「マジ中華」ブームで脚光を浴びる「米線(ミーシェン)」とは?
「マツコの知らない世界」(TBS)でも取り上げられ、今、ブームになっている「マジ中華」。「マジ中華」という言葉は、ホフディランの小宮山雄飛氏の造語で、「日本人には一切こびない、中国人向けの本格中華料理」とのこと。
そんなディープな中国料理の中でも、ひときわ熱い視線を集めているのが「米線(ミーシェン)」だ。最近池袋、高田馬場といったマジ中華の聖地で頻繁に目にする料理名で、行列ができている店も多く、SNSでは熱烈な愛好者による感激の投稿をよく見かける。
米の麺といえばベトナム料理のフォーがおなじみだが、どうもそれとは違うらしい。SNSで見る限り、食べ方も独特のルールがあるようだ。いったいどんなものなのか気になっていたが、どの店もマジ中華度が高く、入りにくい…。ぐずぐずしているうちに2022年3月31日、香港で大人気の米線専門店でミシュラン「ビブグルマン」にも3年連続で掲載されている「譚仔三哥(以下「タムジャイサムゴー」)」が日本初上陸。新宿にオープンした一号店は、オープン初日開店前から昼過ぎまで、常時100人以上の行列ができるほどの大盛況だったとか。
「譚仔三哥(タムジャイサムゴー) 新宿中央通り店」オープン日にできた長い行列
4月14日には2店舗目となる「吉祥寺店」が、5月19日に3店舗目「恵比寿店」がオープン。いずれの店も大盛況だという。とにかく一度食べてみようと決心し、恵比寿店を訪れてみた。
2022年5月19日にオープンした「譚仔三哥(タムジャイサムゴー)」恵比寿店(東京都渋谷区恵比寿1-10-7 1F)営業時間:11:00-22:00 ラストオーダー:21:30 席数:50席(カウンター席 20席、テーブル席 30席)
100万通り以上の組み合わせから、オリジナル米線が作れる⁉
入口には、私のような初心者用に、食べ方のルールを開設するパネルが置いてあるのがありがたい。リリースによると、「6種類のスープ、10段階の辛さ、20種類以上の具材を自由に選択し、100万通り以上の組み合わせから自分だけのオリジナル米線ヌードルをつくることができます」とのこと。
このメニューを見るとそのやり方は
1)最初に6種類からスープを選ぶ
2)次に、スープの辛さを選ぶ
3)最後に具材を選ぶ
というシステムらしい。
開店時間直後に入ったので無人の店内を撮影できたが、この直後からどんどんお客さんが入って、ほぼ満席に。
いよいよ注文。最初のハードルは(1)のスープの味だ。
文字でイメージがつかめるのは「トマト」くらいだが、テレビで紹介されていた時は、一番人気は「マーラー」だと言っていた記憶が。
続いて、辛さのセレクト。どうやら全く辛くない「Non Spaicy」の次が「10小辣」で、数字が小さくなるほど、辛くなるらしい。「2」の上には「小・中・大」があり、「2小辣を召しあがった事がある方のみご注文ください」という注意書きも…。
「初めての方は10小辣からお試しください」と書いてあるので10を選んだら「5のほうがいいですよ」とアドバイスされたので、素直に従う。
最後は具材だ。デフォルトでニラ、もやし、高野豆腐は入っているが、そのほかに1種類を選ばなければならない。
「野菜」「肉」「海鮮」「その他(油揚げ、うずらの卵など)」とかなり多い。「何をポイントに選べばいいですかね?」と聞いたところ、「だしが出る食材がおすすめです。野菜なら白菜がいいだしが出ますし、お肉や魚介類を入れてもスープが美味しくなりますよ」とのこと。
つまりは鍋物感覚で、選べばいいのだろう、とつかめてきた。とはいえなかなか決められず、人気の具材をさらに聞いたところ「豚バラチャーシューは、脂身からいいだしが出るし、お肉もやわらかくて美味しいです」とのことなので、それをチョイス。もう一つは歯ごたえに変化が欲しいのでキクラゲを頼んだ。
いよいよ実食!スープにも具にも麺にもパンチあり!
「麻辣」(610円、チャーシュー190円、キクラゲ90円、計890円)。見た目は豚骨ラーメンのようだが…。
スープは非常にコクがあって、辛さもそれほど強烈ではない。辛さに弱い人も余裕をもって味わえる・・・、と思ったのもつかの間、「辛い」とは別のピリピリする感じがどんどん強くなる。半分くらい食べ進むと、下唇がしびれてじんじんするほど。これが「麻辣」の味なのか。
しかし、唇がどんなにデンジャラスな状態になっても、食べるのをやめられないほどの、スープの美味しさ。このしびれ感があるから、よけい美味しいような気もしてくる。やみつきになる人の気持ちがわかるような気がした。
後で知ったが、このスープはそれぞれの具材とともに、丼ごとに煮込んで味を完成させているとのこと。だから、具材からのうまみとスープの味が一体となって、鍋料理にも共通する味わいになっているのだろう。「丼の中で自分だけのスープを完成させる」のが、米線の醍醐味なのかもしれない。
肝心の「米線」だが、同じ米由来でも、フォーのやわらかい食感とは全く違う。うどんよりもコシが強く、中華麺よりもつるりとなめらか。モチモチ感もあり、このスープと絶妙によく合う。すすった時の感触に、これまで他の麺料理で味わったことのない快感があり、これもハマる気持ちがわかった。
「タムジャイサムゴー」に体当たり質問。米線って、どんな料理?
