■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
注目の軽自動車EV「日産 サクラ」に横浜の一般道と首都高速で試乗した。サクラは、“発表から4週間で1万7000台もの受注があった”とニュースになっていた軽自動車のバッテリーEVだ。サクラには兄弟車の「三菱 eKクロスEV」もあって、こちらも4週間で4500台以上の受注があったヒットを記録している。
軽自動車のEVというと、三菱自動車の「i-MiEV(アイミーブ)」が、かつて2009年から2021年まで製造・販売されていた。日産も「リーフ」を長年発売し続けてきたが、数か月前に新型EV「アリア」を発売した。三菱自動車と日産自動車、両者によるEV開発は“強力タッグ”でもあるのだ。
機械として優れているか? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
「サクラ」は、エンジン車版の軽自動車「デイズ」のプラットフォームを利用してEVに仕立てられている。もちろん、デイズを開発中からEV派生は折り込み済み。床下に並べるバッテリーも、凸凹のある床面に沿ってデッドスペースをなくすべく、高さの異なったバッテリーセルを開発するなど、EV化には一日の長がある。
運転しても、軽自動車とは思えない上質な走りっぷりだ。停止から静かで、力強く加速していく様子はEVならではの長所とはいえ、その中でも「サクラ」の完成度は高い。首都高速道路上の登り勾配のあるところでも力強く加速して驚かされる。
軽自動車はメーカー間の自主規制によって最高出力が47kWに抑えられているが、最大トルクにはそれが設定されていないので、エンジン車の「デイズ」(ターボ)の2倍力強い195Nmという値のなせる業だろう。床下に重たいバッテリーを敷き詰めるEVに共通する弱点である、段差や荒れた舗装のなどを通過する時のショックの吸収やノイズの遮断なども、「サクラ」はうまくこなしている。
「デイズ」などの車高と着座位置の高い軽自動車から感じる走行中の不安定感も皆無だ。この点もEVの長所を活かしている。限られた試乗時間内で、違和感などを感じることがなく、完成度の高さを知らされた。
メーターとディスプレイは一体化され、表示も大きく、用途ごとに切り替えられるから見やすく使いやすい。昨年にモデルチェンジされた「ノート」を思い出す。今年発表したEV「アリア」に共通するマテリアルとデザインを用いたダッシュボードやドアパネル、各種のスイッチ類などの造形も、これまでの軽自動車にはないセンスを感じさせるもので、ここでも“軽自動車っぽさ”を超えている。
日産ならではの運転支援機能「プロパイロット」と「プロパイロットパーキング」なども装備され、安全面でも抜かりない。トランクルームに大きな荷物を載せないのならば、リアシートを後ろに目一杯スライドさせて、足元にも眼の前にも広大な空間を確保することができる。育児や介護などに、とても役に立ってくれるだろう。
自宅でV2H(Vehicle to Home)機器と接続すれば「サクラ」や「eKクロスEV」から電気を供給する機能も有している。
商品として魅力的か? ★★★★★ 5.0(★5つが満点)
「サクラ」はとても魅力的な商品だ。なぜならば、軽自動車という商品特性がEVのメリットを享受しやすく、その上、デメリットを享受しにくいからだ。
まず、軽自動車の用途は短中距離に限られる(三菱自動車の調査によると、1日あたりの平均走行距離は50km以下)から、EVの航続距離の短さを心配しなくていい。「サクラ」と「eKクロスEV」の航続距離は180km。そして、集合住宅ではなく、一軒家ならばガレージで普通充電ができる。夜に帰宅して200ボルトで普通充電をゆっくり行ない、朝には満充電で出発できる。この点でも、軽自動車に向いている。
出先での急速充電は、バッテリーに充電した電気を使い果たしそうになって初めて利用するものであって、通常は自宅での毎日の普通充電だけでコト足りる範囲内での使い方が軽自動車ユーザーのほとんどならば可能となってくる。
あくまでも普通充電がメインで、出先での急速充電はサブだから、使わないに越したことがない。充電施設で急速充電を行おうとすれば時間も料金もかかる。知らない土地だったら探さなければならないし、先に来た誰かが充電していて、待たなければならないかもしれない。そうしたデメリットや心配ごとを、そもそもの軽自動車の使い方だったら、本来的に回避できるはずだ。
だから、そこに期待した人々が殺到して驚異的なヒットを記録しているのではないだろうか。意地悪く想像してしまえば、「サクラ」でなくても軽自動車だったら何でもEVに向いているのか? あるいは、「サクラ」のようなヒットとなったのか?
答えは、イエスだろう。しかし、日産と三菱はNMKVという合弁会社を2011年に設立し、軽自動車の開発と製造を行なってきた。その過程で「i-MiEV」の経験を継承する「サクラ」「eKクロスEV」計画も準備されてきた。強力タッグの長年の開発の成果だと考えれば、納得がいく。
「サクラ」は3グレードあり、価格は233万3100円、239万9100円、294万300円。国と地方自治体に加え、東京23区の中には、さらにEVへ補助金を支給する区もある。それらを活用できると「デイズ」の最上位モデルよりも安く購入することができる場合もある。高価格というEVの弱点も、軽自動車化することによって克服された。「サクラ」と「eKクロスEV」は、その良いお手本となっている。
■関連情報
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/sakura.html
文/金子浩久(モータージャーナリスト)