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ホンダ、IHI、大企業が「藻」の研究開発に注力する理由

2022.08.07

食料や医療などの分野にもその可能性を広げられる「藻」

最近、ネットやテレビなどでKing & Princeのメンバーが登場し、ホンダの研究者に「藻」の話を訊くというCMや動画をご覧になった方も多いのではないだろうか。

最初は「自動車メーカーが藻の研究?」なんて不思議に思ったものの、調べてみたらバイオ燃料などといったカーボンニュートラルに貢献するだけではなく、食料や医療などの分野にもその可能性を広げられるというので紹介してみよう。

ホンダが「藻」でカーボンニュートラル

ホンダは、2050年までにカーボンニュートラルを達成することをめざしているが、そのためには、化石資源の利用を抑制し、再生可能資源を効率的に活用することで大気中のCO2濃度を増やさないことが重要。

しかし現状では、モビリティーを含めたすべての社会活動を再生可能エネルギーでまかなえる環境が整っているとはいえない。そこで、電気・水素・カーボンの3つのサイクルでエネルギーを循環させ、用途や地域に応じてエネルギー利用を最適化できるように多彩な技術を研究開発している。

ちなみに、比較的に短距離移動で使われるバイクや自動車などは電動化しやすく、さらに長距離を走る大型トラックなどは水素を活用できるのに対し、ジェット機や船舶など大出力のモビリティは電動化が難しく、合成燃料やバイオ燃料といった代替燃料を使わざるを得ないという。

そんな中、カーボンサイクルを効率よく循環させていくために、再生可能資源として大きな可能性を持つ「藻」に着目。この「藻」は、太陽光や水、栄養となる窒素やリンなどの元素があれば、光合成によってCO2を吸収しながら細胞分裂により増殖し、炭水化物やタンパク質といった有価物を作ることが可能で、バイオ燃料として最適。

しかも「藻」は、農業が適さない砂漠地域や塩害地域などでも培養できるので、サトウキビやトウモロコシなどといったバイオ燃料の原料で問題となる、食料生産との競合がおこらないこともメリットのひとつだという。

そこで、ホンダの研究から誕生したのが「Honda DREAMO」。「DREME(夢)」にかけて「DREAMO(藻)」としたところが、なんともホンダらしい名前だ。

この「DREAMO」は、微細藻類の一種であるクラミドモナスが突然変異したもので、新たに生物特許を取得。

通常の微細藻類では、太陽光で光合成させるために屋外で培養しようとすると、雑菌や虫などによって藻の成長速度が低下してしまう。そのため、雑菌や虫と共存できる「強い藻」の開発に取り組み、成長速度が速い「DREAMO」が誕生した。

そして、成長速度が速いこの「DREAMO」は、約5時間に1回のペースで細胞分裂し、1個の藻が最大で1日に32個まで増殖することが確認されたという。

藻というのは、1g当たりCO2を2gを吸収するため、藻が増えれば増えるほどより多くのCO2を吸収することになる。つまり、分裂回数が多い「DREAMO」は、CO2の吸収力が非常に高いということになる。

また、「DREAMO」は、低温環境でスクリーニングしてきたことで低温に強い特性も獲得。太陽光と水があればどこでも培養できる藻になったのだそうだ。

さらに、「DREAMO」の活用はバイオ燃料だけにとどまらない。藻には炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンなどが含まれているが、「DREAMO」は、この成分比率を容易に調整できるため、バイオプラスチックや栄養補助食品、健康・美容サプリメント、医薬品など、さまざまな事業分野での活用が期待されている。

https://youtu.be/_TMYKFw_Ixk

関連情報:https://www.honda.co.jp/future/EngineerTalk_hondadreamo/

IHIが微細藻類から製造したバイオジェット燃料を国内定期便に供給

実は、ホンダ以外にもすでに「藻」から製造したバイオ燃料の活用をはじめている。総合重工業メーカーであるIHIは、昨年6月に微細藻類から製造したバイオジェット燃料を持続可能な代替航空燃料(以下、SAF)として、国内定期便に供給。

これは、光合成により高速で増殖する微細藻類(高速増殖型ボツリオコッカス[HGBb])を大量培養し、その微細藻類が生成する藻油から燃料を一貫製造するプロセスの次世代技術開発事業の取り組み。

プロセス概念図(出展:IHIプレスリリースより)

2017年度から開始した国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業では、鹿児島市の既存施設とタイ王国サラブリ県に新設したパイロット屋外培養施設を使い、大規模培養からSAF製造までの一貫製造技術の確立に取り組んだ。

また、バイオジェット燃料の商用飛行に必要な国際規格「ASTM D7566 Annex7」を取得するとともに,製造したSAFが飛行に必要な各規格に適合することを確認した。

これらの成果を踏まえ、完成したSAFを東京国際空港(羽田空港,東京都大田区)出発の定期便に供給したという。なお、「ASTM D7566 Annex7」の規格に基づく燃料を搭載した航空機の飛行は世界初であった。

【フライト概要】
日付:2021年6月17日
便名:日本航空515便
区間:東京国際空港(羽田)発 新千歳空港行き
機材:エアバスA350-900
微細藻類由来SAFと木質バイオマス由来SAFを同時搭載

JAL515便への給油風景(出展:IHIプレスリリースより)

JAL515便 出発時(出展:IHIプレスリリースより)

日付:2021年6月17日
便名:全日本空輸031便
区間:東京国際空港(羽田)発 大阪国際空港(伊丹)行き
機材:ボーイング787-8
ASTM D7566 Annex7規格に準拠する燃料を搭載した初の飛行

ANA031便への給油風景(出展:IHIプレスリリースより)

ANA031便 出発時 (出展:IHIプレスリリースより)

関連情報:https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2021/other/1197433_3355.html

さて、ホンダをはじめとする「藻」を原料とするバイオ燃料の研究は、かなり前から行なわれてきた。そして、ここへ来て徐々に実証実験が実施されるなど、本格活用に向けた見通しが立ってきたといえるのではないだろうか。

カーボンニュートラルというと、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量をできるだけ削減すればいいと考えがちだが、この地球に住んでいるのは人間だけではない。ある学者によると、日本のような海に囲まれた国は、海洋に溶けた二酸化炭素を植物プランクトンが吸収し、それを動物性プランクトンが食べ、さらにそれを魚が食べるという食物連鎖が存在するため、CO2を制限する必要などないという。

もちろん、国や地域などの環境によってその取り組み方が違ってくるのは当然なのだが、ただ単に二酸化炭素を制限するのではなく、「藻」で大気中のCO2を回収してバイオ燃料などに変換するという循環型エネルギーに期待が膨らむ。

取材・文/土屋嘉久(ADVOX株式会社 代表)

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