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Jリーグ強化畑からベルギーへ!シントトロイデンの立石敬之CEOに聞く異国でスポーツチームを経営することの難しさ

2022.08.09

2022年カタールワールドカップ(W杯)まで3カ月。今回はコロナ禍の影響で登録選手数が26人に拡大し、選手にとってチャンスは確実に広がった。が、10月下旬に予定される本大会メンバー発表までどうなるか分からない。最後の最後まで熾烈なサバイバルが繰り広げられると見られる。

 2018年まで8年間、エースナンバー10を背負った香川真司を筆頭に、6月の代表4連戦に参戦したシュミット・ダニエル、東京五輪代表の林大地、橋岡大樹の日本人4人を擁するベルギー1部・シントトロイデンにとっても、誰が滑り込むかは重大な関心事に他ならない。

 すでに当確とされる遠藤航(シュツットガルト)、冨安健洋(アーセナル)、鎌田大地(フランクフルト)のように、同クラブに関わった選手が1人でも多くW杯へ行ってほしいと願う関係者は少なくない。

異国で奮闘する立石氏(写真提供=シントトロイデン)

 その筆頭が立石敬之CEOだ。そもそもこのトップがいなければ、遠藤や冨安、香川の獲得もなかったわけだから、日本代表への貢献度の高さは文句なしと言っていい。

長友・武藤の欧州移籍に携わったGMがベルギーへ

 異国のサッカークラブ経営者として奔走する立石CEOは1969年生まれの53歳。福岡県北九州市出身で、国見高校時代には高校サッカー選手権制覇も経験した元MFだ。創価大学時代はブラジルやアルゼンチン留学を経験。卒業後はブラジルでプレーし、Jリーグが開幕した93年にベルマーレ平塚へ。翌94~96年は東京ガス(現FC東京)、97~99年には大分トリニータでプレーし、現役を退いている。

 引退後は指導者に転身、大分でキャリアをスタートさせ、2006年にはイタリアのエラス・ヴェローナでも指導経験を積み、JFA公認S級指導者ライセンスも取得した。本人もそのままコーチ業に軸足を置くつもりだったようだが、2007年からはFC東京で強化畑を歩むようになる。その後の10年間には、長友佑都(FC東京)や武藤嘉紀(神戸)の欧州移籍に携わる機会もあり、本場・欧州市場と向き合う回数も増えた。さらに普及・育成・強化全般を束ねる仕事も手掛けたことで、クラブ経営全体に目を向けることも多くなった。

 多彩なキャリアを見込んだDMM.comからオファーを受け、シントトロイデンのトップに就任したのが2018年1月。未知なるベルギーで新たな挑戦に打って出たのである。

「かつてのJリーグは親会社から出向者や地域の名士が社長をしているケースが多かった。私も長く日本サッカー界にいましたが、経営人材の不足は感じていました。自分ももともとは経営畑の人間ではないですが、サッカークラブというのはチーム強化に関わる人件費が全体の6~7割を占めている。GMや強化担当という立場で大きな金額を預かってコントロールする中で、クラブ経営を学んできたのは確か。その経験をベルギーでも生かせると考え、オファーを受けたんです」と立石CEOは新天地に赴いた理由を語る。

香川真司の移籍会見に同席する立石氏(写真提供=シントトロイデン)

CEO就任からの4年間で8億円の収入アップを実現

 ベルギーの場合、UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)常連クラブ・ブリュージュの収入規模が120億円(1ユーロ=140円で計算)でリーグトップ。アンデルレヒト、ゲンク、スタンダール・リエージュ、アントワープなどが続き、約35億円程度のシントトロイデンは10番目くらいだという。それでも先月発表されたJリーグ経営状況を見ると、35億円以上の収入規模を誇るのは川崎フロンターレからセレッソ大阪までの11クラブしかない。Jの基準に照らし合わせれば、相当大きな経営規模を誇るクラブということになるのだ。

「私がCEOに就任した頃は今より8億円程度は少なかったですね。シントトロイデンは約4万人の小さい町で現地スポンサー獲得には限界がありますし、リーグからの分配金や放映権料収入もそこまで伸びない。入場料収入も重要ですけど、スタジアムの収容人員が1万人なのでマックスに入ってもそれほど大幅な増収にはなりません。

 そこで1つ考えたのが、日本のスポンサー強化。親会社のDMM.comの日本オフィスが営業面で頑張ってくれて、今年もにしたんクリニックやマルハンなど新規スポンサーに協賛していただくことができました。

 もう1つ大きいのが、移籍金収入。我々の場合はそれが売上の約3分の1の10~12億円を占める年が多かったんです。今季はやや減っていますし、日本人選手の売却もなかったですが、戦力をある程度維持して、プレーオフ(上位8位以内)に進出し、欧州トーナメントの切符をつかみたいと考えています」と現状を説明する。

