインソールを作成する独自の技術を活用し、インドネシアの環境汚染の軽減に貢献しています。
構成/編集部