あるテレビ番組のコーナーにおいて、(主に女性の)露出度の高い服装に関する「見るハラ」「見せハラ」が取り上げられていました。
「見るハラ」は露出度の高い服装をした方をじろじろ見ること、
「見せハラ」は露出度の高い服装をして、見たくない人に肌を見せることを意味するようです。
肌の露出に関して、不快な思いを抱く気持ちは理解できるところです。しかし、何でもかんでもハラスメントにしてしまう最近の風潮には、息苦しさを感じている方もいらっしゃるでしょう。
今回は、「見るハラ」「見せハラ」とされる行為が、法律上どのように取り扱われるのかについてまとめました。
1. 「見るハラ」|取り締まる法律はあるのか?
露出度の高い服装をした方をじろじろ見る「見るハラ」を、ピンポイントで取り締まる法律は存在しません。
状況によっては、「見るハラ」とされる行為が違法となる可能性もありますが、そのハードルは高いというべきでしょう。
1-1. 職場での「見るハラ」はセクハラに当たり得る|事業主に防止措置等の義務あり
職場では、性的な言動によって労働者の就業環境が害されることのないように、雇用管理上必要な措置を講ずることが事業主に義務付けられています(男女雇用機会均等法11条1項)。
これは、職場におけるセクハラを防止するために設けられたルールです。
職場において、性的な興味関心から同僚などをじろじろ見る行為は、対象者の就業環境を害するセクハラに該当する可能性があります。
会社としては、セクハラを受けた労働者からの相談に応じ、行為者の処分や再発防止策などを含めた適切な対応を取らなければなりません。
もし会社がセクハラ被害を放置した場合、被害者は会社に対して、安全配慮義務違反(労働契約法5条)や使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償を請求できることがあります。
ただし、程度問題ではあるものの、職場において露出度の高い服装をすること自体が、就業規則などの服務規程違反に該当し得る点に注意が必要です。
もし露出度の高い服装が服務規程に違反する場合、戒告などの懲戒処分の対象になり得るほか、セクハラを否定する方向の事実として働く可能性があります。
1-2. あまりにもしつこい場合は「不法行為」が成立する可能性あり
職場以外の場所、たとえば街中や飲食店における「見るハラ」を、セクハラとして特別に規制する法律はありません。
しかし、あまりにもしつこい「見るハラ」は「不法行為」に該当し、損害賠償請求の対象となる可能性があります(民法709条)。
ただし、身体に触ったり声をかけたりするのではなく、あくまでも「見ているだけ」であれば、不法行為が成立するハードルはかなり高いものと思われます。
たとえば、特定の人をターゲットとして長時間かつ頻繁に凝視するなど、あまりにも非常識な行動が見られる場合に限られるでしょう。
2. 「見せハラ」|やり過ぎると犯罪?
「見るハラ」の主張に対して、反対に露出度の高い服装をして、見たくない人にも強制的に肌を見せる行為は「見せハラ」だという主張があるようです。
この点、「見たくない他人の肌を見ない自由(権利)」を直接保障する法律はありません。
多くの場合、見たくないならば立ち去ればよいので、このような自由・権利を保障する必要性は低いと考えられます。
その一方で、肌の露出については、社会における健全な性的風俗を保護する観点から、以下の犯罪により処罰されることがあります。
ただし、服装の多様性が広く認められている昨今では、よほど酷いケースを除けば、肌の露出が犯罪として処罰される可能性は低いでしょう。
2-1. 軽犯罪法違反
軽犯罪法1条20号では、以下の行為が犯罪として禁止されています。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十 公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者
露出度の高すぎる、裸に近いような服装で街中を出歩いた場合、軽犯罪法違反によって処罰される余地があります。
しかし、へそ出し・ミニスカート・ショートパンツ・ダメージジーンズなど、社会的に承認されていると思われる服装については、軽犯罪法違反によって処罰されることはまずありません。
2-2. 公然わいせつ罪
いたずらに性欲を掻き立てるような服装で街中を出歩いた場合、公然わいせつ罪として処罰される可能性があります(刑法174条)。
(公然わいせつ)
第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
公然わいせつ罪が成立するのは、軽犯罪法よりもさらに酷いケースです。
具体的には、上半身または下半身のほぼすべてが露出している場合や、局部が露出している場合などに限られるでしょう。
3. 「見るハラ」「見せハラ」は、基本的にはモラルの問題
「見るハラ」や「見せハラ」とされる行為は、違法となる場合があったとしても、かなり酷いケースに限定されます。
結局のところ、「見るハラ」や「見せハラ」の問題の大半は、法律ではなくモラル意識の持ち方によって解決するほかないでしょう。
乱立する「ハラスメント」に対してどのように向き合うかは、法的な観点からも悩ましい問題です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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