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Zファンが新型「フェアレディZ」に求めるもの

2022.08.21

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 新型「フェアレディZ」のプロトタイプに北海道・陸別のテストコースで試乗した。新型3.0ℓ、V6ツインターボエンジンに9速ATもしくは6速MTが組み合わされる。エンジンは最高出力405ps、最大トルク48.4kgmを発生し、とてもパワフルでスムーズだった。9速ATも素晴らしい。「スタンダード」モードでは変速ショックが皆無で、常に最適なギアを選んでいく。

機械として優れているか? ★★★ 3.0(★5つが満点)

 スイッチでスポーツモードに切り替えると、アクセルワークやブレーキなどに応じて敏感に変速していく。日常的な走行や高速道路などでのロングツーリングではスタンダードモードで走り、ワインディングロードやサーキットなどでドライビングを楽しみたい時にはスポーツモードに切り替えて使える。

 スポーツモードで特に素晴らしいと思ったのは、フットブレーキへの反応の機敏さ。直線路を9速ないし8速で走ってきて、眼の前に現れたコーナーに備えてフットブレーキを踏むと、すぐに7速にシフトダウンし、踏み続けていると、続けて6速、5速と落ちていく。ステアリングを切ってコーナーに入り、さらにブレーキを踏めば、4速に落ちる場合もあった。

 速度やエンジン回転数、ステアリング切れ角、減速G(重力加速度)など複数の要素をクルマが演算し、瞬時に導き出された結果によってギアが選ばれていく賢さを持っている。

 ポルシェの「PDK」に代表されるツインクラッチ式のオートマチックトランスミッション(AT)も各社に採用されていて、同じようにスポーツモードを選択できる。ツインクラッチ式のスポーツモードは、変速がより速く、ダイレクトなものが多いが「フェアレディZ」の場合はややマイルドで、変速ショックが少なく、スムーズなところが長所となっている。

 また、新型「フェアレディZ」のATは変速そのものが優れているのと併せて、エンジンの良さを引き出すことにも長けている。パワフルさとキメの細かな回転フィールの豊かなタッチを漏らすことなく伝えてくれる。このエンジンと9速ATは素晴らしいコンビネーションだ。

 それに較べると、6速MTは存在感が薄かった。MTマニアでない限り、積極的に選ぶ理由はないだろう。ストロークも短いわけでなく、タッチも精巧というわけではないからだ。乗り心地とハンドリングは歴代モデルの延長線上にあるものだった。スポーツカーらしい切れ味や機敏な身のこなしなどよりも、安定感や重厚感などを伴った上質さが先に感じられる。

 上質な走行感覚は、低い着座位置とタイトな車内、パワフルなエンジンと絶品の9ATなどとあいまってロングツーリングを快適なものにするに違いない。大人のGT(グランドツーリング)カーにふさわしい。と思いかけたが、残念なことに「フェアレディZ」には現代のGTとして決定的な欠けているものがあることに気付いてしまった。日産の誇る安全運転機能「プロパイロット2.0」が装備されないのである。オプションでも用意されていない。

「プロパイロット2.0」は高度な車線変更支援や追い越しや分岐路での支援も行うもので、まだスカイラインとアリアにしか採用されていない。そこまで高度でない「プロパイロット」といえども、車線の中央付近を走行するよう支援したり、標識やコーナー、道路状況に応じて加減速をアシストする。こちらは、軽自動車の「デイズ」や「サクラ」、ミニバンの「セレナ」など9車種もの日産車に搭載されている。新型「フェアレディZ」には、どちらも搭載されないのだ。

 新型「フェアレディZ」は旧型のプラットフォームを用いているために、プロパイロットを装備したくてもできないのである。これは致命的だ。ロングツーリングでプロパイロットがなければ、ドライバーはすべての運転や安全確認などを自分の脳と眼と脚を使って行わなければならないので、ドライバーの負担がとても大きくなる。

 渋滞に遭遇したりしたら、なおさらだ。短い距離ならば自覚されないかもしれないが、距離が長ければ長くなるほど負担は大きくなり、運が悪ければ起こさずに済んだアクシデントも引き起こしてしまうかもしれない。

 2022年に登場する、それも車両価格が524万1500円~699万6300円(6MT、9ATとも4グレードが用意されている)にもなるクルマでプロパイロットが装備されないのに驚かされた。試乗に際して開発者陣の面々からは「完全な新型ではなく、スキンチェンジですから」と説明は受けていた。つまり、2008年に登場した現行型のボディを変え、アップデートしたエンジンと9ATを組み込んだのが新型「フェアレディZ」なのだ。

