世の中ではSDGs(持続可能な開発目標)の意識が高まる中、「ペットとの共生」という視点も注目されている。さらに健康への意識も高まる昨今、ペットの健康ケアも進んでいる。
そこで今回は、ペットの健康をサポートするサービス開発・提供に取り組む企業に、SDGsとの関係性やどのように貢献できているのかについてインタビューを行った。
ライオン商事「犬の歯みがき習慣化プロジェクト」
ペットの健康をオーラルケアの面から強力にサポートすることを謳うライオン商事は、犬の歯みがきガムなどを含むブランド「PETKISS」を展開している。
2022年6月28日から「犬の歯みがき習慣化プロジェクト」をスタートさせた。このプロジェクトでは、愛犬の歯みがきの大切さを知りながら、なかなか実行できない飼い主のリアルな本音やニーズを汲み取り、犬の歯みがき習慣化のためのノウ ハウや独自のメソッド、コンテンツを同社の獣医師も参画しながら開発、発信していくという。
特設サイトでは、犬のオーラルケアにまつわる5つのタイプ別診断により、タイプに合わせた解決ヒントを提示するコンテンツを掲載している。
「犬の歯みがき習慣化プロジェクト」より
ペットオーナーにもたらされる変化
同社は、愛犬のオーラルケアをしやすくする環境を整えたり、使いやすい製品を提供することで、日常的に愛犬のオーラルケアを行うオーナーを増やしていくことを目的に据えている。
ペットオーナーにはどのような変化がもたらされるだろうか。事業推進部 カテゴリーマネジャーの市川比呂志氏は次のように述べる。
「愛犬のお口周りを触る、お口の中に指や歯ブラシを入れて磨くような行為は、オーラルケアを意識しなければ取らない行動であり、今までにない愛犬とのコミュニケーションになります。オーラルケアを行う時間がペットとのスキンシップの時間になり、ペットとより幸せな時間を過ごすことができるようになると考えています」
SDGsとペットの関係
SDGsとペットとの関係は、解釈によって異なる。市川氏はどのような関係があると考えているだろうか。
「昨今、ペットは家族の一員という意識が進んでいます。ペットといつも清潔に、ずっと健康に、そして快適に暮らす社会を目指すことは、SDGsが目指す持続可能な社会を作ることにつながると考えています。ペットを飼うということは、人とペットが共生して健康的な生活を確保することになりますし、子どもの教育にも一役買い、平等意識や責任感の醸成にもつながると思います。そして何より心を豊かにし、生きがいにもつながると考えています」
「犬の歯みがき習慣化プロジェクト」は、SDGsのどのゴールに、どのように貢献するだろうか。
「大きなところでは、目標3『 すべての人に健康と福祉を』に該当すると考えます。ライオングループのインクルーシブオーラルケア(全ての人にオーラルケアを)という考え方の下、当社では『人だけでなく家族の一員であるペットにもオーラルケアを』と考え、『犬の歯みがき習慣化プロジェクト』を始動しました。
他には広い意味で、目標10『人や国の不平等をなくそう』と目標12『つくる責任、つかう責任』にも貢献できると考えています。愛犬のオーラルケアを行うことは、お口の健康を維持するばかりではなく、新たな愛犬とのコミュニケーションになり、持続可能な社会におけるペットとの共生を目指すことにつながると考えています」
今後の展望
今後の展望はどのように考えているだろうか。
「当社は“いつも清潔に、ずっと健康に、そして快適に”を合言葉にペットとご家族の幸せな生活を応援するために、様々な製品を発売し、情報発信し、啓発を行ってきました。それはこれからも変わりません。そして今後は今まで以上に人目線だけではなく、ペットの目線に立った製品開発をしていきます。
ペットファースト、ペットの心地良さを追求していたいと考えています。それはペットの幸せな姿を見ることで、ペットオーナーも幸せになるからです。当社は今後もペットと共生する持続可能な社会を目指します」
「みるペット」ペット向けのオンライン相談・診療
「みるペット」は、いつも通院している動物病院の先生と、我がペットについてオンラインで相談したり、診療を受けることができるようになるシステムだ。
2020年5月からベータ版として動物病院へ提供されていたが、2022年5月17日より正式リリースされた。ビデオ通話による相談・診療とともに、チャット相談も可能だ。
ペットオーナーにもたらされる変化
「みるペット」を利用することで、ペットオーナーにはどのような変化がもたらされるだろうか。株式会社みるペット代表取締役 浅沼直之氏に話を聞いた。
「オンライン相談・診療を活用することで、『忙しくて通院の時間がない』、『うちのペットは病院が苦手』、などの理由で通院しづらかったものを解決することができます。また、どこでも簡単に相談や受診を行えることで、動物病院をこれまで以上に身近に感じ、獣医師がそばにいる安心を感じられます。
オンラインではじっくりと相談することができるため、病気の重症化を防ぐことはもちろん、病気になる前から動物病院との接点を持つことで、ペットの健康維持がしやすくなります。また、全国どこにいても皮膚科や腫瘍科、循環器科などの専門性の高い獣医師へ相談することも可能です」
SDGsとペットの関係
浅沼氏は、SDGsとペットの関係についてどのように考えているだろうか。
「SDGsは、基本的には人の社会が持続していけるための開発目標ですが、ペットを飼育することで、ヒトの健康や幸福度に影響があるという報告があるように、人とペットの生活は密接に関係していると考えております。ペットと人が共生しやすい環境を作ることは、より健康で幸福な生活を送るための手助けになると思います。
また、日本においては、数年前より犬と猫の飼育頭数の合計は15歳未満の子どもの数を上回っており、ペットを我が子のように接する方も増えており、関連市場も成長しています。業界の中で、より多くの方が働きやすい環境を作ることもSDGsにつながると考えております」
