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トヨタの水素エンジンに未来はあるか?

2022.08.28

近年「水素」が注目を浴びている。TVのCMをはじめいろんなところで「水素」を耳にしていると思う。その水素とクルマはどういった関係が築けるかみてみたい。まずエネルギーを考えた時、一次エネルギーは石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料、また風力や地熱、水力なのどの自然エネルギー、それと原子力があるが、今は脱化石燃料というフェーズにいる。そしてこの一次エネルギーによって生み出される二次エネルギーには電力がある。注目する水素は単体では自然界にほぼ存在せず、水H2Oのように、何かと結合してたっぷりと存在している。だからその水素を取り出し、二次エネルギーとして活用しようと注目しているのだ。

クルマが走るには、エンジンを駆動するための燃料か、あるいは電気モーターを駆動する電力が必要になる。電力では、自然由来のエネルギーで化石燃料の代替になるのかと言えば今の段階では厳しい。残るは原発だが、国内では民意を得るのは厳しい状況。だが、フランスのように原発を中心とした発電という国もあるのが現状。さらに中国も原発を推進している状況だ。また、天然ガスは石炭よりは環境に優しいとされているので、再エネ確立までの繋ぎという使い方も検討されているが、一次エネルギーには違いない。

エネルギーの変化

そこで水素を使って発電するという仕組みが「燃料電池」で、トヨタMIRAIに搭載して現在市販されている。一方でガソリンや軽油に代わる燃料はないのか?という視点でさまざまなカーボンニュートラルな代替燃料がある。自然界にあるCO2を回収して作られる合成燃料だ。また植物由来系のバイオ燃料なども現実に走行燃料として使用されている。

さらには水素を燃焼させてエンジンを動かそうという研究も進められている。それが、トヨタが進めている水素エンジンだ。しかしながら、水素は人工的に作る、取り出す必要があり水素製造には電力が必要とされている。そのため、一次エネルギー=化石燃料による発電で水素を作るという点に課題はある。

また、エンジンの燃料として使うための課題もある。例えばトヨタの水素エンジンは現在70MPaの高圧縮水素を充填して使用している。圧縮するために電力を使い、また液化水素も研究しているが、こちらは超低温の-253度での貯蔵になるため、そこにも電力が必要とされている。

液化水素で走らせるためのコンセプトモデル。

クルマから離れて俯瞰すると、水素はどこかの工場で電力を使って作られディーゼルのタンクローリー、船で運ばれる。その際20MPa弱に圧縮して運搬されている。クルマでの利用は現在のところ燃料電池車になるが、その場合、運搬された水素は、水素ステーションで供給される。が、その水素ステーションには特別な資格と免許、設備、スタッフが必要になり、ようやくクルマに充填(燃料電池車の場合)という流れになっている。水素で走るまでには大量の電力が消費されていることがわかる。

トヨタの取り組みとしては企業の協力を得て、水素製造過程で必要な電力は、自然由来の電力を使うクリーン水素とし、タンクローリーは燃料電池車にするとか、サスティナブルな方法を組み合わせることで水素エンジンの開発をすすめている。そのための仲間づくりも必要と豊田章男社長は発言している。

したがって、水素を作る課題、運ぶ、使う課題に対して国のエネルギー政策に沿って、あるいは並行して取り組む必要があるというのが現状だ。政府は水素燃焼を利用しガスタービンを使った発電を2030年の実用化を目指すとしてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業として取り組んでいる。経済産業省のグリーン成長戦略の中で、2050年には発電量の50〜60%を自然エネルギーによる再エネとし、アンモニア・水素発電は10%程度を議論の参考値としており、二次エネルギーに位置付けていることがわかる。

またNEDOの資料では定置型燃料電池(家庭用エネファーム)による社会普及なども踏まえ、燃料電池車の普及を訴求している点は興味深い。

NEDOの資料では、水素の作り方には数パターンあり、再エネからの製造も可能としている。

各社が研究した水素エンジン

さて、水素燃焼エンジンを振り返ると、世界に先駆け1974年に武蔵工大の古濱庄一教授の研究室で水素エンジンを搭載した試作車が完成し、1997年までに10台の試作車を製作した歴史がある。そして30年ほど前にBMWが開発を始め市販車の販売まで漕ぎ着けた過去がある。

