他人の作品に似ているものが「パクリ」と批判されるのか、それとも「オマージュ」などと称賛されるのか…どちらも「似ている」という点では共通しているのですが、どのあたりに違いがあるのでしょうか?
「パクリ」も「オマージュ」も法律上の用語ではありませんが、今回は両者の違いについて、あえて法律的な観点から考えてみたいと思います。
1. 辞書における「パクリ」「オマージュ」の意味
「パクリ」と「オマージュ」は、辞書では以下の意味を持つとされています。
ぱくり
①[副]
1 口を大きくあけるさま。大きな口をあけて物を食べるさま。「鯉がえさを—と飲み込む」
2 割れ目や傷口などが大きくあくさま。ぱっくり。「傷口が—とあく」
②[名]かすめとること。アイデアなどを盗用すること。「アメリカのテレビ番組の—」
オマージュ【(フランス)hommage】
読み方:おまーじゅ
敬意。尊敬。また、献辞。賛辞。
出典:デジタル大辞泉 オマージュ(小学館)|weblio辞書
「パクリ」が「掠め取る」「盗む」というネガティブな意味を持つのに対して、「オマージュ」には「敬意」「尊敬」「賛辞」といったポジティブな意味があるとされています。
これだけ見ると、「パクリ」と「オマージュ」は対極に位置する言葉に思えます。
しかし、両者は「既存の作品を土台とし、主要要素を維持して新たに作成された作品※」という意味をもつ類語でもあります。
※出典:
オマージュの類語・言い換え・同義語|weblio類語辞典
パクリの類語・言い換え・同義語|weblio類語辞典
上記を総合すると、単に他人の作品を盗んだに過ぎないものが「パクリ」であるのに対して、敬意をもって他人の作品の要素を再現したものが「オマージュ」である…
ということのようです。
2. 「パクリ」と「オマージュ」の違いを法律的な観点から考える
法律用語ではない「パクリ」と「オマージュ」ですが、あえて法律的な観点から、両者がどのような意味を持つのかを考えてみます。
2-1. 「パクリ」の法律的な意味
「パクリ」が「掠め取る」「盗む」という意味であるとすれば、法律的には違法行為を指す言葉と考えるべきでしょう。
文章・絵画・音楽などの作品を「パクった」場合、主に問題となるのは、著作権の一種である「複製権」または「翻案権」の侵害です。
①複製権の侵害(著作権法21条)
オリジナルの著作物と本質的な特徴が同一であるコピーを、著作権者に無断で作成した場合は、原則として「複製権」の侵害に該当します。
②翻案権の侵害(著作権法27条)
オリジナルの著作物の本質的な特徴を直接感得できる別の作品を、著作権者に無断で作成した場合は、原則として「翻案権」の侵害に該当します。
上記の内容を総合すると、法律的に「パクリ」であると評価すべきなのは、以下の要件をすべて満たす場合であると考えられます。
<「パクリ」の要件>
(a)オリジナルが著作権によって保護されていること
(b)「パクリ」とされる作品に、オリジナルの本質的な特徴が表れていること
(c)「パクリ」とされる作品が、著作権者に無断で作成されたこと
2-2. 「オマージュ」の法律的な意味
他人の作品をベースとした作品を「オマージュ」と評価するためには、少なくとも「パクリに該当しない」ことが必要と考えるべきでしょう。
(「パクリだが、オマージュでもある」という主張は、辞書的な意味に鑑みれば成り立たないものと思われます)
さらに辞書的な意味に鑑みると、オリジナルの作品に対して敬意をもって作成されたことも「オマージュ」の要件と言えそうです。
「敬意」については法律的な観点から測ることができないので、「パクリに該当しない」場合とはどういったケースであるかに絞って検討します。
前述の「パクリ」の要件に鑑みると、以下の①~③いずれかに該当する場合には「パクリ」に該当せず、「オマージュ」と評価する余地があると考えられます。
<パクリに該当しない場合>
①オリジナルが著作権によって保護されていないこと
(例)
・表現の幅が狭く著作権が認められない場合(短文など)
・著作権の保護期間が過ぎている場合(著作者の死後70年)
②作品を見ても、オリジナルの本質的な特徴が表れていないこと
(例)
・小説の中に、オリジナルの小説に登場したごく短いセリフを盛り込んだ場合
・音楽を制作する際に、オリジナルの音楽に登場したごく短いフレーズをサンプリングした音源を使用した場合
③著作権者の許諾を得て作成されたこと
3. まとめ
法律的な観点に基づいて検討した、「パクリ」と「オマージュ」の要件をまとめます。
<「パクリ」の要件>
(a)オリジナルが著作権によって保護されていること
(b)「パクリ」とされる作品に、オリジナルの本質的な特徴が表れていること
(c)「パクリ」とされる作品が、著作権者に無断で作成されたこと
<「オマージュ」の要件>
(a)以下のいずれかに該当すること
・オリジナルが著作権によって保護されていないこと
・作品を見ても、オリジナルの本質的な特徴が表れていないこと
・著作権者の許諾を得て作成されたこと
(b)オリジナルの作品に対して敬意をもって作成されたこと
※法律的には評価不可
結局のところ、他の人の作品をベースに自分の作品を作ろうとする場合、法律的な観点からは著作権侵害を犯さないことが重要です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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