IoT(モノのインターネット)の広がりによって、分散型ネットワークの一種である『エッジコンピューティング』が注目されるようになりました。聞きなじみのない人に向けて、エッジコンピューティングの基本知識や導入のメリット・活用例を解説します。
エッジコンピューティングとは?
IoTが幅広い分野で活用されるようになったことで、データの処理を安定化・高速化できる『エッジコンピューティング』の技術が注目されています。
ただ、用語としては聞いたことがあっても、どのような技術なのか知らない人も多いのではないでしょうか? まずはエッジコンピューティングの概要から理解しておきましょう。
分散型ネットワーク技術の一種
エッジコンピューティング(Edge Computing)とは、コンピューターの周辺でデータ処理を行うネットワーク技術を指します。『エッジ(Edge)』は『刃』の他に『端』や『縁』という意味があり、そこから派生して『周縁』や『周辺』も指すようになりました。
システムの周辺にデータ処理をするためのサーバーを設置することで、通信やシステムの安定的な稼働を実現できるのが『エッジコンピューティング』と呼ばれる技術です。
近年はさまざまな分野でIoTの導入・利用が進むに伴い、安定的かつ高速なデータ処理が求められるようになりました。その一環として分散型ネットワークの一種であるエッジコンピューティングが注目されるようになり、さまざまな分野で導入が広まっています。
そもそもIoTとは?
IoT(Internet of Things)とは『モノのインターネット』とも呼ばれ、あらゆるモノ(機械)がインターネット経由で通信できることを示した概念です。例えば、テレビやデジタルカメラ・冷蔵庫などの製品の中にも、近年はインターネットに接続できるものが登場しています。
数多くの製品がインターネットに接続可能になったことで、サーバー上でデータをまとめて処理・連携できるようになりました。連携したデータをもとに、さまざまなサービスや機能を提供しています。
例えば、外出先からスマートフォンで自宅の照明・エアコンを操作できるようになったのは、IoTが進歩した功績といえるでしょう。
エッジコンピューティングの仕組み
エッジコンピューティングは、現在主流となっているクラウド環境でのデータ処理に対して、IoTデバイスやその周辺に設置したサーバーが処理を実行する仕組みになっています。
ユーザーの近くにデータ処理を担うサーバーを設置することで、ネットワークの安定した稼働を実現しているのです。具体的なシステム構成はデバイスの性質や通信環境によってさまざまですが、共通しているのはデバイスやその周辺のサーバーでデータの加工・処理を実行している点です。
必要なデータのみをクラウド環境で通信させることで、クラウドベースのネットワークで問題になる通信の遅延時間を短縮し、リアルタイムの通信を可能にしています。
エッジコンピューティング導入のメリット
エッジコンピューティングを導入するメリットは、通信の安定化です。では、どのような効果が通信を安定させることにつながるのでしょうか?より具体的に仕組みを見ていきましょう。
低レイテンシの実現
エッジコンピューティング導入のメリットとして大きいのは、ネットワークのレイテンシ(通信の遅延時間)を軽減できる点です。エッジコンピューティングでは端末に近い場所でデータの処理を行うため、全ての処理をクラウドサーバーで実行する場合に比べて低レイテンシを実現できます。
さまざまな場所に設置されたIoT機器のデータをクラウドに集約し、そこで処理を実行するとなると、どうしても遅延が発生してしまうでしょう。
機器によっては、わずかな動作の遅れなら気にならないかもしれません。とはいえ、工場・企業で使用されるIoT機器には即時性が求められるものも多いため、リアルタイムに処理を実行できるエッジコンピューティングが必要不可欠になりつつあります。
ネットワークにかかる負荷の軽減
全てのデータをクラウド環境で扱う必要がなくなり、恒常的にネットワークの負荷を軽減できるのもエッジコンピューティングのメリットです。
エッジコンピューティングでは、デバイスの周辺に設置したサーバー(エッジサーバー)が主にデータの処理を担当し、加工済みのデータのみをクラウド環境に送信します。クラウドへの通信量が大幅に少なくなることで、ネットワークの負荷を軽減できるのです。
毎月の通信コストを抑えられるのも、企業にとってはメリットが大きいでしょう。
セキュリティリスクの低減
エッジサーバーでデータ処理を済ませれば、クラウド環境と逐一データをやり取りする必要がなくなります。結果としてセキュリティ上のリスクが低減されるのも、エッジコンピューティングのメリットです。
特に社外秘の機密データを扱うなら、セキュリティの観点からクラウドに送り出したくない場合もあります。エッジサーバーとクラウドサーバーとで取り扱う情報を分ければ、クラウド偏重のデータ運用に比べて高いセキュリティレベルを実現できるでしょう。
もちろんエッジサーバーで機密データを取り扱ったとしても、盲目的に安全だと考えるのは危険です。ただ、クラウド環境に送信しても問題ない形にデータを変換できれば、情報漏えいのリスクは大幅に減ります。
エッジコンピューティング導入の背景
エッジコンピューティングが各方面で注目されるようになった背景について、掘り下げて理解しておきましょう。現在主流となっているクラウドの問題点が露呈してきた点や、IoTの普及による高速データ通信の必要性などが挙げられます。
「クラウド」の問題点や課題の露呈
エッジコンピューティングの概念が注目される以前は、クラウドにあらゆるものを集約するのが理想とされていました。現状、企業のさまざまな業務データがクラウド環境でやり取りされています。
特に近年はテレワークを導入する企業が増えているので、今後もクラウドネットワークが重視される状況は続くでしょう。
しかし、クラウド重視のネットワークは、通信環境に大きく左右されるのが実態です。クラウドだけでは安定したシステム運用が難しいと考える企業も増えてきました。
そこでデータ処理の一部をエッジサーバーに担当させる、エッジコンピューティングの重要性が認識され始めているのです。
IoTの普及による高速データ処理の必要性
さまざまなIoT機器が普及したことで、膨大なデータを高速で処理したいというニーズが出てきたのも、エッジコンピューティングが注目されるようになった大きな理由です。
クラウド環境で全てのデータを処理するとなると、どうしてもネットワークに大きな負荷がかかってしまいます。通信の遅延が致命的な問題につながるシーンも少なくありません。
常にリアルタイムの通信を可能にするために、よりシステムに近い場所でデータを高速処理できる環境が求められています。
今後はさらに、IoT機器やIoT関連のサービスが登場するでしょう。それに伴ってエッジコンピューティングの需要も一層高まると考えられます。