8月5日、筆者は東京のとある会場にいた。
この日は日清製粉ウェルナの秋冬新製品の発表会が開催された。
普段は「ガジェットライター」だの「テクノロジーライター」だのを自称している筆者にとっては、あまり行き慣れない分野のイベントでもある。
しかし、ここで発表されたのは「ライフスタイルの変容の分岐点」でもあった。そうである以上、これは@DIMEで取り上げるべき話題だ。
そしてそこで筆者が見たのは、「食事はもっと手軽なものになっていくのでは?」という未来予想図である。
『青の洞窟』の新シリーズが登場
ガジェットやスマホ、ゲーミングPCの新製品発表会に全国紙の記者が来ることはあまりない。
が、大手食品メーカーの発表会は別だ。何しろ、人間は食事をしなければ生きていけない。食料品価格の改定は生活の根幹を揺るがすものである。
そしてこの話題は、全国紙の社会面にも大きく掲載される。
8月5日の会場にも、日本人なら誰もが知っている新聞社の記者がズラリと並んでいた。
日清製粉ウェルナが今回掲げたのは「値ごろ感」である。
これは証券取引の分野でよく聞く言葉だが、食品の分野に当てはめると「程よい価格、程よい量」といったところか。
そしてその「値ごろ感」を象徴するのが、パスタソースブランド『青の洞窟』の新シリーズ『青の洞窟 Piccolino』だ。
全5種、1人前の内容量が100~110gに調整された『青の洞窟 Piccolino』は、「少なめのスパゲティにも対応できるソース」だ。
筆者の手元にある資料によると、スパゲティ1食分の喫食量は従来は100gが基準とされてきたが、女性や高齢男性の場合は90g以下でも十分に満足できる人が少なくないという。
たとえば40代女性の4割以上が、スパゲティは1食90g以下で十分と答えている。
それと同時に、最近では外食よりも内食即ち自炊へニーズが移行しているという。
これは今も後を引く新型コロナウイルスの影響もあるが、食品価格や電気・ガス代の高騰で以前より可処分所得が減ってしまったこともあるそうだ。
これらを鑑みれば、現在の食のトレンドは「自宅でやや控えめな量の食事を」ということになる。
スパゲティは1食90g以下で十分?
『青の洞窟』シリーズは、「欲深い大人の濃厚イタリアン」というキャッチコピーが表す通り「高級志向のパスタソース」である。
日清製粉ウェルナの公式サイトとは別に「青の洞窟Club」というサイトまで用意され、この記事を執筆している時点では「至福のひとときフォトコンテスト」というイベントが展開されている。無論、ファンも多い。
そして従来のブランドイメージを保持しつつ、より手軽に喫食できるシリーズとして『青の洞窟 Piccolino』が発表された。
ただしこれを敢えてネガティブに捉えるなら、内容量の少ない新商品でどうにか販売価格を維持しようという苦労の表れだ。
先程「スパゲティは1食90g以下でも十分と考える人が少なくない」と書いたが、そうした消費者に向けたマ・マーブランドの新ラインナップ『マ・マー チャック付80g結束スパゲティ 1.6mm 480g』も発表されている。
その内容は80gの束が6束で、「スパゲティは1食100g」を完全に覆してしまっている。
今後の価格改定の可能性
「今年度までに、価格改定がもう一度実施される可能性はあります」
そう語るのは、日清製粉ウェルナ専務取締役の岩橋恭彦氏である。
此度の発表会に顔を出した全国紙の記者の注目は、新製品よりも価格改定即ち値上げにあった。消費者にとっては歓迎できるニュースではないが、メーカーにとっても値上げは「苦渋の決断」である。
岩橋氏は「値上げの要因はひとつではありません」と付け足したが、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う穀物、食用油の価格高騰はやはり大きな値上げ要因になっている。
今回の発表会で日清製粉ウェルナが発表した新商品は、例年の2倍近く。が、これはもちろん「内容量の見直し」に起因する現象である。
筆者の手元にある資料、2022年8月5日付のプレスリリースにはこう書かれている。
「コロナ禍で定着した内食需要は、昨今の食料品等の価格高騰により、今後は節約ニーズが加わっていくと当社は予測しています」
この文言に反論しようとする記者は、まず存在しない。
テレワークに最適な食事
その中で敢えて前向きな考えで現象を捉えるとしたら、「アフターコロナ時代のライフスタイルを食品メーカーが考慮するようになった」とも言える。
1食80gのスパゲティと、それにかけるためのパスタソース。これは「テレワークの合間の食事」に最適ではないか?
というわけで、筆者も『青の洞窟 Piccolino』を開封して、少なめのスパゲティに盛り付けて食べてみた。
いかんせん「食品の写真」というのは非常に難しい撮影のため(どうしても美味しそうに撮れない!)これは省略させていただくが、一言で言えば「小腹を満たすならちょうどいい」である。
筆者の肉体は175cm96kg。しかし若い頃に比べて、明らかに食べなくなった。昔はCoCo壱番屋の1.6kgのカレーを完食ということもできたのだが……。
この『青の洞窟 Piccolino』は、従来の『青の洞窟』の味を引き継ぎつつも「中年向けの内容量」に抑えられている印象だ。
逆に言えば、育ち盛りのティーンエイジャーにはいささか不向きである。それこそ甲子園に出場するような高校球児の胃袋では、『青の洞窟 Piccolino』はあまりに少な過ぎるだろう。
そのような意味でも、『青の洞窟』シリーズは「大人向けのパスタソース」である。
「内容量の小型化」に舵を切る
筆者自身、パンデミック以前からのテレワーカーとして「一般的な食習慣」との摩擦は強く感じている。
即ち、朝昼晩の三食はテレワークには合わないのではないか。その代わりに、各々の好きな時刻にサッと作ることができる食事が、我々の仕事には求められている。
そうした需要を食品メーカーがようやく汲み取ってくれた……と解釈できないだろうか。
少なくとも、『青の洞窟』をより手軽に喫食できるようになったのは、ファンにとっては朗報のはずだ。
そして、日清製粉ウェルナ以外の食品メーカーも「内容量の小型化」に向けて全力で舵を切っている。
それは必ずしも明るい話題というわけではないが、今の時代に即した「値ごろ感」を盛り込んだ新製品が今後も高波のように登場するはずだ。
【参考】
青の洞窟Club
取材・文/澤田真一