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【深層心理の謎】〝ビジュアル優先〟で物を選ばない時の心理状態

2022.08.24

 新型コロナに戦争に自然災害にと、今の世界は災い(わざわい)に包まれている。そして災いは“厄”であり“禍”だ――。

“ビジュアル優先”について考えながら水道橋駅界隈を歩く

 JR水道橋駅界隈に来ていた。夜8時になろうとしている。日が暮れても相変わらず蒸し暑い。部屋に戻ってから少しだけ作業があるので、お酒を飲むのは控えたいが、どこかで何かを食べて帰ることにしたい。

※筆者撮影

 新型コロナウイルスが騒がれはじめた頃、新たな感染症禍ということで“コロナ禍”という言葉が使われるようになったわけだが、人によってはこの“禍”が目にも耳にも馴染みがなかったということなのか、「コロナ渦」や「コロナ鍋」といった誤表記が散見できたことを思い出す。

“渦”も“鍋”も音読みで“か”であり、加えてビジュアル面でも右側のつくりが“咼”なので間違えやすいといえるのかもしれないが、しかし重要なのは“禍”の意味がわかっていないからこその間違いである点だ。表意文字としての意味を理解しておらす、ビジュアルの類似性で選んでしまったからこそのミスということになる。よくわからないことについてはまずはビジュアルが優先してしまうのだろうか。

 ひと目見てわかるビジュアル表現は有効であるし重用もされるが、その一方で見た目が似ているもの同士を混同したり、見た目の先入観だけで誤った判断をしてしまうリスクがあることを理解しておかなくてはならない。ビジュアルを過度に優先することに潜む落し穴を知っておきたいものだ。

 駅西口を左に進み、最初の路地を左に進む。飲食店が多いエリアだ。しかしお盆の時期なので閉めている店もちらほらある。普段の平日の夜に比べたら、街の明るさはずいぶんと失われているのだろう。

 最近は電力供給の逼迫と電気料金の上昇で、店先の照明を落としたり消している店舗もあったりするが、まさにビジュアルの面からは暗い商店街ではあまり気分があがりそうもない。とはいっても“禍”に包まれている今日の世の中にあって、節電は推奨されこそすれ非難されるいわれはまったくないものだ。説明すれば誰もが理解を示してくれるはずである。

 このように気を抜いていれば何かとビジュアルが優先されてしまうのだが、もはや時代は見た目などかまっていられないという側面もある。猛暑の中で“クールビズ”もすっかり定着しているように、見た目最優先の価値観は徐々に修正を迫られていそうでもある。

 食べ物についてもご存知のように“インスタ映え”する美しいビジュアルのメニューがもてはやされている昨今だが、行き過ぎれば食べ物として本末転倒にもなりかねないだろう。ローストビーフ丼はまさに“インスタ映え”する料理として一時期すごく流行ったが、今はそうでもなさそうだ。もちろん美味しいメニューなのだが、ビジュアルが過度に一人歩きしてしまった典型的なケースといえるかもしれない。ビジュアル優先の落とし穴には気をつけたいものである。

規格外の野菜を買わせる方法とは?

 通りを進む。さて何を食べようか。もちろん間違っても“インスタ映え”を考慮に入れるつもりはない。居酒屋が並んでいるが、その先には台湾料理の店があり、さらにその先には中華料理店があるがどうもやっていないようだ。もう少し先に行ってみよう。

※筆者撮影

 食べ物のビジュアルという話で無視できないのは、形が悪いという理由で流通から弾かれている規格外の野菜だ。いわゆる“フードロス”が世界的に問題となっている昨今だが、栽培されたのに出回らずほとんどが廃棄されてしまう規格外の野菜は、統計の数値に反映されることがなく“隠れフードロス”とも呼ばれていて一部から問題視されている。

 品質にも味にも何の問題もない規格外の野菜をどうすれば消費者に買ってもらうことができるのか。最近の研究によれば、それは一にも二にも説明することに尽きるということだ。逆に言えば、納得できる説明があれば消費者は規格外野菜を“正規品”に近い価格で購入するというのである。


 醜い食品は栄養と安全の基準を満たしていますが、見た目とサイズの基準から逸脱しています。醜い食品の市場性は、現場レベルの食品救助活動を挫折させる主な要因です。

 私たちは醜い食べ物に対する一様な否定的な嗜好を、一部の消費者が標準的な提供物よりも醜い食べ物を好み、プレミアムを支払うような、より多様で水平的に差別化された嗜好に変換する方法で、醜い食べ物を宣伝する機会を調査します。