「みるペット」は、SDGsのどのゴールに、どのように貢献するだろうか。
「当社は、動物病院の業務をサポートし、間接的にペットの健康を守るお手伝いをすることで、ペットが健やかに生活する毎日を維持することができると考えております。それによって飼い主様の健康も守ることにつながり、目標3『 すべての人に健康と福祉を』に、また獣医療にITを掛け合わせることで、目標9『産業と技術革新の基盤を作ろう』にも貢献できると考えます。そして、目標8『働きがいも経済成長も』においても、動物病院における働き方改革をサポートし、業務効率を上げ、獣医療に新たな価値を付加することで、雇用待遇の改善や様々な人材の活用が可能になると考えております。具体的には、場所や勤務形態、時間を選ばない雇用がしやすくなることで、子育て中の獣医師の活躍の場を増やすことができると考えております」
今後の展望
今後、「みるペット」はどのような展開を予定しているだろうか。
「新型コロナウイルス以降、人に対する医療の分野においてもオンライン診療の議論が進み、制度も整備されつつあり、オンラインを活用する動きが広まりつつあります。一方、獣医領域ではまだこれからの分野です。
先日、(公社)日本獣医師会さんから『愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針』が発行されましたが、飼い主様目線の獣医療の提供を考えたときに、対面診療と適切に組み合わせたオンライン診療の活用は、今後必要になると考えております。当社ではシステムだけでなく、関連情報や周辺サービスを動物病院に提供することで、ペットとその飼い主様が早く安全で適正なオンライン診療を利用できる環境づくりのお手伝いをしたいと考えています」
「PETOKOTO FOODS」カスタムペットフード配送サービス
「PETOKOTO FOODS」は、愛犬に合わせてカスタムしたペットフードを定期的に配送するサービスだ。
愛犬の体重や体型、運動量、アレルギーなどのデータを元に、同博士と共に開発した独自のアルゴリズムで最適なレシピとカロリー量と栄養素をカスタムし、愛犬に合ったスケジュールで定期配送。
人間と同じ基準の新鮮な食材を使用し、ニュージーランド獣医師栄養学博士によるレシピで栄養面でも期待できるのが特徴だ。米国飼料検査官協会(AAFCO)の提唱する成分配合を満たしているという。
ペットオーナーにもたらされる変化
「PETOKOTO FOODS」を利用することで、ペットオーナーにとって、どのような変化がもたらされるのだろうか。株式会社PETOKOTOの代表取締役社長の大久保泰介氏は次のように述べる。
「PETOKOTOFOODS購入前のフード診断のデータが蓄積されており、さまざまな変化を確認することができます。現在、お客様の6割が偏食・ドライフードを食べない悩みを持たれておりますが、当社のごはん購入により95%の方に『食いつきが良くなった』と回答をいただいています。
また、栄養吸収が良くなったことで、うんちの回数が減り、質が良くなったという声や、栄養吸収されず排出されたことなどの理由でうんちを食べてしまう食糞がなくなったという声もあります。
また涙やけの症状が改善した、毛艶や被毛が良くなったという声もいただいています」
SDGsとペットの関係
大久保氏の考えるSDGsとペットの関係とは?
「殺処分を含む保護犬猫問題には、多くの要因が複雑に絡んでおりますが、ペットの命の価値が人間都合で決められている側面があります。実際に、私の愛犬コルクは、足が内股という理由だけで、ペットショップの競り市で捨てられていたところを、保護団体がレスキューした犬でした。
世の中にはフードロスなどの問題もありますが、最も倫理的に解決しなければならない問題は、ライフロス=命のロスなのではないかという想いで活動しています。
また、SDGsはほとんどが人間中心の在り方ですが、家族という観点では、子どもの数を上回るペットも同じです。その点で、ペットも家族と考えた場合に、ペット自体も暮らしやすい環境を整えることが必要だと考えています」
「PETOKOTO FOODS」は、SDGsのどのゴールに、どのように貢献するだろうか。
「まず、すべてのペットが家族と同じクオリティのごはんを食べ、私たち人間と同じ食体験をすることで、健康管理をしていくことが重要だと考えています。これは目標3『 すべての人に健康と福祉を』につながるのではないでしょうか。
また当社はさつまいもの規格外品を活用するなど、人間の流通で廃棄される食材を有効活用しております。フードロス問題は目標12『つくる責任 つかう責任』に該当します。
そして、目標8『働きがいも経済成長も』に関して、PETOKOTOを運営する中で、リモートとオフィスのハイブリッド型を選択しており、誰もが働きやすい環境を整えてまいります」
今後の展望
今後は、どのような展開を考えているのだろうか。
「現在は、犬向けの完全食(総合栄養食)として健康なワンちゃんのみのご提供ですが、今後は猫向けや病気の犬猫向けのごはんの開発を進めております。今後もすべてのライフステージに新鮮で安心安全なごはんを届けてまいります。
また、現在はオンライン中心にお客様と出会っていますが、オフラインのリアルでの出会いの場所も拡大してまいります。そして、日本だけでなくアジア中のペットと暮らす方々へご利用いただけるよう、海外展開も進めてまいります」
SDGsとペットは、思いのほか、さまざまなつながりがあるようだ。各サービスを利用することで、ペットオーナーは何らかの悩みを解決できると考えられる。それに加えて、これらのサービスを起点に、ペットオーナーは広い意味でのペットとの共生や、ペットに対する意識向上が啓発されるのではないだろうか。
取材・文/石原亜香利