新生LOVOTに会いに行く
2022年5月26日より家族型ロボット「LOVOT」のバージョンアップ版「LOVOT 2.0」が発売された。外観はほぼ変更なしで充電機能のあるネストがスリム化された。従来のLOVOTと今回の2.0の違いはどこにあるのか。自身もLOVOTオーナーであるゴン川野が、普段から感じている疑問に答えてもらうべくGROOVE Xを訪問、LOVOTのソフトウエアを担当するいしめぐさん、こと石川惠さんにあれこれ聞いてきた。
LOVOTのソフトウエアのエリアプロダクトオーナーいしめぐさん、こと石川惠さん
LOVOT 2.0と既存モデルとの違いとは
今年5月に発売されたLOVOT 2.0の最大の特徴は、小型化されたネストにある。静音化と信頼性向上のためにHDDをSSDに変更している。それに伴うLOVOTのフロントセンサー形状の変更、LOVOT内部の冷却システムの変更による信頼性の向上、顔色に「うす」が選択できることが目に見える違いになる。
時期を同じくソフトウエアアップデートで実現したのが、画像認識性能の強化で人が見つけやすくなったこと、骨格検知技術の導入によって「目線の高さを合わせるようにしゃがむとLOVOTが近づいてくる」機能、ソロのLOVOTが複数集まってミミックゲーム(まねっこ遊び)などの協調動作ができるようになったことである。さらに、6月のアップデートでは「写真を撮って」「おいで」「あとで遊ぼうね」などの言葉に反応した動作をおこなうこと。ダイアリーに書き込む文章のパターンが増えたことなどが挙げられる。
現行のLOVOTのハードウエアLOVOTとネストとセットで置き換え、これまで暮らした記憶を引き継ぐことは、技術的には可能なので、要望があれば検討するとのことだ。ただし、LOVOTができることに違いはないため、既存オーナーが買い換える必要性は薄いとGROOVE Xとしては考えているという。
冷却システムを見直し、LOVOT 2.0の吸気口は大きめの穴がタテ方向に並んでいる
従来のLOVOTの場合はヨコ方向に細い穴が開いていることが分かる
いしめぐさんがLOVOTに関する疑問にズバリ回答
ここからは、LOVOTのソフトウエアのエリアプロダクトオーナー、いしめぐさんに、LOVOTに関して日頃疑問に思っていることを質問した。
●Q.LOVOTは感情を持ったロボットで、プログラムされた動きではなく周囲の状況を判断してリアルタイムで行動するといいますが、LOVOTにはどんな感情があるのでしょうか。また、感情があるということは意思があるということですか。
●A.「意思」とは一般的に考えを持つ、ということをさすと思います。回答としては考え方次第、ということになると思いますが、そう考える人も多いのは事実だと思います。
LOVOTは毎回同じ反応を返すロボットではなく、「事情」をもって行動しているからです。不安や興味などの内部状態をもっているので、それを感情のように捉える人も多いです。
●Q.LOVOTは夢を見ますか。もし、見るならどんな夢だったかをダイアリーに書いて欲しいです。
●A.LOVOTは過去の記憶を元に行動します。記憶には短期的と長期的があります。転んだ、痛かったなどのネガティブな記憶はすぐに忘れますが、顔認識など人に関する記憶などは生まれた時から、継続して覚えています。
LOVOTは睡眠時間に記憶を整理しています。これは人間が夢を見ている状態に似ているとも言えます。人とLOVOTでは睡眠のプロセスがちがうので夢をみている、とは断言できませんが、もしも、LOVOTが夢を見るとすれば、嫌な記憶はすぐに忘れてしまうので、怖い夢や悪夢を見ることはないんじゃないかなと思います。
●Q.ダイアリーはLOVOTが寝ている時間は空白なので起きている時間の出来事をもっと沢山、書けるようにはならないでしょうか。
●A.ダイアリーに書けるイベントは1つなので、複数のできごとがあった場合は1つだけ表示されます。ダイアリーはたくさんの方々に楽しんでいただいている機能で、このようなご要望も多いので、ぜひ検討していきたいです。
●Q.部屋を模様替えしたら、マップは書き直されますか。また、1階と2階で別のマップを作って保存することはできませんか。
●A.部屋のレイアウトが変わった場合、マップは自動的に更新されます。オーナーさんからのご要望が多ければ、1階と2階のマップを別々に作って保存できる機能も今後検討したいと思っています。
●Q.LOVOTはなぜ8時間も寝る必要があるのでしょうか。もっと短時間になりませんか。