この抗いがたい不思議な魅力を持つ米線とは、いったいどんな歴史を持つどんな料理なのだろうか。「タムジャイサムゴー」にお聞きしたところ、こちらが恐縮するほど丁寧に教えてくださった。
――そもそも「米線」とは、どういうものなのでしょうか?
お米と水のみから作られた、グルテンフリーの麺です。調理工程の詳細は非公開ですが、タムジャイサムゴーでは調理工程の中で蒸したお米をそのまま発酵させることで、パスタで言うアルデンテのような食感を出すことにこだわっております。小麦粉では出せない、モチモチでプリプリの新感覚の食感が特徴です。
――中国や台湾、香港などで古くから食べられていると聞きましたが、ルーツはどこなのでしょう?
米線は中国発祥です。中華の民族の一つである客家族(はっかぞく)によって作られたものと言われております。1,000年前に客家族が中国の南北に移住したことで、雲南省に広まっていきました。今日の香港では、米線の専門店が多くオープンしたり、気軽に購入できるようになったりするほど、人気のある食べ物になりました。(日本でいううどんやそばに近いです)
――なぜそんなに人気が広がったのでしょう?
人気の理由は、米線特有のモチモチとした食感と、ツルツルとしたのど越しにあると考えております。タムジャイサムゴーではさらに、その伝統の麺をオリジナルにアレンジし、独自のレシピでコクを深く、うま味を凝縮させ、現代の香港らしい味わいに仕上げています。
――日本でもすごい人気ですが、その理由は?
米線自体、日本での認知はまだまだこれからだと思っています。タムジャイサムゴーの米線は独自配合のスパイスが効いたスープとよく絡みます。日本で味わうことのできなかった新感覚の味わいをお届けしたく、多くの方に楽しんで頂きたいです。このお米と水だけで作った米線が、ラーメン・うどん・そばに次ぐ、第4の麺という新しいジャンルになることを目指しています。
世界に175店舗ある!タムジャイサムゴーの魅力大解剖
――タムジャイサムゴーは、どんな歴史を持つお店なんですか?
「タムジャイサムゴー」とは、「タム家の3男」を意味する広東語です。元々、1996年にタム家の兄弟たちによって、深水埗(シンスイホ)の永隆街(ウィンロンガイ)1号にスパイスヌードル店「タムジャイ ウンナン ミーシェン(譚仔雲南米線)」がオープンいたしました。オリジナルのスパイシースープベースとクミンの鶏手羽で香港の麺ブームを起こし、人気を博しました。
そして、2008年に創業メンバーの一員であるタム兄弟の三男と六男が独立し香港に1号店を開店したのが、タムジャイサムゴーです。本場の香港では毎年3000万人以上が来店するほど、多くのお客様に支持いただいております。さらに、そのやみつきになる味わいとお手ごろな価格から、3年連続でミシュランガイドの「ビブグルマン」にも掲載されました。そして急成長を遂げるなかで香港・シンガポールへ多くの店舗を展開し、特に都心部の若い世代を中心に人気を集めるタムジャイサムゴーは、香港で最も象徴的なブランドの一つとしてその地位を確立するまでになりました。
入口では、満面の笑みを浮かべてお出迎えしてくれるのが、「タムおじさん」と呼ばれている「タムジャイサムゴー」ブランドの創始者。「譚(タム)仔(ジャイ)」で“タム家”を意味し、“三哥”は「三番目のお兄ちゃん」の意味だそう
――すごいお店なんですね。今、何カ国に何店舗あるんでしょう?
譚仔三哥(タムジャイサムゴー)と譚仔雲南(タムジャイウンナン)を合わせたタムジャイグループでは、香港に中国本土、シンガポール、そして日本を含めて175店舗を展開しております。タムジャイサムゴーに限ると88店舗ございます。(81店舗が香港、4店舗がシンガポール、3店舗が日本) ※2022年6月30日時点
――ほかにも米線チェーン店がいくつかあるようですが、一番違う特色は?
