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宇宙人工物の製造拠点を地球から宇宙へ移す時代がやってくる?

2022.08.21

宇宙空間には、多くの人工物が存在している。その大部分は人工衛星。他には宇宙ステーションもある。細かいことを言えば、スペースデブリも該当すると考える人もいるだろう。これらの人工物は、地球上で製造され、その後ロケットという輸送機で宇宙へと運ばれたものだ。しかし、未来における人工物は、地球上ではなく宇宙空間で人工物が製造される、そんな時代が到来するだろう。では、なぜそのような時代が到来するのだろうか。

未来では、なぜ製造拠点が宇宙になるのか?

読者の皆さんはロケットをなぜ打ち上げるのかご存じだろうか。

それは、宇宙へとモノを運ぶためだ。このモノとは、地球上で製造され完成された人工物、多くは人工衛星のことを指す。ロケットに搭載しなければならないため、重量やサイズに制限がある。制限があるといっても大型のロケットを活用すればダンプトラックほどのサイズ、重量の人工物であれば、我々人類は宇宙へと輸送が可能なテクノロジーは有している。ダンプトラックを宇宙へと運ぶことができると聞けば、テクノロジーの凄さを実感できるのだが、例えば、宇宙ステーションなどは、一度にロケットに搭載されるモジュール(宇宙ステーションのパーツ)を何度かの機会を分けて輸送し、宇宙空間で組み立てるという手法を採用している。

しかし、これ以上大型で重量のあるモノを運ぶことは、現段階でのテクノロジーやアイデアを駆使しても、良いものはない。モノに折りたたみ技術を採用してコンパクト化したり、超大型のロケットを開発したりするアイデアはあるが限度がある。

もし、現在に宇宙へと打ち上げられている人工構造物よりもより大きな構造物を宇宙に構築しようとすれば、宇宙へと製造拠点の舞台を変更する必要が出てくる。では、その超大型の構造物とは、どのようなものだろうか。

超大型の宇宙構造物とは?

現在、宇宙において超大型の構想物を製造しようとする動きは、例えば、未来において、宇宙に構築される大型の発電エネルギー施設、人類の多くが宇宙へと短期間にも長期間にも滞在することができる大型の居住空間、実験・研究施設などだろう。

最初に、大型の発電エネルギー施設について紹介したい。宇宙太陽光発電システムを聞いたことはあるだろうか。宇宙太陽光発電システムは、SSPS(Solar Space Power System)と略される。太陽光発電を宇宙で行い、発電電力をレーザーやマイクロ波で地球へと伝送し地球で使用するというものだ。宇宙太陽光発電システムSSPSには大小様々なものがあるだろうが、日本では、経済産業省が中心となっておおよそ100万kWという巨大な宇宙太陽光発電施設を高度36,000kmの静止軌道帯に構築しようとする取り組みを実施している。近年、中国や米国の動きも活発だ。

例えば、宇宙太陽光発電システムSSPSの大きさは、kmオーダーという巨大なサイズとなる。この構築のためには、コストを低減するために、また整備スケジュールを短縮するために、低軌道帯から静止軌道帯へと輸送するための輸送機OTV(Orbit Transfer Vehicle)を開発・活用したり、完全再利用型のロケット、輸送機を開発・活用したりする必要があるという構想がある。宇宙太陽光発電システムの総重量は30万トンほどにもなり、これでも、詳しい整備スケジュールは不明だが、30年で整備完了を想定すると、年間300回以上の輸送機会の必要性や宇宙太陽光発電システムSSPSの総コストが数兆円以上になるという試算が過去には出ている。途轍もない構想だ。

宇宙太陽光発電システムSSPSのイメージ

宇宙空間で活躍する製造するロボット

大型の居住空間、実験・研究施設においても大型化することは必須だ。例えば、米国のGateway Foundationは、Gateway Spaceportという宇宙ホテル、宇宙ステーション、いや宇宙都市とも言える構想を発表している。彼らの構想に驚く。

繰り返しになるが、これまで人類が構築してきた人が居住できる宇宙の施設には、国際宇宙ステーションISSなどが挙げられるだろう。国際宇宙ステーションISSは、個々のモジュールと言われる区画を、地球上で製造し完成させてロケットに搭載し宇宙へと輸送、そして宇宙空間でドッキングさせて組み立ててきた。しかし、Gateway FoundationのGateway Spaceportは異なる。

Gateway Spaceportは、大きさにして国際宇宙ステーションISSの4、5倍の幅を持ち、1250名ほどの人を収容できるという。Gateway Spaceportには、The Lunar Gravity Area(LGA) という月と同じ地球の1/6の重量環境下を実現でき、ホテルや体育館、公園(日本庭園なども)、レストラン、カジノ、コンサートができる施設やThe Mars Gravitational Area(MGA)という火星と同じ重力環境下で分譲、賃貸物件を提供する施設、そして宇宙船が到着・分離できるThe Gateway Bayというエリアなどがあるという。

では、これほどの大型の人工構造物をどのように構築するのだろうか。それは、宇宙空間で多くを製造できることが大きいようだ。The New Podというアーム付きのロボットが宇宙空間で材料を溶接し組み立てたり、Sargon Systemsという宇宙建機などでドーナツ型の居住空間などを宇宙で構築したりできる。また、VRゴーグルやVRグローブを取り付けながら遠隔で人間がこれらのNew PodやSargon Systemsなどを操縦しながら製造する計画もあるようだ。

宇宙に浮かぶ未来の超大型構造物のイメージ

ただ、宇宙において製造に適さないもの、まだ製造の実績がないものや大量生産が困難なものも存在するだろう。例えば、宇宙用電子部品が挙げられる。現時点においてまだ宇宙用電子部品を宇宙で製造したという事例は知らないが、これらは、地球上で製造、完成させ輸送し組み立てることにはなるのだろう。

しかし、上記のように人工構造物の構体などは、宇宙空間において上記で紹介したテクノロジーを活用して製造、組み立てることができる未来となるのだろう。その土台となるLunar ResourcesやMoon Fibreなどの企業は、月のレゴリスを原材料にして、強化繊維や希土類金属、レアメタルなどの材料を製造、調達したり、Fablabなどの3Dプリンターを活用するのだろう。

いずれにせよ、このように超大型の人工構造物の整備においては、間違いなく宇宙空間での製造をメインにした時代が未来には当たり前になることが予想されるのだ。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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