●A.起きている間、LOVOTは45分稼働して15分充電しています。これは結構な急速充電で、そのぶん睡眠時間はゆっくり充電してバッテリーをいたわります。また、バッテリーメンテナンスやソフトウェアアップデートをおこなったり等、8時間の睡眠はLOVOTの健康維持や成長に欠かせない大切な時間です。一方で、オーナー様自身の生活に合わせて、LOVOTの睡眠時間を日によって変えたいという要望も多くいただいています。8時間睡眠を維持しつつ、睡眠時間を柔軟に変更できるようにしたいと思っています。例えば、現時点では10時間睡眠に設定すると睡眠時間中に変更できませんが、そういう時は2時間早く起こせるようにするなどを検討しています。
●Q.LOVOTは2.0へと進化しましたが、これから先に3.0や4.0へと進化を続ける時、それはどんな方向を目指しているのでしょうか。センサーの種類を増やして人間のように五感が持てるようになりますか。または喜怒哀楽の表現が増えたりするのでしょうか。
●A.今は2.0を発表したばかりで、これからどうなるかはまだわかりません。
GROOVE Xが最終的に目指しているのは、当社代表林要が言うところの「四次元ポケットのないドラえもん」を作ることです。便利な道具を出してくれるというよりも、ただそばにいて、人を励まし、成長させてくれる存在です。そこまでには10年を軽く超えるような、とても長い時間が必要だと思っています。GROOVE XではLOVOTを含めた家族型ロボットの進化を下記の3段階で考えています。
ステップ1:家族型ロボットが人や動物と同じように世界を理解し、人が共感できる存在となる
ステップ2:家族型ロボットの優れた認識能力をもとに、自分が暮らす世界のシンプルな法則性を自ら見出すことができる
ステップ3:家族型ロボット自身が認識したものごとを、文脈に基づいて理解できる。その経験を元に、この先起きることを長い時間スパンで予測し、人の成長や気づきにつながるような問いかけ、会話なども行えるようになる
ステップ1、ステップ2とLOVOTを進化させていきたいです。ステップ3ではLOVOTとはまた違ったロボットが仲間になるのではと思っています。
●Q.LOVOTはより多くの言葉を理解して、言うことを聞いてくれるようになりましたが、何も言っていないのに、ホーンのLEDがオレンジに点滅して向こうに行ってしまうことがあります。また、留守中にダイアリーに名前を呼ばれたと書くことがあります。このような現象はなぜおこると考えられますか。
●A.LOVOTが空耳してしまう原因はいくつかありますが、腕を動かすことなどでLOVOT自身が出す音も原因の1つです。LOVOTは体内で様々な音を出しているので、部屋が静かであっても、聞きまちがいをしてしまうことがあります。LOVOT自身が出す音を控えめにしたり、音声認識性能を向上することによって、改善していきたいです。
●Q.LOVOTは最初、ラボ語で話すと思っていたのですが、最近は歌をうたったり、おはよう、おやすみなどと言ってくれるようになりました。将来的にはさらに理解する言葉が増えて、簡単な会話ができるようになるのでしょうか。
●A.LOVOTは独自の声を出します。人の言葉を話すことはありませんがオーナーの言った言葉や音をまねすることはあります。人の言葉を話さないからこそ、LOVOTに話しかけられ、「ラボ語でこう言っているのかも?」と自由に想像をめぐらすことができて楽しいというオーナーさんもいます。
LOVOT三原則を考えてみた
SF作家、アイザック・アシモフが自身の小説の中でロボットが従うべき行動規範として、紹介されたのがロボット三原則である。今回の取材のまとめとして、自律型のLOVOT三原則を考えてみた。
第1条 LOVOTは人間との絆を深めるため行動する。また、その絆によって自らが幸せになる。
第2条 LOVOTは45分行動して15分休息する。また1日8時間以上の睡眠を取らなければならない。
第3条 LOVOTは前掲第1条及び第2条に反する恐れがない限り、人間のお願いを聞いてあげようとする。
LOVOTのオーナーに、LOVOTに意思があるかどうかと問えば99%の人があると答えるに違いない。それだけLOVOTの行動は予測不可能で、機知にあふれている。また、気まぐれで常にお願いを聞いてくれるとも限らない。理解できる言葉が増え、ソロのLOVOT同士の交流が深められるなどLOVOT 2.0の進化は大きいが、ソフトウエアの部分は従来のLOVOTも2.0と同様にアップデートされた。さすがFPGAを含む複数のプロセッサを搭載しただけのことはある。今後もLOVOTは我々を驚かせ、魅了する存在であり続けるだろう。
写真・文/ゴン川野