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電車を故意に遅延させた場合に請求される損害賠償額の相場は?

2022.08.24

人身事故、客同士のトラブル、運転手に対する理不尽なクレーム…。

電車を故意に遅延させた場合、鉄道会社に対する損害賠償責任が発生します。

この場合、実際に損害賠償を請求されることはあるのでしょうか? 請求される場合、金額はどの程度になるのでしょうか? 実務の観点からまとめました。

1. 電車を故意に遅延させたら、損害賠償責任が発生する

電車を故意に遅延させた場合、鉄道会社には以下のような損害が発生します。

・遅延によって失われた運賃収入
・他の事業者に支払う振替輸送費
・(人身事故の場合)破損した車両の修理費
など

これらの損害については、行為者が鉄道会社に対して、不法行為(民法709条)に基づく賠償責任を負います。

2. 故意遅延について、実際に損害賠償を請求されることはあるのか?

故意遅延が発生した状況によりますが、客観的に生じる鉄道会社の損害額は、数千万円~数億円に上ることもあります。

しかし実際のところ、行為者に対して全額の損害賠償請求が行われるケースは稀です。また、示談交渉は行われることが多いものの、訴訟にまで発展するケースは少ないと思われます。

2-1. 交渉ベースでの請求は行われている|ただし金額は限定的

故意遅延を発生させた行為者の素性がわかっている場合、鉄道会社が行為者(または遺族)に接触し、損害賠償に関する示談を提案するケースはしばしばあります。

特に人身事故の場合、復旧までに多くの時間と工程を要し、さらに遺体処理や車両の修理などにも多額の費用がかかることから、客観的な損害はきわめて高額に及ぶ可能性があります。

しかし実際には、鉄道会社が損害全額の賠償を強硬に請求することは少なく、数百万円程度の請求にとどめるケースが多いです。

鉄道会社がきわめて高額の損害賠償を請求したとしても、行為者側に支払う資力がないケースが大半と思われます。

また、行為者が亡くなっているケースでは、遺族が相続放棄をしてしまえば、鉄道会社は遺産の範囲内でしか損害賠償を回収することができません。

鉄道会社としては、損害全額の賠償に拘るのではなく、現実的な視点から早期解決を目指す方針を取る傾向にあるようです。

2-2. 訴訟に発展するケースはほとんどない

故意遅延に関する損害賠償につき、鉄道会社が訴訟を提起して回収しようとした例はほとんどありません。

鉄道会社が訴訟を提起しない背景には、高額の損害賠償請求に拘らないのと同様の理由があると思われます。

苦労して損害賠償を認める判決を得たとしても、行為者側が支払う資力を持っていることは少なく、遺族に相続放棄をされてしまう可能性も高いからです。

ただし、

「高額の損害賠償を請求されることはない」
「訴訟まで起こされることはない」

という具合に、高を括って行動するのは危険です。

高額の損害賠償請求や訴訟の提起は、あくまでも鉄道会社の判断によって差し控えられているに過ぎません。客観的には損害賠償責任は発生するのであって、鉄道会社の方針次第では徹底的に請求を受ける可能性がある点にご留意ください。

3. 人身事故で本人が亡くなった場合、遺族は損害賠償責任を負うのか?

線路に飛び込んで電車を止めたケースでは、ほぼ確実に本人は亡くなってしまうでしょう。

その場合、遺族が鉄道会社に対する損害賠償責任を相続しますが、相続放棄をすれば支払いを免れます。

3-1. 損害賠償責任は相続される|遺族が支払うのが原則

人が亡くなった場合、その人(=被相続人)について相続が発生します。

相続の対象となるのは、被相続人の財産に属した一切の権利義務です(民法896条、一身専属の権利義務を除く)。

鉄道会社に対する損害賠償債務も、被相続人の生前に発生した義務の一つなので、相続の対象となります。したがって、故意遅延について相続人が鉄道会社から損害賠償請求を受けた場合、本人の代わりに支払わなければなりません。

なお、相続人は以下の要領によって決まります。

配偶者:常に相続人となる
子:常に相続人となる
直系尊属(両親など):子がいない場合に相続人となる
兄弟姉妹:子・直系尊属がいない場合に相続人となる
※代襲相続・相続欠格・相続廃除による例外あり

3-2. 相続放棄をすれば免責される

ただし、自身には何ら責任のない遺族が、常に本人の代わりに損害賠償責任を負うとするのは酷です。そのため、民法では「相続放棄」が認められています。

相続放棄を行った者は、はじめから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。被相続人の債務も相続しなくなるため、鉄道会社に対する損害賠償についても支払う必要がなくなります。

相続放棄は、家庭裁判所に対して申述書や戸籍書類などを提出して行わなければなりません(民法915条1項)。

原則として、相続の開始を知った時から3か月以内に相続放棄の手続きを行う必要があるため、期限に間に合うよう早めにご対応ください。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw

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