骨盤矯正などの骨格矯正により、痛みや疲労が解消されたという話は良く聞く。最近は頭蓋骨矯正が若い女性に注目されており、小顔効果があるとSNSでもさかんに紹介されている。さらに美容的効果以外にも、不眠や頭痛や鬱などのメンタル面での効果が期待されているらしい。
今回は頭蓋骨矯正の第一人者である、骨格矯正士の清水ろっかん先生に正しいやり方やコツについて教えてもらおう。
頭蓋骨の歪みが体の不調につながる
――頭蓋骨と体の不調は関係しているのですか?
清水先生 私は骨格矯正を専門とする治療家で、全身の骨格矯正も行いますが、特に頭蓋骨矯正術を数多く施術してきました。その結果、頭蓋骨の矯正で、単に小顔矯正が実現するだけでなく、ほかのさまざまな効果が得られるようになったのです。そうした体験から、現代人の不調の原因のひとつに、頭蓋骨の歪みが関係していると考えるようになりました。
脳を取り巻く頭蓋骨がゆがむと、特に脳に酸素と栄養を運ぶ血液の流れが悪くなります。脳を保護し、老廃物を輩出する脳脊髄(せきずい)液(脳や脊髄とそれらを包む髄膜との間に存在する液体)の流れも悪くなります。こうした血液や脳脊髄液が自然に循環できず、流れが阻害されると、脳の本来の自然な働きができなくなってしまうのです。
また、目や耳の健康も、脳が正しく働くためには欠かせません、視力や聴力が衰えれば、脳に入ってくる情報が減るため、認知機能が低下して認知症のリスクも高まります。
頭蓋骨矯正はこうした問題を解決できる手段のひとつです。頭蓋骨の歪みを正して、脳にとって快適な環境を整えることで、脳が元気に働けるようになり、不眠、頭痛、肩や首のこり、鬱状態や目の疲れ、かすみ目、物忘れ、シワやたるみ、突発性難聴、イライラが解消されるのです。
意外とズレやすい頭蓋骨
――頭蓋骨はなぜ歪んでしまうのでしょうか?
清水先生 頭蓋骨はヘルメットの様な一枚岩の骨ではなく、15種類、23個もの骨がパズルのように組み合わさっています。骨どうしは「縫合」(ほうごう)という隙間があり、ごくわずかな「じん帯」によって連結しています。
こうした隙間があいているのは、外からの衝撃に対してクッションのような役割を果たして、脳を保護するためです。逆に言えば、多くの骨が連結してできているために、頭蓋骨はズレやすいのです。
頭蓋骨がズレるきっかけは日常のささいな場面でも起こります。長い時間、下を向いているだけでも、額にある前頭骨に上から大きな圧がかかってしまいます。前頭骨がずり下がると、目の周りの骨がずり落ちてきた前頭骨の下に潜り込んで、目がくぼんだり、視力低下などの不調の原因となってしまうのです。
人間の頭の重さは成人で体重の10%と言われています。体重50キロの人で、頭の重さは5キロぐらい。それだけの重さを絶えず支えていなければなりません。まっすぐ前を向いた姿勢では5キロの頭から頸椎にかかる負担は4-6キロぐらい。首が前方に30度傾くと、頸椎にかかる負担は18キロに増えてしまうのです。
単にうつむくだけで、まっすぐ前を向いているより約3倍もの重さが頸椎にかかってしまいます。角度が30度から60度になると、27キロもの重さが頸椎にかかってしまうのです。
こうした傾いた状態でいれば、当然、首や肩、背中の筋肉が緊張して固まってしまいます。さらに、頭蓋骨と首の後ろをつなぐ後頭下筋群とよばれる筋肉が緊張して頭蓋骨を下方向へ引っ張ってしまい、後頭部の後頭骨や頭蓋骨の中心にある蝶形骨の歪みへとつながるのです。
頭を傾ける悪い姿勢が原因の歪みだけではなく、骨盤をはじめとする全身の骨格の歪みも頭蓋骨に影響を及ぼします。
セルフケアできる頭蓋骨の歪み解消術
――清水先生は歪みを正すための「頭蓋骨リフト」を提唱されていますが、簡単にやり方を教えてください。
清水先生 基本のリフトは「首の押しもみ」です。特にPCやスマホを利用する時間が長い人におすすめです。
首から頭蓋骨に向かって指を下から上に滑らせた時、指が治まる少しくぼんだ部分があります。「ぼんのくぼ」と呼ばれる部分ですが、このつなぎ目を親指を使って押しもみます。両手を組んで親指をぼんのくぼの外側辺りにあてて、頭蓋骨と首のつなぎ目をおやゆびで、もみます。
この時、上記の写真の様に少し顔を下に向けると親指の腹があてやすくなります。
親指をあてて、心地よい強さで両手を上下に10-15回ほど揺らします。コツは親指の位置をずらさないこと。手だけを上下に動かして、30秒ほど動かします。
このほかに「後頭骨ほぐし」「側頭骨押し上げ」の3つを組み合わせるとより効果的です。詳しい方法は新刊書「頭蓋骨リフト 疲れた脳、老いた脳が30秒でほぐれる!」(KADOKAWA発刊、清水ろっかん著、整形外科専門医 長田夏哉監修、定価1300円+税)を参考にしてください。
この頭蓋骨リフトはいつやっても効果があります。
PC疲れ目に聞く頭蓋骨リフト
――特にデスクワークの多いビジネスパーソンに効果的な頭蓋骨リフトを教えてください。
清水先生 「こめかみの押し上げ」が効果的です。手のひらから手首よりの部分を使って、こめかみから前頭骨を押し上げます。頭頂部に向かってグーっと押し上げ、10秒キープしてから力を緩めます。これを3回繰り返します。(こめかみからの押し上げは本の表紙の写真を参考にしてください)
目の周囲の血流が良くなり、疲れ目に効果があります。また、くぼんでいた目がぱっちり大きくなったという方もいらっしゃいます。
頭蓋骨リフトは誰でも簡単にできるセルフケアの一つです。新刊書「頭蓋骨リフト」には、ほかにも耳に効くリフトや、ノドに効くリフトなどが紹介されているので、ぜひやってみてください。
――ありがとうございました。
施術した女性からは、目の位置が上がっておでこの皺が薄くなった上に、毎晩熟睡できるようになり、疲労がたまりにくくなったという声が寄せられている。いつでも簡単にできるセルフケアのひとつとして憶えておきたい。
著者紹介
清水 ろっかん
骨格矯正士。柔道整復師。整体サロン「ろっかん塾」主宰。現代人の不調の原因として骨格のゆがみに着目し、さまざまな整体術を学び、独自の矯正理論を確立。即効性のあるテクニックが評判を呼び、不調改善や若返りのゴッドハンドとしてテレビや雑誌などメディアで活躍中。多くの有名芸能人からの信頼も厚い。『眼圧リセット』(飛鳥新社)など著書多数。
監修
長田 夏哉
田園調布長田整形外科院長。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定スポーツ医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1969年山梨県生まれ。日本医科大学卒業後、慶應義塾大学医学部整形外科学教室入局。「ボディ・マインド・スピリット」の全体を診る診療方針を確立したのち、2005年に田園調布長田整形外科を開院。全国から多くの患者が来院し、保険診療ながらも、ときに「生き方」さえも変えてしまう診療スタイルが「生き方クリニック」と評判。テレビ・雑誌などメディア出演多数。講演活動も精力的に行っている。
文/柿川鮎子