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年間総電量とほぼ同等のエネルギーとしての「熱」が捨てられている実態と解決策

2022.07.29

製造業や発電所では、日々、燃料の燃焼によって熱エネルギーが発生している。しかし、そのうちの多く放出され、そのまま失われている。この熱エネルギーの損失は、意外と大きいといわれている。見過ごされがちだが、その廃熱を給湯や暖房などへの利用を可能にする技術に期待がかかっている。

廃熱をエネルギーに変える仕組みは、SDGsに貢献するものだ。その仕組みとともに、どのように貢献するのかを探る。

見落とされているエネルギーとしての「熱」

日々、年間総電量とほぼ同等のエネルギーとしての「熱」が捨てられているという事実がある。

日本では、一次エネルギーから電力・燃料などに変換・輸送・貯蔵する過程で、その3~4割が熱として失われていることが分かっている。さらに、最終エネルギーの消費まで含めると6~7割が熱として失われているという(出典:国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)。

一次エネルギーの9割を輸入に頼る日本にとっては、大きな損失といえる。

この熱エネルギーロスの削減は、日本が2050年までにGHG(温熱効果ガス)排出実質ゼロを目指すうえでも重要な課題となっている。今後、“熱”をエネルギーとして見直す必要があると考えられる。

廃熱をエネルギーに変える「コージェネレーションシステム」

その廃熱をエネルギーに変える機器に「コージェネレーションシステム」というものがある。

簡単に言えば、発電した際に発生する廃熱を、何らかの方法で活用できるようにするシステムの総称だ。

コージェネレーションシステムの仕組み(提供:パナソニック空質空調社)

通常、発電拠点から生じる熱エネルギーは、利用したい場所が遠隔地であれば運ぶことができないため、発電時に排出される熱の約6割は利用されずに廃熱となってしまう。しかし、利用したい場所の近くで発電を行うコージェネレーションシステムであれば、熱を廃棄せずに利用することが可能になる。

●コージェネレーションシステムのメリット

コージェネレーションシステムは、次のようなメリットも得られる。

・エネルギー効率アップ
・環境負荷低減
・電力系統に万が一の事故が起きた場合も、エネルギー供給を継続できるため、非常時対応や事業継続に役立つ

●コージェネレーションシステムの活用分野

コージェネレーションシステムなどによって変換された廃熱エネルギーは、具体的にどのような分野で活用されているのだろうか。パナソニック株式会社 空質空調社に聞いた。

回答するのは、空調冷熱ソリューションズ事業部 業務用空調ビジネスユニット 分散型エネルギー事業推進室室長の榎本英一氏と、同室所属の小川凌平氏だ。

「廃熱はまず蒸気や温水として回収し、工場での加熱源、暖房熱源、給湯熱源として活用されています。またナチュラルチラー(吸収式冷凍機)を用いることで冷水に変換し冷房熱源として活用されています。このような使い方は、工場だけでなく、病院などの医療福祉施設、官公庁庁舎ビルなどでも実現できます」

ナチュラルチラーで冷房に必要な冷水を作る

このコージェネレーションシステムと「ナチュラルチラー」を組み合わせることで、効率的に業務用の冷房が利用できるという。

ナチュラルチラーとは、吸収式冷凍機のことで、簡単に言えば、廃熱を冷房用の冷水に変換できる機械を指す。ちょうど、暑い日に打ち水をすると、水の蒸発と共に周囲の熱を奪って涼しくなるのと同じ原理を利用する。

真空中で水を低温蒸発させ、冷水の熱を奪うことで冷却し、冷房に必要な冷水をつくる。自然界に存在する“水”を冷媒としているので、地球温暖化への影響がなく、フロン排出抑制法による点検義務がないという特徴があるという。

ナチュラルチラーの仕組み(提供:パナソニック空質空調社)

「Fシリーズ 超省エネルギー CP型ジェネリンク」(提供:パナソニック空質空調社)

●ナチュラルチラーのメリット

メリットとして、コスト削減、熱効率の最大化に貢献する見込みがあるという。榎本氏と小川氏は次のように解説する。

「従来、ナチュラルチラーでは、天然ガスの燃焼熱などを使用して冷水を作ってきました。

一方で、廃熱をナチュラルチラーの熱源に利用して冷水を作る場合に、冷水を作る過程で、まず廃熱から作った温水(廃温水)の熱で、吸収液を加熱濃縮して、冷水を作ることができます。そして、その廃温水の熱を使って、冷水を作る能力が足りない場合のみ、天然ガスの燃焼熱を利用する形を取ります。

つまり、天然ガスの使用量を減らすことができる見込みがあり、これがコスト削減に寄与します。また廃熱を利用し尽くすことで、投入したエネルギーを放熱させずに使い切ることからも、エネルギー効率の最大化に寄与します」

熱をエネルギーに変えることはSDGsにどのように貢献するか

コージェネレーションシステムやナチュラルチラーで廃熱をエネルギーに変えることは、さまざまなメリットを生み出すことが分かった。これにより、SGDs(持続可能な開発目標)の各ゴールへどのように貢献するのだろうか。榎本氏と小川氏に、該当するゴールを示してもらった。

ゴール7「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」

「捨てられている熱をエネルギー資源に変えることで、投入するエネルギーを減らすことができ、低炭素化に貢献します。再生可能エネルギーの一つであるバイオマス熱利用にも貢献できます」

ゴール13「気候変動に具体的な対策を」

「熱を資源に変えることで、エネルギーの使用量を減らすことができ、気候変動に影響を及ぼす温室効果ガスの削減につながります」

ゴール15「陸の豊かさも守ろう」

「森林を守るために、バイオマス循環社会を作ることが必要です。一例として『バイオマスコージェネ(コージェネレーションシステム)』があります。これは木質廃材や間伐材、廃棄物などをボイラーで燃焼させ、コージェネレーションによる熱電供給を行うものです。発生した熱を捨ててしまうことなく、エネルギーに変えて活用するため、森林活用が進み、持続的に森林が守られます」

ゴール11「住み続けられるまちづくりを」

「地震などの災害で停電が起きても、ガスやバイオマスを使ってその場で電気を作ることができるコージェネレーションシステムがあれば、電気とその発電の際の廃熱を使って、給湯などに利用できます。またその熱を、ナチュラルチラーと組み合わせて使うことで、ほとんど電力を使用せずに、施設を冷房することが可能になります。

通常、空調には電気を使用しますが、ほとんど電気を使用せずに冷房ができるので、作った電気は他の必要電源として、より有効利用することができます」

熱のエネルギーは今、我々の目に見えないところで有効活用されはじめている。しかしまだまだ広く知られていないのも事実だ。SDGsへの貢献と共に、災害時などのいざというときの備えにもなる。こうしたシステムが増えることで安心感が生まれそうだ。

パナソニック株式会社 空質空調社

取材・文/石原亜香利

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