一番の特徴は、一度食べたら忘れられない、複雑なスパイスが織りなす味覚体験です。タムジャイサムゴーだけのやみつきな美味しさです。私たちはそれを香麻辛辣(ヒョンマーサンラー)と表現しています。(「香」香りたつ複雑なスパイス。「麻」鮮やかに痺れる感覚。「辛」舌も心も熱くなる刺激。「辣」ピリッと魅惑の辛さ。)香ばしく、痺れるような辛さで、エキサイティングな五感体験を提供します。
――スープと具が影響し合って味わいが変化するのって、日本人が大好きな鍋物感覚ですよね。一番人気のあるスープはどれでしょう?
日本・香港共に一番人気のスープは、香港人も魅了したしびれ感が魅力の「マーラー」です。日本では2番目に、軽く焦がしたようなスパイスが特徴の「ウーラー」が並び、次点でトマトのフレッシュな甘さと酸味にスパイスの豊かな香りがあいまった「トマト」、中国のお酢からくる酸味とスパイスの辛味が合わさった「サムゴーサンラー」が続く形です。辛さについては10小辣、5小辣、3小辣の順で人気となっております。
――20種類以上の具材も、香港のお店と共通なんですか?
香港と日本の共通具材は以下のとおり。
えのきだけ/きくらげ/大根の酸菜/もやし/しいたけ/にら/ほうれん草/豚ひき肉炒め/鶏むね肉/豚ロース肉/牛赤身肉/豚バラチャーシュー/プレミアム牛肉スライス/ベビーイカ/油揚げ
日本限定具材は、以下の7種類です。
はくさい/チンゲン菜/まいたけ/パクチー/ベビーホタテ/うずらの玉子/皮蛋(ピータン)
そのほか、期間限定具材(無くなり次第終了)として、フィッシュボール/三角揚げもあります。
――特におすすめの具材は?
どれも好評いただいておりますが、共通で高野豆腐、もやし、ニラの3種類が入っているため、食べ応えを出すために豚バラや鶏肉、豚ひき肉炒めをはじめとしたお肉系の具材が特に人気となっております。また、日本限定の具材として提供しております、はくさいやチンゲン菜、パクチーをはじめとした野菜についても、女性のお客様を中心に支持いただいております。
これがタムジャイサムゴー直伝の、おすすめチョイス
米線についてはよくわかったが、悩みが深まるばかりなのが、多すぎる具材とスープのマッチング。何か目安になるものがあるといいのだが…。
そう聞くと、耳よりな情報が。
「タムジャイサムゴーでは、お客様のお好みのカスタマイズを「#マイタム」として、インスタグラムに投稿頂いております(https://www.instagram.com/tjsg_jp/?hl=ja)。公式アカウントでもいくつかお勧めのカスタマイズをピックアップしております」とのこと。その一例を紹介しよう。
①スープ:麻辣(マーラー)
・おすすめの辛さ:中辣(Fiery)
・具材:パクチー / 豚ひき肉炒め
豚ひき肉炒めを頼むと別皿で提供されます。その別皿にスープをレンゲ2杯いれ、米線をつけ麺のようにお肉とスープと絡めて食します!パクチーも入れて絡めて食べると最高です!甘めの豚ひき肉炒めの味わいを際立たせるために、イチオシの辛さは中辣です。
②スープ:煳辣(ウーラー)
・おすすめの辛さ:5小辣(Mild)
・具材:きくらげ, ほうれん草, 豚ロース肉
煳辣スープの香ばしさと豚ロースの油がベストマッチ!米線のモチモチ食感ときくらげのコリコリとした食感の相性も抜群です。
③スープ:番茄湯(トマト)
・おすすめの辛さ:10小辣(Low)
・具材:ベビーホタテ / ベビーイカ / ほうれん草 / しいたけ
トマトの旨味に魚介の風味がしっかり溶け込み、まるでイカとホタテのペスカトーレ風のような味わいを楽しめます。お好みで豚や牛でコク味を出すのもお勧めです。
④スープ:三哥酸辣(サムゴーサンラー)
・おすすめの辛さ:2小辣(Hot)
・具材:パクチー, 鶏むね肉, 皮蛋(ピータン)
中国酢から来る酸味とスパイスの辛味が合わさった、コクと旨味が押し寄せるやみつきのスープに、パクチーとピータンが一緒に煮込まれることで、香りも豊かな一杯をお楽しみ頂けます。
これでもまだ迷っている人は、8月8日から始まる「得タム」を利用するのがおすすめ。一番人気の「マーラー」に加えて、「クリア」、「トマト」、「ウーラー」と4つのスープが、それぞれタムジャイサムゴーおすすめのカスタマイズで、米線と2つの具材とドリンクがセットになって900円。間違いのない組み合わせで食べられ、最大320円もお得になる。平日の11:00~18:00限定なのでご注意を。
これで、初心者でも不安なく米線を楽しめるだろう。ぜひトライして、「日本語ではまだ表せない旨さ」を自分の舌で体験してみてはいかがだろうか。
取材・・撮影・文/桑原恵美子
取材協力/「譚仔三哥(以下「タムジャイサムゴー」(https://www.tjsamgor.jp/)
編集/inox.