またアストンマーティンはオーストリアのエンジニアリグ会社と共同開発を行い、ニュルブルクリンク24時間レースにラピードSで出場している。国内でも2006年にマツダが水素ロータリーエンジンを発売したこともあるのだ。ただ、これらはいずれもガソリンとの切り替え方式のバイ・フューエルだった。

このように水素燃焼エンジンは、世界でトヨタだけが開発をしているわけでなく、エンジニアリング会社のAVLやBOSCH、IAVなども継続的に研究している。そこではすでに熱効率57.4%達成の記述もあり、進化を続けていることがわかる。話はそれるがアルゴンとの混焼で循環型クローズド水素エンジンとされているものだ。

そうした中、日本自動車技術会のフォーラムで水素燃焼エンジンの課題についてトヨタの山口一徳氏が講演を行ない、水素燃焼エンジンの開発進捗について講演した。

アストンマーティンが開発したバイフューエルでニュルブルクリンク24時間レースに参戦。この時当時の社長ウルリッヒ・ベッツ氏がハンドルを握った。

BMWも水素燃焼は積極的に研究していた。

マツダの水素ロータリーエンジンを搭載したRX-8。

課題のひとつNOxはニヤゼロだ

前述のように水素にはたくさんの課題があり、中でも水素エンジンの実用化は難しいと位置付けている専門家も多い。特に燃焼技術においてはNOxの排出はその理由にされている。しかしリーンバーン(希薄燃焼)と冷却しない大量EGRという手法ではNOxは非常に少なく後処理は容易としている。トヨタではニヤゼロとも表現しているのだ。

これらは高圧噴射技術、高速燃焼技術、過給器などの進化があり、かつての課題も今は、技術の進歩により解決策が生み出されているというわけだ。このように水素燃焼はエネルギー密度が低いとか、NOxが多いなどの課題が少しずつ解決されている。水素燃焼エンジンのブレークスルーは4つのポイントがあるという。D4直噴システム、高速燃焼技術、高圧水素供給システム、そしてG16E-GTSエンジンの存在だと説明する。

課題は、プレ・イグニッションという異常燃焼と凝縮水の扱いといったことを例に挙げた。水素の物性である着火性がよく可燃範囲が広いこと、燃焼速度が速いこと、主燃焼速度の変動が小さく、一気に燃えることなどが二律背反で起きており、それらをうまく組み合わせることで、対策することができているという。

具体的には、主な投入技術として空気過剰率λ(ラムダ)2.5、大量EGR40%でのリーンバーンとすることでNOxをニヤゼロに導いている。さらに、トルクで33%、出力で24%の向上を1年で達成しており、300ps/400Nm相当の出力になっていそうだ。

λ2.5とは燃料と空気量の割合を示す空燃比があり、その割合の理想空燃比が14.7:1というのがある。これをλ1としている。だから2.5倍の空気量ということで、燃料1に対して36.75の空気量を意味する。つまり、超希薄燃焼である。またEGRは排気ガスを燃焼室に戻す技術で、排ガスを再燃焼させることで有害物質の割合を下げる狙いがあり、その割合が40%という意味。

話を戻すと、現在水素エンジンは70MPaでの高圧縮水素で供給しているが、この高圧縮水素の貯蔵タンクは専門の許可制で、トヨタは内製できるように認可、工場などの設備は整えている。そして次のステップとして、液化水素の実験も始めるとしている。-253度の極低温で貯蔵し供給するシステムで、超臨界タンクでレースに参戦してくることと想像する。

液化すると密度は3倍になり、貯蔵スペースも小さくなり、航続距離も伸びる。車載を考慮すると実現性が高いかもしれないが、超低温貯蔵とするための電力もまた課題になる。その車載タンクは魔法瓶のようなものをイメージすると掴みやすいだろう。