ベルギーサッカー事情や現地スタッフの考え方…。異国での壁に直面

 とはいえ、日本と欧州では文化や習慣、考え方も違う。欧州サッカー界のネットワークも日本時代ほどはない。立石CEOとしても、最初から全てをスムーズに回せたわけではない。2018年の時点では戸惑いを覚えることも少なくなかったようだ。

「ベルギーに赴いた当初はイタリアやスペイン、ポルトガルの仲間から情報を得ていました。でも、彼らもベルギーのサッカー界を全て知り尽くしているわけではないですし、国が違えば人も環境も違います。となれば、自分で覚えるしかない。そう考えて、全くゼロから向き合い始めました。

 ベルギー1部は18チームあるのですが、まず選手の特徴をチェックしなければならなかった。興味を持った選手の年俸、クラブとの契約期間、代理人やバックグラウンドなど周辺情報も収集する必要もあった。クラブ関係者とのネットワークを構築するために、経営者やGMと話すことも大事なんですが、私は英語があまり得意じゃないので苦労しました。ベルギーサッカー界全体を大まかに把握するのに2年くらいはかかったと思います」

 難しさを感じたのはそれだけではない。シントトロイデンで働くスタッフの考え方も日本とは大きく異なっていたからだ。

「日本人相手だと10のうちの1か2を言えば伝わりますが、欧州では丁寧に説明しても理解してもらえないことはよくありますね。

 加えて、価値観の違いも大きい。我々のようなサッカー関係者は土日に試合があるわけですから、働くのは当たり前。でも、現地スタッフは家族が第一。『週末に出勤して試合運営の仕事をしなければならないなら、ボーナスをください』と言われたこともあって、面食らいました(笑)。

 そういうギャップも話をしながら時間をかけて埋めていった。スタッフ数も2018年段階は日本人入れて5~6人でしたけど、今は20人規模の組織になっています。育成コーチも献身的にクラブを支えられるように正社員になってもらっています」

日本産食材のプロモーションイベントの様子(写真提供=シントトロイデン)

日本産食材の欧州拡大やイベント事業など多角化も

 こうやって着実にクラブ力を高め、異国でのマネージメント経験を積み上げる立石CEO。今後もチームの強化と第2・第3の冨安のような世界的人材に輩出に努めていくだが、クラブ経営の多様化も進めていく構えだ。

 その1つとして、STVVは農林水産省が定める「日本産食材サポーター店制度」の認定団体としてレストラン・小売店を通じてベルギーで日本産食材のPRを行う活動を2019年から行っている。徐々にフード事業を拡大していくつもりだと立石CEOは言う。

「米やしょうゆ、お酒、牛肉などをリスト化し、ベルギー国内のレストランに紹介し、購入していただくサービスで、パリにも販路を広げる計画です。3億円くらいまで売り上げを立てるのが目下の目標です」

 さらには、欧州でのイベント代理業も手掛けていく考えだ。その先駆けとして、今年5月のカンヌ映画祭と同時期に開催されているチャリティパーティーを視察。映画祭周辺でさまざまなイベントが開催されている点に着目し、来年以降は、スポンサーを募ってパーティーを実施させる予定だ。これはイベント代理店業務と言えるだろうが、サッカークラブにはそれだけのエンターテイメント演出の力がある。それは大分やFC東京で働いていた頃からよく分かっていたこと。立石CEOにとっては想定の範囲内だったのだろう。

「『スポーツ×食』『スポーツ×音楽』『スポーツ×芸術』『スポーツ×ファッション』といったコラボレーションを手掛けながら、日本と欧州の架け橋になることが我々の大きなテーマなんです。さまざまなジャンルを融合させ、より多くの人が交流できる場を作れれば、クラブ運営規模の拡大にもつながると確信しています。

9月1~3日の渋谷の「STVVラウンジ」は必見

 その一環として、9月1~3日には東京・渋谷に『STVVラウンジ』をオープンする予定です。その時は私も帰国して多くの方々とコミュニケーションを取るつもりです。日本でのクラブ認知を高めつつ、食や音楽とのコラボレーションをしながら、サッカーの魅力を再認識してもらえたら嬉しいですね」

 サッカーという枠から飛び出し、国際的な経営者としての道をまい進する立石CEO。多くの人々や企業の力を借りながら新規ビジネスを構築していこうとする貪欲な姿勢から学ぶべき部分は少なくない。

「アラフィフになっても十分やれる」という希望を抱かせてくれるエネルギッシュな彼の今後にさらなる期待を寄せたい。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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