2016年に発売され、累計約38万台を販売したダイハツの人気車種、ムーヴキャンバスが2代目の新型となった。初代ムーヴキャンバスは往年のVWバス タイプ2 T1をイメージしたエクステリアデザインを持つ、タントとムーブの中間の全高のボディに両側スライドドアを備えた、あるようでなかったセミハイトユーティリティモデル。メインターゲットは20代後半から30代前半の女性で、実際、約89%のユーザーが女性だったという。その大きな理由が、デザイン+実用性で選べるキャラクター、特にストライプスと呼ばれる”上級グレード”のVWバスを連想させるクラシックかつキュートなデザイン、そしてダイハツ軽ならではの女性に寄り添った収納を含む使い勝手の良さだったと言っていい。
女性をターゲットとした実用車、街乗り専用車という設定だからなのか、先代モデルのエンジンはNAのみ。動力性能に優れたターボは用意されていなかった。とはいえ、全高、重心はタントよりずっと低く、足回りは軽自動車の中でもピカイチ(当時)の最新のムーブから移植したものだから、走行性能は必要十分。日常域の走りやすさ、柔軟性は、なるほど文句なしだった。ただし、高速道路を走る機会の多いユーザー、山間部に住む山道を含む登坂路を走る機会の多いユーザーにとっては、ターボの設定がないのが残念・・・という声もあったという。
そんなムーヴキャンバスの2代目は、そのあたりにもしっかりと応えた新型だ。エクステリアデザインのイメージは大人気の初代と変える必要はまったくなく、やや丸みを帯びさせた程度。ムーヴキャンバスを特徴づけるストライプスのボディカラー(全8色のバリエイション)も健在だ。
が、もっと幅広いユーザーに乗ってもらいたいというダイハツの期待から、新型はロッキーなどにも使われるDNGAと呼ばれるダイハツ最新のプラットフォームに刷新するとともに、ストライプスを標準グレードとして設定。先代では下位グレードだったモノトーンボディのモデルを新たにセオリー(theory)と呼ぶ上位グレードに据えている。ストライプスとセオリーは同グレードなら同価格。塗装コストはストライプスのほうが塗装コストは高いはずだが、そこはセオリーグレードにメッキ加飾を多用するなどしてバランスをとっているのだという。価格は先代に対して高くなっているように見えるが、先代でオプションだったアイテムが新型では標準化されているので、実質的には据え置き価格!?とも言えそうだ。
そして待望のターボモデルを追加!!同ジャンルのライバル、スズキ・ワゴンRスマイルがNAエンジンのみだから(現時点)、総合商品力では一気にリードしたということになる(そのほかの先進装備でも)。先代ムーヴキャンバスがNAエンジンのみだから・・・と諦めていたユーザーも、これで選びやすくなったというわけだ(祝)。
ダイハツの先進運転支援機能=スマアシは最大17項目を用意。しかも、タフト、タント(21年のMC以降)から採用されている電子パーキングブレーキはもちろん、一時停止時やスーパーマーケットの料金所などでブレーキを踏み続けなくてよい、右足の負担を軽減してくれるオートブレーキホールド機能まで完備(いずれもG、Gターボ。Xは足踏み式ブレーキでオートブレーキホールド機能なしのまま)。そのどちらも持たないワゴンRスマイル(というかスズキの軽自動車全車)を大きくリードしたことになる!! もっと言えば、国産上級車でも未採用のケースが多い、オートブレーキホールド機能のメモリー機能まで付いているのだから驚きしかない。メモリー機能があれば、エンジンを切ってもオートブレーキホールド機能が維持され、より便利に使えるのである(輸入車では一般的)。
ちなみに、Gターボに標準、Gにスマートクルーズパックのオプションとして用意されるACC(アダプティブクルーズコントロール)は全車速追従型(0~125km/hで設定可)。つまり渋滞追従機能を備え、約3秒(厳密には2秒台)までホールド(その後は電子パーキングブレーキに移行)。その時間内なら自動で再発進可能となる。さらにびっくりなのが、軽自動車としてはなかなか例のないBSM=ブラインドスポットモニターまで10月から導入予定というのだから、先進運転支援機能としては、いきなり軽自動車のトップランナーとして走ることになるのである。