また、2022年8月20日に、WRCベルギーで水素燃焼エンジンをGRヤリスに搭載し、モリゾウ(豊田章男)選手、コ・ドライバーユハ・カンクネン氏のドライブでデモ走行を行なった。欧州初披露で高出力であり、エンジンサウンドが楽しめることをグローバルに発信している。また、水素燃焼で走行するレベルの高さを披露し、あとは周辺の環境が整えば現実となる手応えを見せていた。

2022年スーパー耐久レースに参戦している水素エンジン搭載のGRカローラ。

WRCベルギーでモリゾウ(豊田章男)選手がドライブした水素エンジン搭載のGRヤリス。

仲間づくりとは

トヨタは気候変動対策の中で、カーボンニュートラルに向けて加速している今、選択肢の拡大をテーマに取り組んでいる。欧州が中心となってEV化が進む中で、一択しかないような進め方は国・地域によって最適な方法があるべきだということだ。

そこでトヨタはEVの開発も行ないつつ、カーボンニュートラル燃料の開発、燃料電池車、プラグイン・ハイブリッド、フルハイブリッドとラインアップし、さらに水素燃焼エンジンも加えることができればと挑戦している。段階的にカーボンニュートラルに向かい、そのロードマップに水素エンジンが描かれているわけだ。

水素活用のメリットとしてBMWがエネルギー・キャリアとして開発していたように、例えば再生可能エネルギーを水素に置き換えることで貯蔵が可能になる。だから大量輸送が可能であり、インフラ整備にも貢献し、電力を蓄えることも可能とするわけだ。さらに水素燃焼となれば、ICE(内燃機関)で培った資産が活用できることを挙げている。そうすることで、既存の自動車産業での雇用を守ることもできるという背景もある。

そのためにもトヨタは仲間づくりと言っているが、社会に水素エンジンが受容されるのか、されるにはどうすべきか、という狙いからカーメーカーだけの思惑だけでなく、産・学・官で、国のエネルギー政策と並行しつつ、ESG投資を呼び込むというサークルを作りたい狙いがあると想像している。ステークホルダーのためにも。

仮に水素の大量生産、輸送、インフラ整備が行なわれたとしたら、BMWからも市販車が登場し、先ほどのエンジニアリング機関はカーメーカーへ技術供与し、欧州メーカーからも水素カーが生産されることは可能になる。また、その準備も整っていると言って良いかもしれないのだ。ただし、近い将来では考えにくく、実現には先の世界になると考えられる。

トヨタの活動が理解できるか

現在のEV化の加速は、果たして国民が望むものと合致しているのか? 疑問は残る。が、徐々にEV化率も伸び続けているのが現状。スウェーデンのように水力発電や風力発電でそのほとんどを賄う国・地域はEVが最適解と言えるだろうが、石炭発電を復活させたドイツのEVは正解なのか。

中国はエンジンでは欧州、日本、米国には勝てないが、EVであれば世界の覇権を握ることができると考え、是が非でもEV化を進める。たとえ電源構成で石炭、LNGなどで発電しようともだ。また欧州も同様にEVで覇権を狙い、米国は国民の支持率で大統領が決まるため、ある意味揺れ動く危険性を持っている。

日本は2050年にカーボンユートラルを目指すと菅・前総理が発言し、2030年度の温室効果ガス削減目標も2013年度比46%と大幅に目標値が引上げられている。そうした状況で水素を作る課題、運ぶ課題、使う課題が解決できるのか、時間との戦いという側面もある。

トヨタが考えるように国・地域で異なる産業構造、社会構造、法規を踏まえ、できれば仕向地仕様ではないが、選択肢があったほうが、その国にとっての最適解となるのではないだろうか。結果的にはクルマのEV化は必然と考えるが、その過程において選択肢を増やす方法は間に合うのか。タイムリミットが見えない我々には、全力投球しているトヨタへの期待と危惧が共存している。

文/高橋アキラ(モータージャーナリスト)

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