 オンラインの個別選択実験を実施し、回答者の醜いニンジンにお金を払う意欲を大幅に高めるマーケティング戦略のポートフォリオを見つけました。

 醜い食品の購入を食品廃棄物の削減に結びつけ、醜い食品は自然で本物であることを示唆する二重のメッセージは、支払い意欲を大幅に向上させます。

※「ScienceDirect」より引用


 ルイジアナ州立大学とオハイオ州立大学の合同研究チームが2021年11月に「Journal of Retailing and Consumer Services」で発表した研究では、規格外の野菜を可能な限り高い価格で購入してもらう方法を突き止めている。

 1300人のアメリカ人が参加した調査では、規格外野菜についての真実を伝える1つ、あるいは2つのメッセージを理解してもらった。メッセージAは規格外の野菜の栄養価は売られているものとまったく変わらないことを伝えるものであり、メッセージBは規格外の野菜を廃棄することは社会的コストであることを伝えるものである。栽培されたのに市場に出回らない規格外の野菜は一説では収穫量の30%から40%を占めているといわれている。

 その後参加者は、農家が直接経営しているファーマーズマーケットにおいて2ドルで売られているニンジンの束を見せられた後、さまざまな割合で規格外のニンジンが組み合わされた束を見せられた。それぞれは2.18ドルから1.39ドルの範囲で値付けされていて、参加者はどの束なら買うかが尋ねられて報告した。

 規格外のニンジンが混ざった束はいずれも2ドル以下のものしか売れなかったのだが、収集したデータを詳しく分析してみると、2つのメッセージを理解した参加者において、規格外が4割含まれたニンジンの束が最も高価格で売れることが突き止められたのだ。つまり今までは廃棄していた規格外のニンジンも、“正規品”と組み合わせることで、メッセージをより良く理解した消費者にはある程度の価格で売れるということになる。

 規格外の野菜を捨てるよりはましとばかりに二束三文で売るのはあまり意味があるとは思えないが、よく説明してから“正規品”と組み合わせることで、じゅうぶん利益が得られるスキームが構築できる可能性が示唆されることになった。

 そのビジュアルに難があるものだとしても、納得できる説明があれば我々はそれなりに高く評価するということにもなる。ここでもビジュアル優先の風潮に“待った”がかかったといえそうだ。

「さばめし」を“作法”通りに堪能する

 さらに通りを進む。右手にはまた別の中華料理店があり、左手には某カフェチェーンが見えてきた。お盆休みで閉めているお店はこの界隈にもいくつかあった。

※筆者撮影

 六差路になっている左の角に「鯖」の文字が記されたお店があった。焼きサバ定食のお店のようだ。正確には定食ではなく「さばめし」ということのようである。何だか珍しい。入ってみよう。

 調理場を囲むカウンターとテーブル席が2卓ほどのコンパクトな店内だ。先客は1人だけだった。入口すぐの券売機でいちばんベーシックな「さばめし」のボタンを押す。下のほうのボタンの列にはアルコール類もあり、1杯だけならいいだろうとハイボールのボタンも押した。入口近くのカウンターに着いて食券をお店の人に渡す。

 目の前の仕切り板の下の方に「さばめしの作法」が記された紙が貼られていた。3種類の食べ方が順番に説明されていてわかりやすい。食べ足りない時は「追めし」が一杯無料で注文できるということだ。

 ハイボールがやってきた。炭酸水は瓶で提供された。瓶の炭酸水を飲むのは何年ぶりだろうか。ウイスキーと氷が入ったグラスにさっそく炭酸水を注いてマドラーで軽くかき混ぜてひと口飲む。うまい。

 お客が2人続けて入ってきた。なかなかの人気店だ。お昼どきは並ばないと食べられなかったりするのだろうか。

 さばめしがやってきた。どんぶり飯の上に半身の焼きサバが乗っているという豪快な盛り付けだ。まったく期待していなかったが意外や“インスタ映え”もするメニューなのかもしれない。

※筆者撮影

“作法”通りにまずはシャモジと箸でサバの身をよくほぐしてから空のお椀にご飯と一緒によそい、よく混ぜてから口に入れる。脂が乗っているサバの身とご飯の組み合わせは想像通りに美味しい。

 いったん茶碗のご飯を食べ終わってからは再びサバをほぐし、今度は薬味とゴマを加えてご飯とよく混ぜてからいただく。“作法”に従っていれば何の迷いもなく美味しくいただけるというものだ。

 ほぐしたり混ぜたりしながら食べる行為は一般的にあまり行儀がよくないのだろうが、まぁ細かいことは気にせずに飯を“食らう”ことにしたい。もはやビジュアルを優先してばかりはいられない“禍”の時代なのだから…。

文/仲田しんじ

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