装備はなるほど、女性を意識したものが盛りだくさんだ。両側パワースライドドアにはクルマに近づくと自動でオープンし、タッチ予約で自動ロックしてくれる機能を追加。女性にうれしい360度スーパーUV、IRカットガラス、先代からおなじみの後席左右下の引き出し式置きラクボックス、さらに飲み物を暖かいまま維持できるホッとカップホルダー、寒がりの女性にもうってつけの前席シートヒーター、テイクアウトしたものを車内でいただきやすいインパネがテーブルになる広々インパネ、そこのマスク置き場!?など、徹底した使い勝手の良さが一段と進化しているのである(一部オプション)。ホワイト基調のインパネの質感にしても、ここだけの話、上級グレードのはずのセオリーのブラウン×ブラックのインパネは樹脂感、プラスチッキーさが強く、ストライプスの明るい色合いのインパネのほうがより上質に見えたりもする(筆者の個人的印象)。
さて、新型ムーヴキャンバス ストライプスG、つまりNAエンジンモデルで走り出せば、すっきりとした前方、斜め前方視界が得られるとともに、52ps、6.1kg-mのNAエンジンとはいえ静かでスムーズに加速を開始する。平坦路であれば、加速性能に不満はなく、スイスイと走ることができる。速度を増せば、その印象はさらに強くなる。そもそもダイハツのNAエンジンは数値以上のトルクを感じさせてくれるのが通例だ。パワーステアリングは低速域では実に軽々したタッチ、操作性を示し、扱いやすさは細腕女性でも好感が持てるに違いない。
試乗会場内にある石畳のざらついた路面でも、DNGAがもたらすボディ剛性はしっかりと感じられ、音・振動は軽自動車らしからぬほど抑えられているのが好印象。
乗り心地は先代と比べ、プラットフォームの刷新もあって、やや硬め。クルマの見た目、キャラクターからはほんわりソフトな乗り心地を想像するはずだが、そうではない。しっかりとした快適感と言うべきか。そのぶん、交差点やカーブでも車体の姿勢変化、ロール(傾き)は体感的に最小限。DNGAの効果もあるはずだが、むしろ、前席シートバックの絶妙なフィット感、サポート性が功を奏していると思える。
低速域で軽々したパワーステアリングは、そのままでは中高速域で心もとなくなるものだが、実は30km/hを超えたあたりからパワーステアリングは適度な重さ、しっかりとした手ごたえを示すようになり、高速走行を含め、安心感が増してくるから、ステアリングの軽さによる不安はなくなるというわけだ。
もっとも、上り坂ともなれば、やはりNAエンジンだけに力不足を感じるシーンもある。ただし、エンジンを4000回転まで回しても耳障りなノイズが抑えられているのが幸いだ。車内の静粛性に関しては、全域で直接的ライバルのスズキ・ワゴンRスマイル(現時点でNAエンジンのみ)より静かと言っていい。これで、路面によって発生する車内のザワついたノイズ、こもり音が低減されれば、快適性はさらに増すと思えた。
なお、ストライプスGにオプション装着されていた9インチのディスプレーオーディオにはナビ機能はない。スマホのナビアプリと連携させてナビ機能を使うことになる。
ここで試乗した新型ムーヴキャンバスのストライプスG、NAエンジンモデルにもし注文を付けるとしたら、坂道、山間部での登坂性能ぐらいと言っていいのだが、新型はついにターボモデルを用意しているから、今回はそうした不満も一気に解消されるはずである。もちろん、ご近所専用車として使うなら、NAで十分ではある。なお、ターボモデルに関しては、セオリーのGターボグレードに試乗しているので、その試乗記、新型ムーヴキャンバスの自慢のひとつの広々とした室内空間に関して、改めてお伝えすることにしたい。
文・写真/青山尚暉