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紙幣の写真をそのままネットに掲載するのは何が問題なのか?

2022.08.22

2024年度の上半期を目処に、渋沢栄一氏の肖像を用いた一万円札をはじめとする新紙幣の発行が予定されています。

従来から雑誌などの出版物では、紙幣の写真をそのまま掲載するのはNGで、「見本」などの文字を入れたうえで掲載するのが一般的でした。しかし、最近では個人で運営するブログなどを中心に、紙幣の写真をそのまま掲載しているケースも散見されます。

紙幣の写真をそのまま掲載することは、何らかの問題があるのでしょうか? もしブログなどで紙幣の写真を掲載する場合は、どのような点に注意すべきなのでしょうか?

今回は、紙幣の写真をインターネット上にアップロードすることの問題点につき、法的な観点からまとめました。

1. 通貨に関する犯罪の種類

日本の法律では、通貨の信用性を法的に保護するため、以下に挙げる行為が犯罪とされています。

1-1. 通貨偽造の罪(刑法)

刑法では、通貨偽造の罪として以下の行為が処罰の対象とされています。

①通貨偽造及び行使等(刑法148条)

日本の通貨(貨幣・紙幣・銀行券)について、以下のいずれかの行為をした者は「無期または3年以下の懲役」に処されます。

(a)行使の目的で通貨を偽造・変造する行為
(b)偽造・変造された通貨を行使し、または行使の目的で他人に交付・輸入する行為

②外国通貨偽造及び行使等(刑法149条)

日本国内で流通している外国の通貨について、以下のいずれかの行為をした者は「2年以上(20年以下)の懲役」に処されます。

(a)行使の目的で通貨を偽造・変造する行為
(b)偽造・変造された通貨を行使し、または行使の目的で他人に交付・輸入する行為

③偽造通貨等収得(刑法150条)

行使の目的で、偽造・変造された日本の通貨、または日本国内で流通している外国の通貨を収得(取得)した者は「3年以下の懲役」に処されます。

④収得後知情行使等(刑法152条)

日本の通貨、または日本国内で流通している外国の通貨を収得した後で、偽造・変造されたものであることを知ったにもかかわらず行使し、または行使の目的で他人に交付した者は、額面価格の3倍以下の罰金または科料に処されます。

ただし科料の場合は、2,000円以下にすることはできません。

⑤通貨偽造等準備(刑法153条)

日本の通貨、または日本国内で流通している外国の通貨を偽造・変造する目的で、器械・原料を準備した者は「3か月以上5年以下の懲役」に処されます。

なお、①~③については未遂も処罰の対象です(刑法151条)。

1-2. 通貨及証券模造取締法違反

明治28年(1895年)公布の古い法律である「通貨及証券模造取締法」1条では、通貨・国債証券・地方債証券と紛らわしい外観を有するものを製造・販売する行為を禁止しています。

違反した者は「1か月以上3年以下の懲役」に処されます(同法2条、刑法施行法に基づき法定刑が変更)。

刑法上の通貨偽造罪は、行使の目的が要件とされています。これに対して通貨及証券模造取締法では、行使の目的がない模造通貨の製造・販売についても処罰の対象としているのが特徴です。

通過等と紛らわしい外観を有するかどうかは、以下の事情を総合的に考慮して判断されます。

・図柄がどの程度似ているか
・大きさ
・材質
・「見本」の文字の有無
・斜線の有無
など

2. 通貨の写真をブログなどにアップしたら違法? 出版物への掲載は?

通貨の写真に「見本」などの文字を入れず、そのまま掲載する行為については通貨及証券模造取締法違反の成否が問題となります。

この点、通貨の写真をインターネット上にアップロードするのか、それとも出版物に掲載するのかによって取扱いが異なります。

2-1. インターネットへのアップロードは違法ではない

インターネット上のブログなどに通貨の写真をそのままアップしても、通貨及証券模造取締法違反には当たりません。

本物の通貨を行使する際には現物を交付する必要があり、画面に映った通貨を見せて行使することはあり得ません。

したがって、インターネット上に通貨の写真をアップしたとしても、本物の通貨と「紛らわしい外観を有する」とは言えず、通貨及証券模造取締法違反には該当しないのです。

2-2. 通貨の写真を印刷した場合は違法の可能性あり

これに対して、雑誌などの出版物に通貨の写真を印刷して掲載する行為は、通貨及証券模造取締法違反に当たる可能性があります。

物理的な実体を持つ以上、材質などが本物とは全く違うとしても、状況によっては本物の通貨と誤認させる危険性を持つと考えられるからです。

同様に、インターネット上にアップされた通貨の写真を印刷する行為についても、通貨及証券模造取締法違反に当たる可能性があるので注意が必要です。

3. ブログなどに通貨の写真をアップロードする際の注意点

前述のとおり、雑誌などの印刷物とは異なり、ブログなどに通貨の写真をアップする行為は違法ではありません。「見本」などの文字を入れていなくても同様です。

アップされた通貨の写真を印刷する行為は犯罪になり得ますが、それは閲覧者側のリテラシーの問題というべきでしょう。

したがって、ブログ運営者側が特別な注意を払う義務はありませんが、「見本」などの文字を入れたり、印刷しないように注意喚起したりする方が親切かと思います。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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