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月の砂「レゴリス」は宝の砂だった!?知られざるその豊富な利用価値

2022.08.07

月面計画が多くのメディアで取り上げられ、月の「レゴリス」という名称を、最近よく耳にするようになってきた。レゴリスとは、天体表面に堆積している砂礫、そして流星物質の衝突により生成された細粒子等の総称のことだ。実は“宝”として希少価値があるという。

「レゴリス」とは何なのか?

レゴリスとは何だろうか。簡単にいうと、砂の埃のこと。そう答えても大きな相違はないだろう。少しだけ学問的にいうと、惑星科学の分野においては、天体表面に堆積している砂礫(されき)や隕石などの衝突により生成された粒子等の総称になる。ちなみに、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」がイトカワから採取してきた砂礫もレゴリスということになる。

月のレゴリスの特徴として、形状は、磨耗が少なく鋭利、静電気、磁気をもつ、とても小さいなどが挙げられる。月面には相当な量が堆積しており、ほぼ全ての場所で厚さ数cmから数十にものぼり、隕石の衝突の窪みであるクレーターなどでは若い地形ほどその厚さは薄いようだ。

なぜ、レゴリスはできたのだろうか。地球には当たり前のようにある空気、大気が、月の場合はない。そうなると、宇宙から、そして月面から高速で微粒子が直接月面にぶつかってくる。その衝撃によって月面の岩が削りとられたものがレゴリスだ。

レゴリスの粒の大きさはおよそ50μm(1mmの20分の1)。レゴリスにはガラスの粒子、岩の破片、鉄粉が含まれている。ガラスは衝突の衝撃によって岩の表面が溶け、再度急速に固まったもの。もし月に大気や水などがあって地球と同じような環境があれば、このような細かい砂であるレゴリスは水に流されたり、粘土として集められたり、細かい砂同士がぶつかり合って角が取れ丸くなったりする。

それが長い年月の中で堆積岩という岩に変わり、やがてプレート運動によって地球内部に運ばれると溶岩に生まれ変わるのだが、月には水もプレート運動も無いため、レゴリスは一度作られると、ひたすらこのような鋭利な尖った形を保ったままで、積もりつづけてしまうのだ。

月のレゴリス(画像はイメージ)

レゴリスの利用価値とは?

レゴリスについて知っていただけたところで、レゴリスには、どのような利用価値があるのだろうか。その前に、レゴリスの成分について解説しよう。

レゴリスは重さの比率で約45%が酸素からできていて金属類と結びついた化合物として存在する。そして、微小だが水素も含まれている。この水素は太陽から吹いてくる風(太陽風)に含まれているもの。そのため、レゴリスは、酸素、水、金属の原料となりうるのだ。

三菱マテリアル、清水建設、大林組などでは、レゴリスを模擬した砂からから焼結材(しょうけつざい)というコンクリートを作る研究開発を行なってきた。居住施設の建築材料となり、月面生活者を守る防御壁となるからだ。建物をさらに厚さ3mのレゴリスで覆えば、微小粒子の衝突や放射線から建物や人を守り、室温の変化を穏やかにすることもできる。この研究は、昔からずっと続けられていて、ようやくアルテミス計画などで人類が月を目指している絶好の機会なので、ようやく脚光を浴びるかもしれない。

他にも、大林組とTOWINGは、月のレゴリスの模擬砂と有機質肥料を用いて植物の栽培の実証実験を実施し、見事、作物の栽培に成功している。

また、レゴリスを700℃に熱すると水素を回収することができる。1gの水素を回収するのに20kgほどレゴリスが必要だというが、さらに、その水素を1000℃以上でレゴリスと反応させると、水素がレゴリスの中の酸素と結びつき、レゴリスを水と金属類に分けることができる。 こうして作られた水を電気分解すれば酸素ができるのだ。燃料電池も検討することができそうだ。

ちなみに、月には空気がない。液体の水もない。だからといって、月面での居住に必要な水や酸素をすべてを地球から輸送することは現実的ではない。現在の輸送技術では、1kgあたり200万円のコストがかかるといわれているので、例えば、お風呂1回分約400kgの水道代がなんと8億円という高いコストなのだ。

太陽光発電装置に必要な材料(シリコン)もレゴリスから取り出せるという。宇宙で太陽電池セルも作れるかもしれない。また、最近Airbusは、ROXYというプロセスにおいて、レゴリスを模擬した砂を酸素に変える技術を確立したという報道もあるのだ。意外とレゴリスが、宝の砂であるというイメージを持っていただくことができただろうか。

月のレゴリスを確認するイメージ

”宝の砂”とは別の側面も

アポロ計画から約50年。アポロ17号で月に降り立ったNASAの宇宙飛行士ハリソン・シュミットやキムプリスクは、喉の痛みや目のうるみなどの症状を訴えたという。当時その症状を、「月花粉症」、英語でlunar hay feverと呼んでいた。

欧州宇宙機関ESAによれば、月のレゴリスは、火山活動のある惑星体によく見られるケイ酸塩を含んだもので、これをもし吸引してしまうと、肺を傷つけたり肺に炎症を起こしたりしてしまうという。月のレゴリスは研磨性が強く、宇宙服のブーツ層に穴を開けるだけでなく、サンプル容器の真空密封も壊してしまうほど。

月の重力は、地球の6分の1。気象もない。そのため、長い間、レゴリスが月面にとどまるので、それだけ肺に入りやすい傾向にあるのだ。そして、月のレゴリスの大きさは、実は、人間の髪の毛の50分の1程度で、肺の中で何ヶ月もぶらぶらする可能性があるという。その上、大気がないため太陽からの放射線の影響が強い月では、土壌が帯電することにより、埃が浮き上がる。

今地球上では、月のレゴリスを模した物質の研究が進んでいて、実は、細胞が長期間暴露されると、肺や脳の細胞が破壊されるという研究結果がでているという。そして残念なことに、現状では有効な対策はあるようでないというのだ。

アルテミス計画においては、月の表面に、宇宙服で出た後には、宇宙服についた月のレゴリスを完全に除去してから、ヘルメットを脱ぐ必要があるだろう。エアーシャワーのようなものを使ったり、完全に月のレゴリスを除去できるような掃除機のようなものの開発も必要となるのだろう。

月のレゴリスには、宝の側面もあるが、しっかりと管理する必要がある。取り扱いを間違えると、健康を害する側面もあるとても危険なものなのだ。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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