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台風や地震で隣の家が崩れて自宅に被害が及んだ場合、損害賠償は請求できる?

2022.08.28

台風や地震、さらに豪雨など、最近では天災地変の発生頻度が高くなってきています。

天災地変が起こった場合、戸建やマンションの建物、またはその外構などが倒壊・崩落する事態も想定されます。その際、隣家の住民に損害が発生した場合、建物や外構の所有者は損害賠償責任を負うのでしょうか?

今回は、天災地変による建物等の倒壊・崩落時に発生し得る法的責任についてまとめました。

1. 家や外構の倒壊・崩落について発生し得る「工作物責任」

天災地変によって戸建やマンションの建物、またはその外構などが倒壊・崩落した場合、損害賠償との関係で問題となるのが「工作物責任」です(民法717条)。

工作物責任は、不法行為(民法709条)の特別類型として位置づけられています。

1-1. 工作物責任の発生要件

工作物責任は、以下の要件をすべて満たす場合に発生します。

①土地の工作物の設置または保存に瑕疵があること

「土地の工作物」とは、土地に接着して設置された物をいいます。

建物や外構(ブロック塀など)は、土地の工作物に該当します。

「設置または保存に瑕疵がある」とは、工作物の種類に応じて、通常予想される危険に対して備えているべき安全性を欠いている状態を意味します。

建物や外構の場合、台風・地震・豪雨などの天災地変についても、通常予想される範囲内のものは耐えられるだけの安全性を備えていなければなりません。その安全性を欠いていれば、「設置または保存に瑕疵がある」と評価されます。

②①によって、他人に損害を生じたこと

建物や外構が倒壊・崩落し、衝突によって隣人がケガをした場合や、隣家の一部が破損した場合には、損害賠償の対象となります。

1-2. 工作物責任を負う者

工作物責任を負うのは、原則として工作物の占有者です(民法717条本文)。したがって、自己所有か賃貸かにかかわらず、実際にその家に住んでいる人が工作物責任を負います。

ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が工作物責任を負います(同条但し書き)。

2. 台風や地震による倒壊・崩落の際、工作物責任は発生するか?

台風・地震・豪雨などの天災地変は、不法行為との関係では「不可抗力」に該当し、損害賠償責任を否定されることが多くなっています。

不法行為責任の有無を左右するのは「故意または過失」であるところ、天災地変による倒壊・崩落については、占有者や所有者の故意・過失は通常認められないからです。

しかし工作物責任との関係では、天災地変が原因の倒壊・崩落であっても、直ちに損害賠償責任が否定されるとは限りません。工作物責任の発生要件は、不法行為とは異なるためです。

工作物責任の有無を判断する際のポイントは、以下の2点です。

・工作物の設置または保存に瑕疵があるかどうか
・瑕疵と損害の間に因果関係があるかどうか

上記のポイントを踏まえて、台風や地震による倒壊・崩落の際、工作物責任が発生するかどうかの判断基準を検討してみましょう。

2-1. 判断基準①|安全性

施工状態や耐震性などに鑑みて、建物や外構が通常備えるべき安全性を備えていたかどうかは、工作物責任の有無を判断する際の重要な基準となります。

特に台風・地震・豪雨などの天災地変は、突発的に発生する可能性が常にあります。そのため、建物や外構についても、少なくとも過去に発生した規模の天災地変には、十分耐え得る程度の安全性を備えていなければなりません。

もし建物・外構などの安全性に不備がある場合には、工作物責任が認められる可能性が高いでしょう。

2-2. 判断基準②|天災地変の強度

台風・地震・豪雨などの天災地変は、過去の例を圧倒的に上回る強度で発生することもあります(例:2011年の東日本大震災)。

想定を大きく超える天災地変が発生した場合、それに耐えられなかったとしても、建物や外構などに瑕疵があった(=通常備えるべき安全性を欠いていた)と評価するのは酷な場合があります。

したがって、天災地変があまりにも大規模であった場合には、工作物責任が否定される可能性が高いです。

ただし、工作物の設置・保存に際して想定すべき天災地変の規模は、時代ごとに移り変わるものです。

たとえば、2011年の東日本大震災を経験したことによって、日本に存在する建物が備えるべき耐震性の水準は上がったものと考えられます。

工作物の「瑕疵」の有無は、あくまでも倒壊・崩落等の事故が発生した当時の技術水準や社会通念に照らして判断すべきものとご理解ください。

2-3. 判断基準③|損害の内容

工作物責任に基づく損害賠償が認められるのは、工作物の設置・保存の瑕疵との間に社会通念上相当な因果関係がある場合のみです(相当因果関係説)。

したがって、瑕疵と損害の間に一応の繋がり(因果関係)は認められるものの、それがあまりにも遠すぎる場合や、被害者側の異常な行動が介在している場合などには、工作物責任が否定される可能性があります。

(例)
隣家の崩落により家の一部が破損し、生活上の不安を覚えたため、家全体を取り壊して別の場所に引っ越した。被害者は隣家の住人に対して、事故当時の家全体の価格につき損害賠償を請求した。

なお、事故当時における家の破損は一部にとどまり、住み続けて通常の生活を送ることは可能な状態だった。

→家の修理費用相当額の損害賠償は認められるものの、家全体の価格の損害賠償は認められない

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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