大きく稼ぐために信用取引を使って株式投資をするなら、『追証(追加保証金)』の対処は避けて通れません。信用取引でしっかり利益を出すためには、その仕組みや用語への理解も重要です。信用取引の基本知識から追証発生の仕組み・対策まで解説します。
追証とは?信用取引を始めるための基本解説
追証は信用取引において特に注意したい要素です。ただ信用取引の基本を知らないと、追証の意味も正しくつかめません。信用取引の仕組みを踏まえ、追証が発生するケースを解説します。
信用取引には「委託保証金」が必要
信用取引とは、投資家が一定金額以上の担保を証券会社に預け、証券会社から株式や現金を借りて売買する取引です。担保を差し入れて借りた現金や株式で売買することで、手持ち資金を上回る額の取引が可能になります。
この担保を『委託保証金』と呼び、法令上30万円以上必要と決まっています。委託保証金はさらに約定金額の30.0%以上でなければなりません。例えば、約定代金1,000万円で信用買い※するには、委託保証金は1,000万円の30.0%である300万円が担保として必要です。
約定金額に対する委託保証金の比率を『委託保証金率』と呼びます。委託保証金率は多くの証券会社で30%ですが、野村證券のように33%というケースもあります。
※信用買い:信用取引で現金を借りて株式を買うこと
参考:
金融商品取引法 第161条の2|e-Gov法令検索
金融商品取引法第百六十一条の二に規定する取引及びその保証金に関する内閣府令 第2条1項1号 | e-Gov法令検索 Q:保証金はいくら必要でしょうか? | オンラインサービス ヘルプ | 野村證券
委託保証金維持率は変動する
取引状況を確認した時点での建玉約定代金と委託保証金の比率を、『委託保証金維持率』と呼びます。株価の動きに応じて委託保証金維持率は随時変動します。
例えば、委託保証金100万円で約定代金300万円の買付をすると、約定した直後の委託保証金維持率は『100万円÷300万円×100』で33.3%です。この後に株価が下がり20万円の含み損が発生すると、評価損分の20万円は委託保証金から引かれます。
この場合の委託保証金維持率は、次のようになります。
- 建玉約定代金:300万円
- 委託保証金:80万円(100万円-20万円)
- 委託保証金維持率:80万円÷300万円=26.7%
このように株価の動きに連動して委託保証金維持率は常に変化するので、注視が必要です。
※建玉(たてぎょく):信用取引において取引約定後に残っている未決済分のこと。ポジションとも呼ばれる。
追証(追加保証金)が発生する仕組み
委託保証金が一定の比率を下回った場合、委託保証金を追加で入金して上回るようにする必要があります。この一定の比率を『最低委託保証金維持率(以下、最低維持率)』といい、追加で差し入れが必要になる担保を『追証(おいしょう・追加保証金)』と呼びます。
最低委託保証金維持率は『追証ライン』と呼ばれ、証券会社ごとに設定されます。例えば、SMBC日興証券は25.0%・松井証券は20.0%が追証ラインです。
追証が発生するケースを具体的に見てみましょう。以下の条件で買い付けたとします。
- 建玉約定代金:300万円
- 委託保証金:100万円
- 委託保証金維持率:33.3%(100万円÷300万円)
- 追証ライン:20.0%
株価が下がり45万円の含み損が発生した場合、それぞれの数値は以下の通りです。
- 建玉約定代金:300万円
- 委託保証金:55万円(100万円-45万円)
- 委託保証金維持率:55万円÷300万円=18.3%
- 追証ライン:20.0%
追証ライン(20.0%)よりも委託保証金維持率(18.3%)の方が小さくなっているので、追証が発生します。
その後に株価がまた変動して委託保証金維持率が追証ライン以上に戻っても、発生してしまった追証は解消されません。信用取引に慣れていないと勘違いしがちなので気を付けましょう。
参考:
「追証」とは? 仕組みや事例、対応方法を解説│信用取引 気になるポイント│SMBC日興証券
追証(おいしょう)とは何でしょうか? | はじめての信用取引Q&A | 松井証券
追証が発生したらどうする?
追証が一度発生すると自然には解消しないので、何らかの対応が必要です。どのように対処すればよいか・放置したらどうなるのか、信用取引するなら知っておきたいポイントを説明します。
追証分の入金か建玉での決済で解消
追証が発生したら、証券会社が決めた期日までに解消する必要があります。追証は委託保証金維持率を追証ライン以上にすれば解消されます※。
追証解消の方法は二つあります。
- 追証金額分の現金を入金する
- 追証金額に相当する建玉を決済する
1は追加で現金を入金して追証を解消する方法です。例えば、追証10万円が発生した場合は、信用口座に10万円を入金すれば追証が解消されます。
建玉を決済すると、一定の割合を追証解消に充当できる仕組みを利用するのが2です。例えば、楽天証券では決済建玉の20.0%を追証解消に充てられます。
同様に追証10万円が発生した場合には、50万円分の建玉を決済すれば50万円の20.0%に当たる10万円を委託保証金に充てられるので、追証を解消できます。
※追証が解消される基準:証券会社によっては解消される基準が追証ラインより高く設定されている場合もある。
参考:信用取引の基本ルール | 信用取引 | 国内株式 | 楽天証券
期限までに追証が解消されないと強制決済
追証には解消期限が設けられます。例えば楽天証券では、追証発生日の翌々営業日の正午までに、入金・振替または建玉の決済により清算する必要があります。期限までに追証が解消されないと、全建玉が強制的に決済されます。
強制決済に伴って売買手数料が請求される点にも注意しましょう。追証の解消期限は事前にしっかり確認しておくと安心です。もし払えなくなってしまった場合は、分割払いを相談する・専門家に頼るといった対処が必要になります。
追証を防ぐための基本対策
追証が発生すると解消できるまで新規の信用取引もできなくなり、思い通りに利益を出せません。信用取引で大きな利益を得たいなら、追証を発生させないための基本的な対策を知っておきましょう。
多めの保証金で余裕を持ったレバレッジ設定
信用取引で手元の資金以上の投資をすることを『レバレッジを効かせる』といいます。例えば、手元資金の2倍の取引ならレバレッジ2倍での取引です。
信用取引では、最高で委託保証金の約3倍の取引が可能です。ただし、レバレッジを効かせると、その分だけ株価変動に対する損益の幅も大きくなるので注意が必要です。例えばレバレッジ3倍の取引では、15.0%の評価損でも追証が発生します。
委託保証金の限度枠いっぱいで取引するのでなく、委託保証金を多めに差し入れるかレバレッジを抑えましょう。レバレッジを抑えれば委託保証金維持率も上がり、ある程度のゆとりを保って追証発生の可能性を低くできます。
こうした余裕を持つことは、冷静な投資判断にもつながるでしょう。
現金比率を高め保証金の変動を抑制
信用取引では、現金に加えて『代用有価証券※』も委託保証金として差し入れられます。
ただ代用有価証券の金額は株価の変動に応じて上下するので、急激な株式市場の動きにより、委託保証金の金額も変動する危険があります。
一方で現金には変動リスクがないので、委託保証金が目減りするリスクを軽減できます。追証が発生するのをできるだけ防ぐには、委託保証金内での現金比率を高めておくとよいでしょう。
ただし、現金比率が高くなると投資機会を失いやすく、利益を得にくくなるデメリットがある点については考慮する必要があります。
※代用有価証券について:信用取引では保有している現物株式を時価評価した金額を、代用有価証券として委託保証金に組み入れられる。楽天証券では前日終値の80.0%相当額を保証金と見なして、代用有価証券として利用できる。
構成/編集部