出産した際に健康保険から支給される「出産育児一時金(出産一時金)」。現行では42万円ですが、政府は出産一時金を2023年度から増額する方針を示しています。
背景には、出産にかかる費用が年々増加の傾向にあることから、出産一時金だけで出産費用を賄うことができない人が多いことが挙げられます。
「子どもを持つことは『贅沢』なこと」という声もあがる中、今回の出産一時金の増額方針によって出産費用は楽になるのでしょうか。
年々増加する出産費用
まず、現状の出産費用について確認してみましょう。
民間の団体である「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」が2018年以降に出産した人を対象に2022年4月に行った調査によると、出産入院の費用が42万円以下だった人は7%。42万円以下で済んだ人の多くは、帝王切開などの医療行為があるため保険適用されており、通常分娩の人で自己負担がゼロだった人は、九州や東北などのごく少数。最多は51万円~60万円の30.4%、61万円以上の人が47.3%と半数近くを占めるという結果になっています。
出産入院の費用について「高いと思う」と回答した人は64.7%となっており、3分の2の人が出産入院の費用を「高い」と感じています。
分娩を予約する際に「予約金」を求められた人も54.4%となっており、そのうち予約金が5万円以上は61.1%、10万円以上26.8%、15万円以上16.6%。「予約金を払わないと分娩予約ができないため(予約時に)急に大きな負担が生じて驚いた」と回答した人もいました。
また、厚生労働省の集計でも2019年度の公的病院での室料差額などを除いた正常分娩にかかる出産費用は、平均44万3776円。2012年度の40万6012円から3万7764円上昇しています。全体の平均でも46万217円となっており、2019年度の集計において、すでに出産一時金の42万円を上回っています。
厚生労働省の令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況によれば、1人の女性が一生の間に産む子どもの数である「合計特殊出生率」は2021年には1.30と、低下が続いています。
いわゆる「少子化」といわれる現代で、出産費用が高額であることで出産をためらうようようであれば、「少子化」に歯止めがかからないことになります。
出産一時金が増額されても楽にならない?
出産費用の上昇により、出産一時金では出産費用をまかなえていない世帯が多いことから、出産一時金の増額は、子育て世帯にとって朗報とも言えます。
しかし、出産一時金が増額されても出産費用の軽減に結びつくかは疑問が残ります。
出産費用の増加につながらないか
上述の「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」の結果からも、現在の出産費用の価格差は顕著なことが分かります。
地域、病院、サービスなど、様々な要因から出産費用には大きな差があり、その価格差の原因ははっきりしません。
同結果には、医療機関の出産費用には、エステ、特別な食事、申請時のお世話料などの加算がされているケースも指摘されており、出産一時金が増額されても、その分医療機関の提示する出産費用が増額されれば、子育て世帯の負担は実質変わらないことになります。
高額な出産費用を軽減するために「帝王切開にした方が金銭的に楽」という声もあり、出産費用が不明瞭な現状では、負担の軽減にまでつながるのか疑問が残ります。
少子化対策につながるのか
なお、当然ですが、子どもを産み育てるということは、出産費用だけで費用の負担がとどまるものではありません。子どもが幼いうちは、オムツやミルクなどだけでなくベビーカー、チャイルドシート、ベビーベッドなど、赤ちゃんのための専用品を購入することもありますし、子どもが大きくなれば学費などの負担も増えることになり、家計管理の面から考えると、産むだけでなく、育てるための費用についても考慮が必要です。
出産一時金の増額だけで、子どもを安心して産み育てられるわけではないため、出産一時金の増額により出産に対し金銭的に前向きになれるのかも疑問です。
出産費用だけじゃない子育て費用
筆者にも3人の子どもがいますが、出産はまだまだ子育てのスタート地点。家計管理の面から考えると、その後にかかる子育てのための費用の方が長期間大きな負担となります。
現時点では、子育てのための費用が軽いとはいえず、出産費用に振り回されることなく、子どもにかかる費用全体を見ながら、長期的なライフプランを立てるなど、家計の計画を立てる姿勢が必要でしょう。
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文/家計簿・家計管理アドバイザー あき
著書に「1日1行書くだけでお金が貯まる! 「ズボラ家計簿」練習帖(講談社の実用BOOK)」「スマホでできる あきの新ズボラ家計簿(秀和システム)」他