ゴルフ場でミスショットをした場合や、前方に人がいることを確認しないでショットした場合などには、打球によって他のプレイヤーにケガをさせてしまうことがあります。
ゴルフ事故によってケガをした被害者は、加害者に対して損害賠償を請求できます。ただし事故の状況に応じて、責任を負う人や責任割合が変化する点に注意が必要です。
今回は、ゴルフ事故によって生じる損害賠償責任についてまとめました。
1. ゴルフ事故による損害賠償責任は誰が負う?
ゴルフ場でのショットが当たってケガをした場合、誰が被害者に対して損害賠償責任を負うのかが問題となります。
1-1. 原則|球を打った人
ゴルフ事故の損害賠償責任を負うのは、原則として被害者にケガをさせた球を打ったプレイヤーです。
隣のホール(コース)に球を打ち込むことは、他のプレイヤーにケガをさせるおそれがある危険行為です。したがって意図的ではないとしても、球を打ったプレイヤーには過失が認められるため、不法行為が成立します(民法709条)。
またゴルフプレイヤーは、自分が球を打とうとしているエリアに人がいないことを、十分確認する注意義務を負っています。そのため、前方にいるプレイヤーに球を打ち込んでケガをさせた場合も、過失による不法行為が成立します。
不法行為によって他のプレイヤーにケガをさせた場合、被害者の損害を賠償しなければなりません。
1-2. 設備の欠陥が原因となった場合|球を打った人+ゴルフ場
ゴルフ場が設置した設備の欠陥に起因して事故が発生した場合、ゴルフ場は被害者に対して工作物責任を負います(民法717条1項)。
ゴルフ場の責任が問題となるのは、たとえば練習場でのミスショットが設備に跳ね返った結果、他のプレイヤーがケガをした場合などです。この場合、ゴルフ場が跳ね返り防止等の措置を適切に講じていなければ、ゴルフ場が工作物責任を負う可能性があります。
ただし、ミスショットを打ったプレイヤーにも責任がありますので、プレイヤーとゴルフ場の間で損害賠償責任を分担することになります。
1-3. キャディーの注意義務違反が認められる場合|球を打った人+キャディー+ゴルフ場
プレイヤーにキャディーが帯同している場合、キャディーは帯同プレイヤーの安全を守るために、適切な行動を取る義務を負うと考えられます。
たとえば前方に他のプレイヤーがいることについて注意喚起したり、打球が飛ぶ可能性がある方向に立たないように声掛けをしたりすることは、キャディーが取るべき行動の一例です。
キャディーがこうした行動を取っていれば事故を防げた場合には、キャディーにも不法行為責任が認められる可能性があります。
また、キャディーはゴルフ場の従業員であるため、ゴルフ場も使用者責任を負います(民法715条1項)。
ただし、注意喚起を怠ったに過ぎないキャディーやゴルフ場の責任はそれほど重いものではなく、あくまでも球を打ったプレイヤーの方が重い責任を負うことになるでしょう。
2. 被害者にも不注意があった場合は「過失相殺」が行われる
ゴルフ場での事故において、打球が当たった被害者にも不注意(過失)が認められる場合、「過失相殺」によって損害賠償が減額されます(民法722条2項)。
隣のホール(コース)から球が飛んできたようなケースでは、被害者が打球を予期することは困難なため、被害者の過失は認められない可能性が高いです。
これに対して、前方にいた同伴プレイヤーに打球が当たったようなケースでは、被害者に一定の過失が認められることが多いでしょう。安全の観点から、プレイヤーは本来打つ人の前方に出るべきではないからです。
たとえば岡山地裁平成25年4月25日判決では、ショットが右前方30度周辺にいた同伴プレイヤーの左目を直撃し、失明させた事故が問題となりました。
岡山地裁は、球を打った加害者に6割、帯同キャディー(とゴルフ場)に1割の過失を認めた一方で、被害者にも打つ人の前方に出ていた点について3割の過失を認めました。
その結果として過失相殺が行われ、被害者は実損害の7割に当たる損害賠償を受けられるに留まりました。
3. ゴルフ事故における損害賠償は高額になることも
ゴルフ事故において、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の項目は、以下のとおり多岐にわたります。
・治療費
・入院雑費
・休業損害
・装具、器具購入費
・慰謝料(入通院、後遺症、死亡について)
・逸失利益(後遺症、死亡について)
など
特に被害者に後遺症が残った場合や、被害者が死亡した場合は、損害賠償がきわめて高額になる可能性が高いです。
被害者が左目を失明した前掲・岡山地裁判決の事案では、被害者の過失3割につき過失相殺を行ってもなお、加害者とキャディー・ゴルフ場に対して、総額約4,408万円の損害賠償が命じられました。
ゴルフをプレーする方であれば、技術やキャリアの長さにかかわらず、ゴルフ事故の加害者になってしまう可能性があります。事故を回避するために十分な注意を払うことに加えて、ゴルフ保険に加入するなどの対策もご検討ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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