最近では、個人でwebサービスやアプリを運営する方がますます増えてきました。
収益目的の方から趣味の範囲の方までさまざまかと思いますが、不特定多数向けにサービスを展開する場合は利用規約を作成することをお勧めいたします。
今回は、個人運営のwebサービス・アプリについて、利用規約を作成するメリットや作成時の注意点などをまとめました。
1. webサービス・アプリの利用規約を作成するメリット
不特定多数の利用者を想定してwebサービス・アプリを運営する場合、利用規約を作成することが推奨されます。利用規約を作成する主なメリットは、以下のとおりです。
1-1. サービスの利用ルールを明確化できる
利用規約は、サービス利用に関するルールをまとめたものです。
サービスの内容・範囲や利用者が遵守すべき事項、トラブルが起こった場合の処理手順など、利用ルールを明確化しておくことは、トラブルへの備えの観点から重要といえます。
万が一運営者が利用者との間でトラブルに巻き込まれても、利用規約の内容に従って解決を図ることができるでしょう。
1-2. 画一的な利用ルールを定めることができる
利用規約の大きな特徴は、すべての利用者に対して同じルールを適用できる点にあります。
利用者ごとに個別に交渉して異なるルールを適用する場合、サービスの運営者としては管理が煩雑になり、ミスが発生し易くなります。
これに対して利用規約を作成すれば、すべての利用者を同じルールで管理できます。運営者にとっては、管理の手間やコストを削減できる点が大きなメリットです。
1-3. 運営者が一方的に利用ルールを変更できるようになる
後述するように、民法の「定型約款」のルールに従って利用規約を変更することで、運営者がサービスの利用ルールを一方的に変更できる場合があります。
webサービスやアプリでは、運営上の都合によって利用ルールの変更が必要となるのはよくあることです。利用規約を作成しておけば、すべての利用者との関係で簡易・迅速に利用ルールを変更できます。
2. 個人運営の場合でも、利用規約は作成した方がよい
個人で運営する小規模なwebサービスやアプリであっても、不特定多数の利用者を想定している限り、利用規約を作成しておいた方がよいでしょう。
画一的なルールを定めて利用者を管理できた方が便利なのは、個人運営であっても小規模なサービスであっても同じです。まだ利用規約を準備していないサービス運営者の方は、この機会に作成をご検討ください。
3. 利用規約は無料テンプレートでもOK?
いざ利用規約を作成しようと思っても、ゼロから自分で作成するのは非常に大変です。そんなときは、インターネット上でダウンロードできる利用規約の無料テンプレートが役立ちます。
ただし、無料テンプレートを用いて利用規約を作成する場合、以下の3点にご注意ください。
①無料テンプレートの質はさまざま
法的な観点から十分検討されたものから、見よう見まねで作られたに過ぎないものまで、無料テンプレートの質は玉石混交です。基本的には、一定の評判がある弁護士(法律事務所)が作成したものを使うのが望ましいでしょう。
②自社のサービスにそぐわない可能性がある
利用規約は本来、サービスの内容に沿って作りこむ必要があります。無料テンプレートはあくまでもベースとして活用し、ご自身の運営するサービスの内容に応じて、必要な加除修正を行ってください。
③民法の「定型約款」のルールに沿っていない可能性がある
2020年4月1日に改正民法が施行され、利用規約に適用される「定型約款」のルールが新設されました。
無料テンプレートの作成者が民法に習熟していない場合や、改正民法の施行より前に作成された場合には、民法の定型約款のルールに沿った内容ではない可能性があるのでご注意ください。
4. 「定型約款」のルールに要注意|主なチェックポイント
利用規約を作成する場合に注意すべき、民法の定型約款のルールに関するチェックポイントは、主に以下の3点です。
4-1. 利用規約を契約内容とする旨を表示する
webサービスやアプリの利用に関して、利用規約に定めたルールを適用するためには、以下のいずれかの対応が必要となります(民法548条の2第1項)。
①利用規約を契約内容とする旨を、運営者と利用者の間で合意する
②運営者が利用者に対して、利用規約を契約内容とする旨をあらかじめ表示する
基本的には上記の②に従い、登録画面などにおいて利用規約を示し、それを契約内容とすることを利用者へ表示するのがよいでしょう。その際、利用者にとってわかりやすい形で利用規約の表示を行うことが、利用者とのトラブルを避けるためのポイントです。
4-2. 利用規約に不当条項を含めない
利用者の権利を制限し、または義務を加重する内容であって、信義則に反して利用者の利益を一方的に害する利用規約の条項は、「不当条項」として無効となってしまいます(民法548条の2第2項)。
<不当条項の例>
・利用者に対して過度に高額の違約金を課す条項
・事業者である運営者の、故意または重大な過失による損害賠償責任を免責する条項
など
利用規約を作成する際には、不当条項を含めないようにすることが大切です。特に無料テンプレートを使う場合、不当条項と思われる条項が含まれているケースがあるのでご注意ください。
なお、どのような条項が不当条項に当たるかについては、サービスの内容や運営者と利用者の関係性などを総合的に考慮して決まります。判断が難しければ、弁護士のアドバイスを求めることも選択肢の一つです。
4-3. 利用規約の変更ルールを明記する
運営者がサービスの利用ルールを一方的に変更するためには、利用規約において変更ルールを定めておきましょう。その際、以下の事項を漏れなく盛り込んでください。
①民法第548条の4の規定により利用規約を変更することがある旨
②利用規約変更の手続き(変更の効力発生時期の定め方、利用者に対する周知の方法、周知期間など)
5. まとめ
利用規約を作成することで、webサービス・アプリの利用者を管理しやすくなり、運営者にとってコスト削減やトラブル防止に繋がるメリットがあります。
個人でwebサービス・アプリを運営している方は、この機会に利用規約の作成をご検討ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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