近頃、“韓流”がますます元気だ。それは、エンターテインメント業界のみならず、新大久保での驚くほどの人出の多さや、ネットショッピングでの韓国コスメの広告の多さなどにも表れている。その波は着実に飲食業界においても兆しがある。大手飲食チェーンが、新業態として「韓国居酒屋」を次々と展開しているのだ。その理由を紐解くため、現地へ取材に向かった。
“韓流ブーム”は飲食業界にも!? ヘルシーな特徴が受けている
今回、話を聞いたのは、「養老乃瀧」「一軒め酒場」など多岐に渡るチェーンを持つ養老乃瀧・広報の長島一誉氏と、名古屋名物の赤から鍋を主軸とした「赤から」を展開する甲羅が展開する「赤からソウル」広報の鈴木智之氏。
養老乃瀧の新業態である「韓激(かんげき)」、そして赤からの新業態である「赤からソウル」。実は、一店舗目は共に2021年のオープンで、まさにコロナ禍真っただ中の時期でもあるが、話を聞くと特に関連性はないという。
「新業態の開発に着手したタイミングで出てきたのが、『健康』というキーワードでした。弊社では、それまでそのような切り口がなかったのですが、『食べておいしく、食べて健康になる』ことを考えたとき、野菜を多用した料理が多い『韓国料理』というジャンルが候補に挙がったんです」と養老乃瀧・広報の長島氏。
「赤からソウル」広報の鈴木氏も「新店舗出店にあたり、既存店とのカニバリゼーションを起こすようになってきたという理由がひとつです。既存店との差別化を図るために、トレンドである韓流テイストを組み合わせることで、新しい可能性を探ったトライアル店舗を出してみようというのが、大きなきっかけです」と語る。
近年の世界的なムーブメントである韓流。エンターテインメントのみならず、食の世界でも注目を浴びていることが読み取れる。
店舗の立地により、大きく異なる客層が特徴的
現在、「韓激」は11店舗、「赤からソウル」は3店舗を展開している。出店の地域や場所における狙い、そして実際の客層の違いなどを聞いてみた。
「出店は、既存店からの切り替えと新店、両方あります。まだ、マーケットは手さぐりで確認している理状態ではありますが、例えば江東区の南砂町店は住宅地、池袋店はターミナル駅、千葉の旭店は郊外など、さまざまなロケーションで適正立地や需要を確認しているところです」と長島氏。一方鈴木氏は、「郊外型の浜松店、札幌のすすきのにある繁華街型、都心駅前型の恵比寿店と、それぞれ異なる立地でお客様の動向を探っている状況です。客層にも違いは出ていて、郊外店ではファミリー層が多かったり、駅前ではアルコールの比率が高くてサイドメニューが多く出るなどの傾向があります」と話す。同様に、「韓激」でも、新潟駅前店では、学校帰りの高校生がファミレス感覚で利用しているというケースもあるそうだ。
老若男女、さまざまな嗜好を持つ人に支持されているといえるだろう。
本場とは一線を画す、日本人好みの味とポーション
両社共に、客単価が200~300円ほど下がっている傾向にあるというが、それはメニュー構成が影響している可能性が大いにありそうだ。
「本場の韓国料理は、シェアして食べることが多く、量がとにかく多いという印象がありますよね。『韓激』では、店名の説明にも『ヤンさんのスンドゥブと韓国の小皿おかず』と記しているように、一皿のポーションと価格を抑えることにしています。人気のあさりスンドゥブ、韓国風茶わん蒸しのケランチム、ニラチヂミなどは500円前後です」(長島氏)。
同じく鈴木氏も「従来の業態では、鍋は2人前からのオーダーですが、『赤からソウル』では1人前から可能です。その理由は、他にもいろいろと食べてほしいから。実際、人気の韓国クリスピーチキンは3ピース390円、チヂミ各種は390~490円と価格を抑えています」と話す。
韓国クリスピーチキン(右・ヤンニョム、ハニーマスタード)3ピース各429円、海鮮チヂミ539円
共通していたのは、コストパフォーマンスの良さ、そして味の傾向だ。「弊社のメニュー開発担当の料理を、韓国料理専門家が監修し、本場の味をリスペクトしながらも、日本人が好む“旨味”を感じられる味を目指した“和コリアン”としてメニュー開発しています」(長島氏)、「従来の業態の『赤から』では11段階から選べるほど辛みというものを押し出していましたが、『赤からソウル』の鍋では、コムタンスープをベースにすることで、“旨味”を楽しむようにしています」(鈴木氏)。
韓国料理が好きで、渡韓15回弱、一週間には1回は新大久保や赤坂、上野で韓国料理を食べ歩く筆者であるが、実は激辛は苦手…。現地で、辛すぎて震えた経験が何度もある。なので、最初の頃に覚えた韓国語が「あまり辛くしないでください」でもあった。(もちろん店の人に怪訝な顔をされるおまけつき。)
今回、実際いただいてみると、「えっ、この値段で、本当にいいんですか?」と驚くほどの、旨味を感じる美味しさ。取材時、「うわ、美味しい!…もう一口いいですか?」と手が止まらない品もあるほど。両店とも、アルコールも一般的な韓国料理店よりもずっと安価で、その部分でも「良いお店を知ってしまった…」と嬉しい驚きだった。
目指すコンセプトが表現された、それぞれ特徴的なインテリア
共通項が多い2店ではあるが、まったく異なったのがインテリアだ。
赤からソウルでは、「韓国を連想させるようなネオンサインやディスプレイであったりBGMもK-POPを流したりしています。ご来店いただいたお客様に料理はもちろん、店内も含めた写真などもSNSにアップしていただけるような、いわゆる【映えスポット】を意識した店舗づくりを心掛けています」と語るのは、鈴木氏。
確かに、あらゆるところにポップなハングルが彩られ、K-POP好きな若い女性たちが笑顔でインスタ用の写真を撮っている様子が想像できるインテリアだ。
一方、韓激の場合は「料理を落ち着いて楽しんでいただく空間をつくりたかった」という
印象は、「韓屋」とよばれる韓国の古民家をイメージしたような内装。事実、本場でも、韓屋をリノベしたスタイリッシュなカフェなども増えていることもあり、ほっとできる空間ながら、一周回って新しいような印象も受けた。カウンターもあり、一人飲みもできるのも魅力的だ。
実をいうと、学生時代以来、チェーン店からは足が遠のきがちだった筆者。今回2店を訪問し、その味のクオリティの高さと、なんといっても大好きな韓国料理(とお酒)が、こんなリーズナブルに楽しめるという新発見に心がときめいた。新たな韓国居酒屋は今後も出店を予定しているというから、ぜひ一度、足を運んでみてはいかがだろうか。
取材・文/増本紀子