商品として魅力的か? ★★★ 3.0(★5つが満点)

 試乗前のプレゼンテーションで、開発者は次のように新型「フェアレディZ」を位置付けていた。

「今度のZは“ZファンのためのZ”です。他のクルマとは競合しません」

「フェアレディZ」は、1970年の初代「S30」型から数えて、6世代で約180万5000台造られてきた(2021年3月時点)。初代からアメリカでは「Z car」と呼ばれて大人気だった。2シーターのスタイリッシュなボディで、性能も悪くなく、壊れず、装備も充実している割りに買いやすい価格。当時の日本車一般にも共通する高い評価を得て、北米で販路を広げていった。

 2代目の「S130」型にはターボエンジンも搭載されるようになり、早くも累計100万台を突破。3代目「Z31型」からハイパフォーマンス化が進み、1989年に登場した4代目「Z32」型では3ナンバー専用ボディを持ち、エンジンの最高出力は当時の自主規制値280ps。歴代のデザインイメージを継承しながら新しい「フェアレディ」像を打ち出すことに成功し、高い評価を得ていたが、2000年にいったん生産を終了した。2年の空白の後に5代目「Z33」型が復活し、33万台のヒットを記録。2008年に6代目「Z34」型がデビューし、今回の7代目につながった。

 “ZファンのためのZ”だから、新型は歴代「フェアレディZ」が作ってきたイメージを大切にしている。それを見事に具体化しているのがヘッドライトとテールライトだろう。ヘッドライトはユニットの奥にあるLEDからの間接光をレンズによって上下に分割して発光させ、まるで「S30」のヘッドライトを囲むボディ尖端部分のようなイメージを喚起させるのに成功している。

 同じように、テールライトは「Z32」型のイメージをLEDからの直射光とレンズで屈折させた内面反射光の2つで実現している。大袈裟なメカニズムを使わず、それでいて現代的なLEDを用いて、過去のデザインイメージを蘇らせている手法は鮮やかだ。Zファンはニヤリとうれしくなってしまうだろうし、そうではない人にもセンスの良さは伝わってくる。担当デザイナー氏に大きな拍手を送りたい。

 しかし、興醒めなところもあった。「S30」型で採用されていたダッシュボード上の小型3連メーターを新型でも装備している。向かって左から電圧計、ターボチャージャー回転計、ターボブースト圧計だ。それぞれ、赤いプラスチックの針を持った従来型のメーターである。

 それに対して、ドライバー正面のメーターパネルはフルデジタルの一枚のパネルだ。中央に大きなエンジン回転計が設けられ、その右側には油温計と油圧計、水温計とデフオイル温度計がある。左側はGフォース計やタイヤ空気圧計、シフトアップインジケーターなどをステアリングホイール上のボタンで切り替えて表示させられるのだが、なぜかそのうちのひとつにターボブースト圧計まであるのだ。

 ターボブースト圧計は、すでにダッシュボードの3連メーターの右側に設けられているのに、まったく同じ表示形式のものが、ご丁寧にこちらはデジタル表示されている。3連メーターにあるのだから、このデジタル表示は不要ではないか?

 もちろん、デジタル表示だから、存在していてもそれほど邪魔になるものではない。表示を切り替える際にボタンを押す回数が一回増えるだけだから、そんなにメクジラを立てないでも良いではないか、とも思う。

 しかし、その一方で「開発過程で、誰も“ターボブースト圧計が重複しています”と指摘しなかったのだろうか?」とも考えてしまう。

 現代のクルマの多機能化は著しいので、それらの働きを表示するメーターやディスプレイなどをデジタルによって階層化している。重複する余裕などないのだ。開発者に理由を訊ねても、明確な答えは返ってこなかった。ドイツの建築家のミース・ファン・デル・ローエの「神(真実)は細部にこそ宿る」という格言を思い出した。

 新型「フェアレディZ」には、エンジンやトランスミッション、ヘッドライトとテールライトなどのように非常に高い完成度を持ち、それが大きな魅力となっている部分がある反面、「プロパイロット」が装備されず、ターボブースト圧計の重複が放置されている点、さらにはサイドブレーキが古臭いレバーのままである点など相反する部分が混在している。

 Zファンに向けて、現代の技術で造った最新のZを提供するというテーマへの取り組みが徹底されていない。Zファンほど、そうしたところに厳しいのではないだろうか。

■関連情報
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/z.html

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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