【短期集中連載:Vol.1】 カジノ&ギャンブルの深層 ギャンブルって諸悪の根源?
ナマステ&はじめまして。カジノライターのかじのみみです。
カジノ、ゲーミング、ギャンブル関連業歴31年の筆者が、今回から10回にわたり、海外ギャンブルの歴史や逸話等にふれながら、
「カジノとは? ギャンブルってなに?」についてほんの少しだけ掘り下げお届けしていきます。
ギャンブルは悪か? 正当性のあるものか? あるいは、その両方なのか…?
第1回目のテーマは、「カジノとは? カジノの豆知識とドストエフスキーのルーレットギャンブル」です。
そもそも、カジノとは一体なんなのだろう?
ギャンブルは「諸悪の根源」である。
今から約20年前、筆者がカジノイベントでディーラー業やゲームの企画運営に携わっていたとき、何気なくめくった冊子の中でこの言葉を目にした。
その瞬間、なにやら陰湿で薄暗く、じめじめとした、後ろめたいような感情が身体の中を駆け巡った。まるで言葉のマウンティングを受けたような感覚に包まれたのだ。とても嫌な気分であった。
この負の感情を追いやるために、国内外のカジノ関連業務に没頭し、10年程前からは IRカジノ誘致におけるロビー活動に尽力し、「ギャンブル或いはカジノゲームはエンタテイメントのひとつです」と明るい部分だけを強調して啓蒙活動に励んだが、その言葉の持つ罪悪感的な思いを完全に拭いきることはできなかった。それ以来、ギャンブルの諸悪の根源探しの旅に出かけている。
ギャンブルは諸悪の根源なのだろうか? ギャンブルが “根っこ”から悪なのであれば、なぜギャンブルは紀元前から現在に至るまで世界で愛され続けているのだろう?
カジノ施設においては、世界の約140ヵ国で合法化されていると言われて久しいが、それらの国々は「諸悪の根源」を容認しているということになるのだろうか。そもそも、カジノとは一体なんなのだろう?
カジノの語源はイタリア語の「小さな家」(カーサ)に由来しており、別荘などの意味が含まれている。今から数百年前、欧州の王侯貴族たちは自分の別荘や保養地でパーティを開き、客人をもてなす「コンテンツ」の一つとしてカードゲームやルーレットを導入した。ザックリと、これがカジノの始まりである。
14世紀の後半、イタリア・ベニスの港町では既にカードゲーム・ギャンブルが流行していたが、世界で最初にオープンしたカジノ施設として名高いのは1638年に設立されたリドット、現在のカジノ・ディ・ヴェネチアである。
1638年というのは、日本では江戸時代で、第3代将軍・徳川家光の頃である。日本列島ではちょんまげを結い、江戸幕府が諸大名に対して参勤交代の制度を導入していた頃、イタリア・ベニスの貴族や商人たちは、政府が認めたギャンブル施設で近隣諸国の人々と交流し、商業に励んでいたようである。
ちょんまげ、カジノ・・・同じ時代でも、場所と文化が違えば、目の前に広がる世界は大きく異なって見えたことだろう。
さて、カジノヴェネチアは世界で初の政府公認かつ富裕層と一般向けの両方にオープンした「サロンタイプ」のカジノとして名を馳せているため、ご存知の方も多いだろう。
同カジノには、カードルームから食事を提供する場所、サッカーの試合を見るスペースなど顧客の要望に合わせた部屋がいくつも用意されていた。
筆者がここを訪れた2006年時の感想としては、程よい広さでゆったりとしたサロンスペースは少人数で過ごすクオリティ時間には打ってつけの場所のように思えた。入場にはドレスコードがあり、大人の夜時間を満喫できる威厳のある施設であった。カジノのプレーヤーは観光客よりも地元の人々が多かったように思う。ギャンブルには参加をしていない顧客が2,3名、テレビモニターのサッカーの試合に熱中をしていた。
カジノヴェネチアの他にも欧州には歴史のあるカジノ施設が数多く存在するが、欧州カジノの代表的なゲームにヨーロピアンルーレットがある。遊び方は、カジノディーラーがルーレットウィールに投げ入れたボールが落ちた数字が当たりといったシンプルな点が特徴だ。このゲームが初心者から経験者まで人気を博している理由の一つと言えよう。
ドストエフスキーもハマったルーレットの魔力
言葉がわからなくても賭け方を知らなくても参加できるギャンブルゲーム、ルーレット。
かの有名なロシア人作家「ドストエフスキー」は、ドイツのヴィスバーデンやカジノバーデンバーデンでルーレットに「ハマッて」しまった!
ドストエフスキーの著書『賭博者』(ギャンブラー)は、同氏がドイツのカジノに通っていた翌年に、ライン川のほとりにある架空の都市の物語として発表されたギャンブル本である。架空の物語ではあるものの、同作品の中で描かれた庭園からカジノへと続く道は実際にドイツにあるカジノを彷彿させる。主人公同様、彼はカジノに入り浸っていた。
ドストエフスキーのカジノでの逸話は数々残されているが、彼がいかにルーレットに魅了されていたかは『賭博者』(ギャンブラー)からもヒシヒシと伝わってくる。ルーレット台にせっせと足を運んでしまう主人公の思考のクセに共感すると同時に一抹のやるせなさを感じてしまうのは筆者だけではないだろう。
人間の未熟な部分。心の闇・・・ 行動を起こす、起こさないにかかわらず、コントロールされた実社会の中ではギャンブルにかかわらず、愚行に対する憧れが人々の心の中に潜んでいるのかもしれない。
『ドストエフスキーがハマった ルーレット バーデンバーデンカジノ』
取材・文/かじのみみ
カジノライター/ カジノコンサルタント
カジノ・IR・ゲーミング業歴31年。カジノディーラー歴25年。10歳から15歳までインドのボンベイで育つ。2001年、米ラスベガスのPCIディーラーズスクールにて日本人初としてブラックジャック・ルーレット・バカラのディーラーライセンス取得。国内カジノメーカーでの広報・カジノイベント企画運営責任者、米系大手カジノ事業主のVIPマーケティング業を得て、2013年8月フリーとなる。2012年 立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科(MBA)修士課程修了。2019年 マカオ大学 グローバルリーダーシップ育成プログラム 国際統合型リゾート経営管理学(IIRM) 修了。